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あれから数日が経ったけど、千ちゃんが宿吏を少し避けるようになってしまった。
胡散臭い奴だと思ってしまったのかもしれない。
試しに千ちゃんに理由を聞いてみると、
「特に理由もないのに優しくする人は一番怪しいです」
の一言に尽きた。
一方宿吏のほうは軽い挨拶をするようになったり、何か困っていると少し手伝おうとするようになった。
この調子で粘って、千ちゃんが心を寄せられるようになってくれたらいいんだけど。
「あ、そうだ千ちゃん。近々陸に降りるって聞いたんだけど、前にも誰かが乗ってくる以外で降りたことあったの?」
「はい。物資がなくなってきたときは陸に降りていました」
「じゃあ、千ちゃんも買出しに?」
「……」
行ってないのね。
「今回はなんで降りるんだろうね~」
「そう、ですね」
私たちが気楽に話していられたのも、この時までだった。
降りる地点が近づいてきた頃、遠矢がミーティングを開いた。
そこで明かされたのは、とんでもない事実だった。
「今回降りるのは、戦場だ」
「……は?」
「戦場ってことは、今も攻撃しあってるってことだよね」
「そうだ」
「目的は何?それも『世界』からの命令なの?」
「……ああ。俺たちはそこで『世界』の軍に加勢することになった」
「……なるほどね~」
『世界』の軍ならば加勢など必要がないはず。
それでも戦場に能力者たちを降ろすのは、おそらくリセットを選ぶ可能性を高めるのが目的だ。
なんて汚いやり方。
「でも、この中には攻撃に適していない能力の人もいるんじゃないの~?」
「そうよ!」
深琴は二条を守りたい一心だろう。
私だって千ちゃんを戦場になんて連れて行きたくない。
水の能力は攻撃に適しているかもしれないけど、あの子の体力で戦場に出るのは死ぬことと同義だ。
「それに関しては大丈夫だ。戦闘能力のないものはここに残っていい」
「……」
「行きたくないのなら、行かなくてもいい」
それはもう本人の性格に委ねるということか。
「私は行くよ~」
「!」
千ちゃんが驚いて私を見る。
「大丈夫」
安心させるように、ポンポンと頭をなでる。
「次降りるところ、前お世話になった街の近くなの。そこの様子が気になるし」
「そうか。じゃあまりあは一緒に行こう。俺は軍の人たちとのやり取りがあるから行くよ」
それから、私、遠矢、結賀、深琴、宿吏の5人が行くことになり、深琴の付き添いで二条も来ることになった。
初めは深琴も嫌がっていたが、二条の強い意志に負け、傍を離れないという条件で許可された。
「それじゃあ解散だ。明日の朝に着く」
解散してから部屋に戻るまで、千ちゃんはずっと不安そうな顔をしていた。
「大丈夫よ、千ちゃんは安全なここで待ってて」
「でも……!」
「加勢しにいくわけじゃないし、街の様子を確認したら戻ってくるから」
「……」
「う~ん、お土産買ってこよっか?」
「え?」
「こういう約束があったら、千ちゃんもちょっとは安心できるでしょ?」
「……はい」
千ちゃんはぎこちない顔で笑い、品物は任せると言ってくれた。
「それじゃあ、おやすみ」
「はい。おやすみなさい、まりあさん」
そうして別れた翌朝、出口まで見送りに来てくれた千ちゃんにもう一度挨拶し、私たちは出発した。
千ちゃんのことは、七海にお願いし、七海からは宿吏のことをお願いされた。
こういう利害が一致した関係は心地いい。
お互いにプラスなことしかないから。
「おい」
「なに、宿吏?」
「不知火に何か余計なことを言われただろ」
「言われてないよ」
「俺のことは気にすんなよ」
「それは無理だな~」
「なんでだよ!」
「君は千ちゃんのお兄さんだから」
「!」
「下手なところで死なれちゃ困るんだよね~」
「……はあ」
それ以上の言及は宿吏も諦めたようだった。