あなたのためなら、なんだって
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ノルンを降りて、私は真っすぐ街へ向かった。
街は当然のことながらほとんど人影がなく、店も閉まっていた。
「……」
私の足音を聞いてか、近くの民家の窓がちらりと開く。
「!まりあちゃん!?」
「あ!おばさま、お久しぶりです~!」
「なにやってんだいあんた!こんな、いや、すぐ下へ行くから待ってな!」
おばさまの声を聞いて近くの民家、また近くのお店とどんどん扉が開いていく。
危ないはずなのに、私を見かけてみんなが出てきてくれた。
「あんたねえ、今は以前とは状況が違うんだよ!こんなところに突っ立ってたらいつ殺されるか……」
「ええ、知ってます。だから皆さんのことが心配で様子を見に来たんですよ~」
「まりあちゃん……」
「皆さんはどちら側なんですか?『世界』ですか?」
「あたしらは今回の戦とは全く関係ないさね。どっち側ってこともないよ。あいつらが勝手に近くで始めちまったのさ」
「俺たちは平和に暮らせりゃあよかったんだけどなあ」
「若い子たちは触発されてしまって、今『世界』と敵対してる勢力に加担している子もいるの」
「それは大変ですね……。でも『世界』が対抗しているのに、こんなに長引いてるなんて不思議じゃないですか?」
「それが、なんでも武器商人があっちについてるらしくてねえ」
「武器商人……?」
今どきの武器商人なんか、だいたい『世界』に目をつけられて潰されるか、『世界』に対抗できる武器を作れないかのどちらかなのに。
「なんていったっけなあ、あのお兄さん」
「お兄さんなんですか?」
「ああ。うーん、ありゃあおじさんかい?」
「どうだろう。確か、結賀といったかな」
「!」
結賀史狼か。
困ったことになったな。
今その息子も戦場に出てきてしまってる。
奴の狙いはなんだ?
「なんでも、そいつが『世界』に対抗できる武器を売ってるらしくてね」
「それでこんなに長引いてるんですね……」
「そうなんだよ。……あんたはまた行商の途中かい?」
「いえ。今は『世界』に集められてる能力者の人たちと一緒に旅をしてるんです」
「なんだって!?」
「あんた、しっかりした子だと思ってたけどまさか『世界』に騙されてんじゃないだろうね」
「違いますよ、大丈夫です。能力者のみんなもいい人ですから」
そんな話をしていると、ちょうど深琴がこちらへ走ってきた。
「まりあ!」
「深琴~!」
手を振って位置を知らせる。
『世界』の軍と話し合った後、近くの何の罪もない街を結界で保護すると申し出たのだ。
「紹介しますね、能力者の久我深琴です」
「は、初めまして」
こんなに大勢に出迎えられると思っていなかったらしく、少し戸惑っている。
「あらあ、綺麗な子ねえ」
「この子が能力者なの?」
「信じられねえなあ」
「ど、どうも……」
「後ろのお兄さんも綺麗だねえ」
「まあ!いい男だわ」
「うちの店に、って閉めてるんだったわ」
「あはは」
戦時中とは思えないほど賑やかになる街中。
「初めまして、二条朔也です」
「この子も能力者なのかい?」
「ええ、そうですよ~」
それから深琴は街の輪郭を歩き回り、街を覆うような大きな結界を張った。
「これで安全です。もう攻撃は届かないはずです」
「ありがたいねえ」
「可愛らしいお嬢さん、お礼にうちでお茶でもいかが?」
「いえ、私は……」
「いいからいいから。能力使ってんのも疲れるんだろう?あたしたちはよくわからないけど、まりあちゃんが教えてくれるってことは相当きついんだろう」
「え?」
「この子はなかなか手の内を見せてくれないからねえ」
「その言い方は少し傷つきますよ、おばさま」
「あたしたちが気づいてないと思ってたかい?あんた、商売の腕はいいし、人から信頼されることに耐えられるほどの器の大きさはあるけど、誰かを頼るような弱みは一切見せないんだ」
「まあ、否定はしませんけど……」
「いつか、あんたにも頼れる相手ができたらいいねってみんなで話してたんだよ」
「そんな話を……」
知らなかった。
確かに誰かを頼るのは苦手だけど、それが弱みを見せないことになってたなんて。
「情報もそうさね。よほどのことじゃない限り、あんたは余計なことをぺらぺらと喋ったりしないからねえ」
「それは誰でもそうでは?」
「いいや。誰も彼も、なんだかんだで口が滑るのはよくあることさ。でもあんたはそれが一度もなかった。他の街の奴らからも、あんたが不自然に何か隠してるとか、口を滑らせたとか、そんなことは聞いたことないからねえ」
それは工作員として備えておかなければならない一番大事な能力だから。
おばさまたちはそれに気づいていて、もしかするとみんな気づいていて、それでも信じていいと思ってくれていたのかもしれない。
「想い人の話はよくするけどねえ」
「……え!?」
「昔助けられなかった好きな子がいるんだろう?その子の話になると饒舌になるから」
「そうなの?」
深琴も目をぱちくりさせながら聞いてくる。
「ちょっと〜恥ずかしいですから」
「なんだい、照れてんのかい?可愛い子だねえ」
おばさまにからかわれながら、深琴と二条をおばさま宅に送り届け、私は一旦ノルンに戻ることにした。
「ただいま〜……」
あまり人の気配がしなくて、こっそり中へ入ると、少し道が荒れていた。
「!」
私は慌てて辺りを駆け巡った。
侵入者?千ちゃんは?一体誰が?
