終章:最期のときまであなたを想う
夢小説設定
この小説の夢小説設定日本人とイギリス人のハーフ、という設定ですので、ミドルネーム(名字(日)の部分)が存在します。
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仲間が欠けても、時代は移ろうし、新選組は止まらない。
斎藤はすぐ任務を終えて帰ってくるかと思ったが、なかなか帰ってこなかった。
しかし一度だけ、千鶴が熱を出した時に帰ってきていたようだった。
千鶴にも、少し会っていたみたいだ。
まあこれは、あんまり言わない方がいいのだが。
「エリィ、いるか?」
「原田か、どうぞ」
この頃、幹部が減ったこともあって、私専用の部屋が作られていた。
吸血衝動の時も大丈夫なように、皆の部屋からは少し離れた位置にある部屋。
「このところ吸血衝動がきてないだろう」
「ああ、そういえば……」
私はハッとした。
今まで、吸血衝動の時期を忘れて過ごしたことなんてなかった。
私は、いつの間にこんなにボケてしまったのか。
「手を貸せ」
「あ、ああ」
「……少し冷たいな。体調に異変を感じたら、すぐ連絡しろよ」
「……ありがとう……」
人に紛れて、人のように食事をし、吸血衝動を忘れて過ごす、なんて。
「?エリィ?」
生き血を啜って生きてきた私が。
何食わぬ顔で、こんなに穏やかに暮らしている。
「……ぁ……」
「大丈夫か?」
いや違う。こんなのは人間が考えることだ。
吸血鬼にとって吸血は不可欠。
人が肉や魚を食らうように、吸血鬼は血を吸わなければ生きていけない。
仕方のないこと。
「仕方ない……?」
なぜこんな思考をしているのか。
いつからこんな罪悪感を感じるようになったのか。
「……まるで、」
まるで、人間のようだ。
「っ……」
ああ、頭が痛い。
私はたまらず頭を抱えて蹲る。
「おい、エリィ!?」
どうして、いつから、こんな。
「……っ」
視界が滲む。
頬を水が伝う。
何だ、泣いているのか、私は?
「!」
原田が私の腕を引き、胸に抱き寄せる。
「は、はは……」
親が死んだ時さえ泣かなかった私が?
貧しい人間から生き血を取った時も胸が痛まなかった私が?
「……私、は」
原田が優しく私の背を撫でる。
「エリィ?」
「……いつから、こんなに弱くっ」
私の口は原田によって塞がれる。
「ん、」
突然のことに、思考が引き戻される。
「は、はらだっ」
「ん、」
「!んぅ……」
原田の背を叩いても、しばらく解放してもらえなかった。
それから何度かキスされ続け、ようやく私は落ち着いて呼吸ができた。
「な、なんで……!?」
「不躾な真似をして悪かったな。それ以上喋らせたら、悪い方向に行きそうでよ。黙らせる方法は、これしか思いつかなかった」
原田のおかげか、少し冷静になった気がする。
「……すまな、」
「違うだろ、エリィ」
「え、あ……ありがとう」
「おう」
「………………はあ、なんであんたには全部わかっちゃうんだろうな」
「そりゃあ、ここにいる誰よりもお前を愛してるからだろ」
「愛、ね。そうか。愛ってのは本当にすごいな」
原田はいつものように優しい笑みをたたえている。
「で、お前は何でそんなに追い詰められてるんだ?」
「!」
「話したくねえなら話さなくていいけどよ。人に話した方が、気持ちも軽くなるかもしれねえだろ」
原田にならいいか。
そう思って私は、吸血衝動を忘れていたことや、これまで私がしてきたこと、今幸せなのは良いことなのか、思っていることを全て話した。
人間のように生きていて、滑稽に感じることも。
話しているうちに、だんだんと自分の中でも整理がついてきた。
「俺は吸血鬼じゃねえから、お前の気持ちを完全にわかってやることはできねえ。でもな、お前の口から『今が幸せだ』って聞けて俺は嬉しかったぜ」
「原田……」
「それにな、俺だってこの手で何人殺してきたかわからねえ。もしかするとお前よりも大勢の人間を殺してるかもしれねえ」
原田はいつになく真っ直ぐな目をしていた。
誰かを手にかけても、こんな表情ができるほどの覚悟があるのだろう。
「だが俺は、俺の信念に従って行動してる。だから後悔はしねえし、この先幸せになることを躊躇ったりもしねえよ」
いつも思う。
この原田左之助という男は、どれほど器の大きな男なのだろうかと。
「……俺の夢はな、惚れた女と所帯をもって静かに暮らすことだ」
「はは、矛盾してるな」
「そうだな」
叶うといいなと、思った。
「でも、あんたがそれを望むなら、きっと叶うよ」
「!」
原田は弾かれたように私を見る。
「?」
私が首を傾げていると、原田は気が抜けたように肩を下ろし、苦笑いをした。
「無自覚か?」
「何がだ?」
「俺が惚れてるのは、エリィだよ」
「……ああ!そういうことか。あっはは、プロポーズみたいになってしまったな」
「ぷろ……?」
「ああ、結婚の申し込みのことだ。悪いが、私にそんなつもりは全くなかったがな」
原田は、やっぱり、という少し残念そうな顔をする。
「あんたのその夢を叶えるなら、私とあんたの進む道はいずれ別れるよ。私といてあんたが静かに暮らせるはずがないからな」
「それは、」
「静かに暮らしたいなら、他の女を選ぶべきだろう。人間のな」
原田が何か言う前に、すかさず口を挟む。
この男はたぶん、何があっても私を選ぶと、私と添い遂げると言うのだろう。
そんなことはわかり切っている。
だから、口を開かせるわけにはいかないのだ。