第三章:変わりゆくもの
夢小説設定
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風間達との一件から、私は厠へ行く時以外は部屋から出してもらえていない。
力尽くで出ようと思えば出られるのだが、そうしないのは、彼らと良好な関係を築いていきたいと考えているからだ。
今最も困るのは、これだけ深い関わり合いになった彼らに見捨てられて、行き場をなくして野垂れ死ぬこと。
それから、彼らといるおかげで逃れられている死の脅威に襲われること。
そこらの殺人鬼に襲われることもなく安心して眠れているのは、彼らの権威のおかげだ。
安心して眠るためには、この世界においてある程度強いと認識されている仲間が必要。
つまり、新選組にいることが、今の私の最善なのだ。
「うーん……」
私が外に出ないように、襖の外には見張りがいる。
まるで初めの頃に戻ったみたいだ。
「なあ、」
「なんだー?」
今の見張りは藤堂か。
「なんで私はあんなに怒られてこの部屋に閉じ込められたままなんだ?」
「そうだなあ、うーん……」
藤堂は腕を組む。
「それはお前が自分で気づいた方がいいな!」
誰に聞いても、こう言われている。
気づけ、と言われてもヒントも何もないのであれば、気付きようがないと思うのだが。
「ヒントはないのか?」
「ひんと?」
「あー、ええと、答えに気づく手助けになるような、そんな感じのやつだ」
「手助け……、そうだな、俺たちはもうお前のことを仲間だと思ってるってことかな!」
「仲間……」
「お、交代か、左之さん!」
「ああ」
襖を開けて話していると、向こうの廊下から原田が歩いてくる。
その様は、まだ機嫌が悪いように見える。
以前見張りをしていた時も、口を聞いてくれなかった。
ずっと冷静な男かと思っていたから、こんなに感情的になっているのは正直意外だ。
「原田」
「……頭は冷えたか、エリィ?」
「頭はずっと冷えてる。風間と別れてからな」
「……」
原田は少し呆れた表情になる。
何か答えを間違えたか?
「お前、これまでもあんな無茶な戦い方をしてたのか?」
「無茶……だったか?まあだいたい戦わずに逃げることが多かったな、親が代わりに戦ってたし」
「ってことは、お前のあの戦い方はご両親を見て覚えたやり方なのか」
「いや、親は拳で殴っていく鬼だったからな。刀の使い方はあんたらを見て真似てみた」
「拳で……。あの突っ込んでいく戦い方は、親譲りなのかもな……」
「?」
「まあいい。その、エリィの親は、お前が突っ込んでいったら嫌がらなかったか?」
「そうだな。一度だけ私が戦いに出ようとした時は死ぬほど怒られたな」
両親が私に対してあんなに怒ったのは、あれが最初で最後だった。
いつも穏やかな人達だったから、結構怖かったのを覚えている。
「なんで怒られたのか、お前はわかったのか?」
「そりゃあな。子供が危ないことしようとしてたら親は怒るだろ。当時はわからなかったが、今ならわかる」
「……」
原田は何が言いたいんだろう。
「それがどうかしたのか?」
「エリィの親は、お前が危ないことをしようとした時に止めた。それは、」
原田が私に言葉の続きを促す。
「親だから、だろ?」
「お前を愛してたから、お前が大切だから、だろ!」
「……ああ。そうか、人間はそういう親が果たすべき義務を『愛』と呼ぶんだったな」
「?」
「吸血鬼の中で、子供を産んだ後で育児放棄なんてのはありえない話だ。産んだ以上、子供を命をかけて守らなければならないし、命をかけて育てなければならない。子供を産んだ瞬間から、親と子の間には契約が発生し、言葉の意味通り、子供は成人するまで親の命そのものとなる」
「契約?」
「そう。成人まで育て上げるという契約。途中で育児放棄なんてしようものなら親の体は契約違反で呪いに蝕まれる。虐待をすればその倍の痛みが体に返ってくるし、子供が成人前に死ねば、親も同時に死に至る。そういう契約だ」
人間には、この契約というものがないらしい。
そのせいでよく捨て子だの虐待児だのが路上に座り込んでいたりした。
「私の頸の少し下、薄く印があるだろう」
「!?お前、躊躇いもなく、」
私が襟元を緩めて背中を見せると、原田は少し動揺した。
「なんだ?」
「……いや……。確かに印があるな」
「これが契約印だ。成人までしっかりと親に守られていれば綺麗に消えるんだが、親が子供を守って死ぬと、こうして薄く跡が残る」
「!」
「捨てられたりした場合は、印がより濃くなるがな」
「じゃあ、エリィの親は……」
「私に自らの血を提供して死んだ。最後まで誇り高い吸血鬼だったよ」