終章:最期のときまであなたを想う
夢小説設定
この小説の夢小説設定日本人とイギリス人のハーフ、という設定ですので、ミドルネーム(名字(日)の部分)が存在します。
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あれから、週を追うごとに体調は悪化していった。
疲れやすくなったのを始め、刀も強く握れなくなってきた。
鎮静薬で吸血衝動は抑えているけど、週1回だった吸血衝動は、不定期になり、いつ衝動に襲われるかわからない状況だ。
週に2度来ることもあれば、2週間音沙汰がないこともある。
「んん……」
睡眠時間はどんどん短くなり、日中に目眩が起こることも増え、頭痛が収まらなくなった。
「エリィ、起きてるのか?」
「ああ、原田か……」
最近は布団から起き上がることも、辛くなってきた。
「そのままでいい、無理するな」
「いや、1日中動かないのは良くないから……」
私が起き上がるのを、原田が手を添えて支えてくれる。
「ありがとう」
「……大丈夫か?」
「あはは。この状態で大丈夫と言っても、信じてもらえないな」
原田は何とも言えない顔になる。
「そんな顔するな。もうしばらくしたら、だんだん良くなるから」
嘘だけど。
「そう、なのか?」
「ああ。山南とも今の状態について話し合ってるし、そのうち良くなるよ」
「それならいいんだが……」
「今日はまた巡察?」
「いや、隊士達と訓練だ」
「そうか。怪我に気をつけて、いってらっしゃい」
「……ああ」
原田はまだ心配そうに見ていたが、仕事に戻って行った。
原田の足音が完全に聞こえなくなったところで、私は原田と山南が用意してくれた杖を使って立ち上がり、山南の元へ向かった。
「っく、ん、よいしょ……」
杖を支えにしながら、精一杯歩く。
これは、歩くとは言えないかもしれないけど。
「あれ」
「!……なんだ、沖田か」
「なあにその反応。失礼じゃない?」
「いや、いい意味だよ。なあ、1つ情報を教えるから、山南の部屋まで肩を貸してくれないか」
「情報?」
「そう、情報。そこまで肩を貸してくれる分くらいの価値の情報だ」
「へえ。まあ面白そうだからいいけど」
沖田に支えてもらいながら山南の部屋に辿り着く。
「君、軽すぎじゃない?左之さんも気が気じゃないだろうね」
「はは、褒め言葉として受け取るよ」
襖を開けて、山南が用意してくれた座布団の上に座らせてくれる。
「情報な。変若水は病には効かない」
「!」
最近、沖田もどんどん体調を崩してる。
それこそ、羅刹の治癒力に頼りたくなるほどに。
「へえ……そう。まあ、運んだくらいじゃあその程度だよね」
沖田はそれだけ言って、去っていった。
「急に押しかけてすまない」
「いいえ。ですが、誰かに言伝してもらえれば、私から伺いましたよ?」
「いや、誰にもバレたくなくて」
「……何か、考えていることが?」
「ああ。私に変若水を分けてほしい」
それを思いついたのは、本当に何でもない時だった。
そういえば、変若水は西洋の鬼の血から作られたエリクサーを元にしていると聞いたなと、ふとその話を思い出した。
それならば、誰かの血を飲まなくとも、今の枯渇状態の体に変若水を流し込めば、一時的な誤魔化しができるのではないかと考えた。
「なるほど……。ただこの変若水はえりくさあとは異なりますので、効果の程はなんとも……」
それに、と山南は続ける。
「一時的な誤魔化しをして、どうなさるつもりです?」
「はは。そこは聞かないで。山南に責任持たせたくないし」
「……」
「山南がいてくれたおかげで、薬もどんどん良くできた。やっぱり羅刹は救えなさそうだけど……それでも、私や藤堂は救われてる。ありがとう」
「そんな今生の別れのような……」
「うん。今生の別れだ。お互いたぶんもう長くないだろう?」
「……なるほど。そういうことですか。意志は固いようですね」
「ああ。すまない」
「それは、原田くんに言ってください」
「……うん、そうだな。いや、謝る資格も、私にはないかもしれない」
こんな身勝手に、一方的に、共に生きることを諦めてしまって。
「私は元々、羅刹に関する研究要員として生かされていたし、山南が頑張っている今、私はもうここにいなくてもいいからな」
「そんなことはありませんよ」
「……ありがとう」
山南は、少し寂しそうな顔をしながら、変若水を渡してくれた。
そして私に肩を貸し、部屋まで送ってくれた。
「ありがとう、本当に。お互いよく生きて、安らかに眠ろうな」
山南は頷かなかった。
いつもの静かな笑みをたたえて、私の部屋を去っていった。
「山南さんが来てたのか?」
稽古から戻った原田が、怪訝そうに山南の背を見送る。
「ああ」
「もしかして……本当に、良くなるのか?」
「ふふ、私の言うことを信じていなかったのか?」
「いや、そういうわけじゃあないが……」
原田は慌てて弁解しようとするが、まあいつまでもこんな状態でいれば、信用もできなくなるだろう。
「なあ、少し話をしないか?」
その日の夜は、珍しく遅くまで起きて原田と話をしていた。
他愛もない、日常の話を。……最期だから。
その翌日、私は変若水を飲んで一時的に身体能力を回復させ、新撰組の屯所を抜け出した。
「お世話になりました」と、山南に教わった字を書き残して。