「千ちゃん!」
千ちゃんの後ろ姿を見つけて、駆け寄る。
「まりあさん!」
「!」
近くには傀儡が並んでいる。
「これは……」
夏彦の機械人形ではない。ということは、これは。
「全員頭を伏せて耳を塞いで!!!!!」
私の大きな声に驚いて千ちゃんは尻餅をつき、乙丸たちも一斉にしゃがんで耳を両手で塞ぐ。
私はカバンの中から銃を取り出し、辺りの機械人形を一掃した。
「ふぅ……。!」
後ろに気配を感じて振り返ると、千ちゃんの背後に結賀史狼が立っていた。
「千ちゃん、こっちへ」
「は、はい!」
千ちゃんの手を引き、私の後ろに隠す。
起き上がりかけた機械人形にもう一発弾を撃ち込み、史狼に向き直る。
「何をしに来たんです?」
史狼に銃を向け、しっかりと見据える。
「君は……」
「名乗る必要はありません。早急にノルンから立ち去ってください」
「それはできない、と言ったら私を撃つか?」
「ええ。当然です」
私は千ちゃんに見えないように、史狼の右足を撃ち抜く。
「!」
「立ち去るには、片足で十分ですよね?」
ほぼ全身機械だから、痛覚は遮断されているのだろう。
「腕も撃ちますか?」
「いや、やめておこう。これ以上ここに留まるのは損失が大きそうだからな」
史狼は踵を返し、出口へ向かっていく。
私はドローンに追跡させ、史狼が立ち去ったのを確認して、入り口にロックをかけた。
「はぁ……」
私は銃にロックをかけてカバンにしまう。
「……」
そこで初めて、ノルンに残ったみんなから複雑な目で見られていることに気づく。
ああ、内部犯の調査中だった。
「皆さん、怪我は?」
「……」
「なさそうね〜。千ちゃんも無事でよかった」
千ちゃんに触れかけて、私は手を引っ込めた。
「……ごめん、みんな驚いたよね」
「い、いや〜!ほんとだよ!びっくりしたあ!」
空気を読んだのか、乙丸が明るく切り返してくれる。
「まりあさんは、その……」
「内部犯ではないよ、って言っても、こんなの見ちゃったらね〜。襲撃犯もこのカラクリを使ってたって言ってたもんね」
「……」
「ごめんね、でも私が生きてきた世界では、当たり前のようにみんなこれを持ってるの」
「当たり前に……?」
それまで不安そうに沈黙していた千ちゃんが、ようやく話してくれる。
「そう、当たり前に。これ持ってないと殺されちゃうくらい、当たり前に」
工作員として生きていく上で、武器は欠かせなかった。
史狼のような武器商人のせいで、銃が流通している都市もあったし、襲われた時に私ごときの力では対処できないから。
「……まりあちゃんは、さっきの男と知り合いなの?」
加賀見が勘ぐるように聞いてくる。
「知り合いってほどでもないよ。存在を知ってるだけ。向こうも私のことは大して知らないと思う」
「そう」
加賀見は、それだけだった。
「で、またあいつがここに来るかもしれないから、私はもう村には出ないことにした!今!」
私は高らかに宣言する。
「みんなのことは、私が守るよ。不安かもしれないけど、信じてほしいな」