第三章:変わりゆくもの
夢小説設定
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原田は俯いて、暗い顔をしている。
「なんて顔してるんだ。私がいたところでは、よくあることだった。立場が確立されていない吸血鬼は、血を得ることが難しいからな」
「……それでも、」
「親も務めを果たして死んでいっただけだ」
「!」
原田は目を見開いている。
「寂しく、なかったのか」
「寂しい、というのがよくわからないが、まあそれ以来安心して夜眠ることはできなくなったな」
「悲しい、とは、」
「?そうだな、まあいずれこうなるだろうってことは随分前からわかってたから、あまり悲しさも感じなかったな」
「……」
私の答えを聞いて、原田は頭を抱えてしまった。
「原田?」
「……エリィの親がどう考えていたか、俺にはわからない。だが、契約に関わらず子のことが心配になったり、危ないことをしたら本気で怒ったり、自分が死んでも生きていてほしいと願ったりすること。そういうのを、『愛』っていうんだ」
「……なるほど?」
「エリィ、お前の親は最期、お前に何か言い残さなかったか」
「……ああ、そういえば」
親は私に血を与える時、私のことを『大切な、愛しい我が子』と言っていた気がする。
「エリィの親はお前のことが大切だったから、愛していたから、危ないことをしてほしくなかったし、自分の命を差し出しても生きてほしいと願ったんだろう」
「……契約と、関係なく?」
「初めは契約に義務感を感じてのことだったかもしれない。だが、それだけで十何年も命をかけて守れるとは、俺には思えない」
「ふむ……」
そんな考えは初めて聞いた。
確かにまあ、それは一理ある。
契約のことを思うならば、適度に食事を与えて、危ないことをしていたら止め、それ以外のことは放っておけばいい。
それでも両親は、私に笑いかけてくれたし、まるで大切な宝物のように優しく接してくれた。
あれを、『愛』と呼ぶのか。
「そうか。愛、か」
あい、と自分に馴染ませるように呟く。
「ああ、そうか!土方やみんながあんなに怒ってたのは、そういうことか」
「!」
「愛、だな?仲間愛」
原田がふっと笑顔になる。
「そうかあ、難しいな、愛とは」
「難しい?」
「私は自分が死なない程度に動いているつもりなんだが、それでも心配をかけてしまうということだろう?」
「……」
せっかく微笑んでくれた原田は、また苦い顔になる。
「あんたは特にだな、原田。心配しすぎ」
「そうか?」
「ちょっと怪我しただけでも大丈夫か、とか、夜外を出歩くのが危ない、とか。怪我はすぐ塞がるし、人間ごときに負ける私じゃない」
「……」
うーん、と原田は頭を掻く。
「頭ではわかってんだけどな。どうしても気になっちまう」
「?なぜだ」
「惚れてるからな、エリィに」
「???」
惚れてる、とは。
つまり番になりたいという意味か?
「いや、今までのどこにそんな要素があった?」
「はは、そうだなあ。強いていうなら、強くて、でも時々危ういところだな。目が離せない」
「?」
「死なないように、長生きできるように動いてるかと思えば、鬼の連中のところに突っ込んでいったり。大の男3人抱えて駆け回ってるかと思えば、吸血衝動に苦しめられて手や唇を血塗れにしてたり。危なっかしくてな」
「それは、なんていうか、子供を見守る親の目線だな?」
「はは、そう言われちまうと返しづらいが、俺はどの女のことも心配してるわけじゃねえ。お前だけだ、エリィ。こんなに心配になるのは」
原田は私の目を真っ直ぐ見つめて言う。
その目は、とても優しかった。
「巡察に行ってても、また危ないことしてねえか、気になって仕方ねえ」
「む、そんなに危ないことはしてないぞ」
「お前にとってはそうでも、俺は心配しちまう」
「愛、か」
「ああ。お前が俺のことをどう思ってたとしても、俺はお前を愛してるよ」
なんだか急に恥ずかしくなってくる。
原田は、こんなに真っ直ぐに想いを伝えるタイプだったのか。
顔が赤い気がして、思わず顔を逸らしてしまう。
「……そうか」
「はは、いきなりこんなこと言って悪かったな。そろそろ寝ろ、更けてきた」
「……あんたは寝ないのか」
「俺のことは気にしなくていいぜ。お前がゆっくり眠るためにも、外敵が来ないように見張ってるからな。……それともまだ、俺の気配が気になるか?」
「いや……そうだな、私が眠るまで手を握っていてくれないか」
「!」
「気配が気になれば眠れない、もうあんたの傍で安心できたら眠れる。手を握ってるのが、一番気配を強く感じるから」
原田は一瞬、手を出すことを躊躇った。
「……まだ惚れてることの意味はわかってねえか」
「?」
「なんでもねえ。いいぜ、ほら」
その日、私は原田の手を握ったまま、久しぶりに深い眠りについた。