第一章:新たな始まり
夢小説設定
この小説の夢小説設定日本人とイギリス人のハーフ、という設定ですので、ミドルネーム(名字(日)の部分)が存在します。
名前は日名・英名どちらで設定していただいても構いません。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それから数日間、私はずっと研究し続けた。
それでわかったのは、端的に言って、彼らは相当鈍く理性が弱い吸血鬼のようなものだということ。
一度吸血衝動に駆られると、意識を失ったくらいではなかなか収まらず手に負えないわりに、衝動が抑えられた状態に人間が近づいても反応を示さない。
吸血鬼としての特性が低いかと言われれば、日光に弱い。
吸血鬼と最も異なるのは、血を飲まなくても人間と同じ食事で生きていけるところくらいだ。
変若水を飲むまでは普通の人間だったというし、そこの性質が残っているのかもしれない。
「今のところわかっているのはこのくらいだ」
「……そうか」
「鎮静薬を作った方が御しやすいだろうな。試してみたい薬があるんだが、材料を集められるか?」
「ああ、できる限りのことはしよう」
「ではこれを」
「これは……?」
「私が以前聞いたことのある、吸血鬼用の鎮静薬の材料だ。私は服用したことがないが、そういうのがあると何かで見たことがある」
ゴミ捨て場に捨てられていた教科書らしきものに載っていた鎮静薬。
これを飲むことで吸血鬼は衝動が抑えられるというもので、その薬ができてからさらに吸血鬼による事件に対する世間の厳しさが度を増した。
「可能かはわからないが努力しよう」
「よろしく頼む。その材料が集まるまで、私は休みをもらってもいいか?」
「ああ。マトモに寝ていないんだろう?少し休憩してくれ。……ただ、」
「わかっている。この屯所から出る時は幹部と一緒に、だろ」
「……すまない。面倒をかける」
「いいよ。何年も一緒にいて信頼し合ってるような仲でもないし、あんたらが私を疑うのは当然だ」
それじゃあ、と私は報告を終えて部屋を出た。
日光はさほど苦手ではないが、あまり気分の良いものでもない。
昼のうちは日陰で休むことにした。
「ここなら夜まで日陰かな」
屋根の角度や日の向きを見ながら、昼寝の場所を決める。
前までは女の格好だったから、横になんてなれたものじゃなかったが、今は男装しているから何も気にせず横になれる。
与えられた部屋から布団を引きずり出し、日陰で横になる。
何日も部屋にこもっていたから、少しでも開放的なところで眠りたい。
「ふぅ……………………」
ひと息ついて横になると、睡魔はすぐにやってきた。
そもそも吸血鬼は夜がメインの生活だから、こんなに昼も起きていたのは久しぶりだった。
少々の徹夜くらいでは何ともないが、あと数日同じ生活をしていれば倒れていたかもしれない。
「ん………………」
むにゃむにゃと微睡むだけで、完全に寝付くことは出来ない。
当然だ。ここには私を外敵から守ってくれる両親がいない。
自分の身は自分で守らなければならない以上、完全に眠ってしまうわけにはいかないのだ。
「あ、悪い、起こしたか?」
そこを通りかかったのは、原田だった。
「いや……」
「雪村が心配してたぞ。お前が寝てないらしいってな」
「事実だな」
「……………………眠れないのか?」
「そうだな……。完全には眠れない」
「人がいるからか?」
「人がいなくても、警戒は怠れない。いつ何が襲ってくるかわからないから……」
「……それなら、俺が見張っておこう」
「は?」
「俺がもしお前のことを裏切ったら、いつでも斬り殺して構わない。だから、俺を頼ってゆっくり休め。雪村のためにもな」
周りに心配させるな、という警告か?
「……わかった。だが今日すぐに信じろというのは無理だ。どうしても警戒が勝る」
「だよなあ……」
「……私はこれから数日休みをもらえたんだ」
「?」
「だから……その間は私が寝る時は近くにいろ。そうすればそのうちあんたがいる状況に慣れるだろ」
私がそう言うと、原田は沈黙してしまった。
何かおかしなことを言っただろうかと体を起こして原田を見ると、意表を突かれたような顔をしていた。
「……なんだ。言いたいことがあるなら言え」
「いや……てっきり俺は追い払われるかと思ってたんだが……そうか。そうだな。エリィの傍になるべくいるようにしよう」
「?常にという意味じゃないぞ。寝る時だけだ。……といっても、あんたにも仕事があるだろ、ええと、巡察といったか」
「ああ。まあそうだな。その時は傍にいられねえが、それ以外なら。これからはいつもここにいるのか?」
「そうだな、おそらくは。太陽が昇ってるうちはここにいる」
「……太陽が苦手なのか」
「まあ別段なんてこともないがな。少し頭が痛む程度だ。出かけようと思えば出かけられるが、気分の良いもんじゃない。頭を痛めてもいいほどの価値がないと外出をする気はないな」
「なら、夜ならいいのか?」
「本来日が落ちてから起き始める種族だからな。夜行動の方がいい」
「そうか」
それから結局眠れはしなかったけど、横になっていることで少し疲れは癒えた。
原田がいてくれることを安心できるように、警戒範囲を狭めて、誰かが通りがかりそうになっても気にしないように心がけた。
親以外で信じられる人を作ろうと思ったのは初めてだ。
今彼らのとの契約がある以上、下手に殺されることはないはず。
数日研究しながら様子を伺ってわかったが、彼らは約束やルールを大切にするタイプの人間だった。
それなら、私に無闇に危害を加えようとはしないだろう。
そう思うと、原田のことも少し信用できた。
「…………原田、手を貸せ」
「手?」
原田は疑問に思いながらも手を差し出す。
私が狡猾な輩だったら全ての血を吸い尽くされるぞ……と原田の警戒心に疑問を抱きつつ、私は手を取る。
「つっ、冷たすぎないか!?」
「……やはりそうか」
「やはりって、お前いつもこんなに冷たいのか?」
「いつもじゃない。吸血衝動の前だけだ」
「!」
「もうすぐだな……。吸血鬼は吸血衝動の前に体温が急激に下がるから、そこから衝動に耐えるための準備を始めるんだ。自分一人では体温が下がったことに気づけないから、こうして誰かに確かめてもらう」
「今までもこうして誰かに?」
「そうだな、親が確かめてくれてた」
「そうか……」
親のことは、それ以上聞いてこなかった。