あなたのためなら、なんだって
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予想通り、野宿を始めて2日後にノルンが近くに着陸した。
静かに草原に着陸したノルンに近づくと、扉が開く。
難なく乗り込むと、出てこようとした能力者と鉢合わせる。
「!」
私に気づき、2人の男は身構える。
「こんにちは?」
一応挨拶するも、警戒心は解かれない。
後ろから出てきたもう1人の男が、宥めるように2人の前に出る。
「こんにちは。君の名前を聞かせてくれる?」
「西城まりあ。あなたは?」
「俺は結賀駆。君に何か恨みがあるわけじゃないけど、少しの間拘束させてもらってもいいかな?」
『結賀』ということは、史狼の子か。緑を操るんだったかな。
彼の言葉を合図に、蔦が動き始める。
「どうぞ。抵抗はしないよ」
そう言って手を差し出すと、ありがとう、と言って私の腕を蔦で縛った。
「平士、みんなをミーティングルームに集めてくれる?」
「あ、ああ!」
平士……、乙丸平士か。精神感応力の子ね。
それからミーティングルームに連れて行かれ、そこには他の能力者も揃っていた。
確か、遠矢正宗という人が『世界』の人間だったはず。
周りを見てから、結賀に目配せをすると、頷かれる。
「では改めて自己紹介を。私は西城まりあ。怪しい人じゃないです」
千ちゃんの姿が見えない。まだ乗っていない……?
そんなはずはない。千ちゃんがいる辺りはとっくに通り過ぎているはず。
「そのリュックには何が入っているの?」
「中見る?開けていいよ」
腕が縛られているから自分では開けられない。
背中を差し出すと、蔦が解ける。
「いいの?」
「悪意は感じられないみたいだからね」
結賀駆が乙丸平士に目配せをする。
彼が私の感情を読み取ったのか。
「私ね、行商人なの。それで色んな地域を回ってるんだけど〜」
説明しながら商品を出していく。
食品から魔法瓶などの道具、ラジオや食器もある。
「こんなにどこに入ってるの!?」
「背中にお店抱えてるみたいなものだからね〜」
得意げに次々と商品を出していくと、もういいもういい、と慌てて止められる。
出した物を戻していると、
「じゃあ襲撃犯とは関係ないのね」
「襲撃犯?」
それから私は初めてノルンで起こっている問題について聞いた。
能力者達で決めたルールや部屋割りなどについても説明を受ける。
商品を戻し終えてリュックのチャックを閉め終える頃には、皆の警戒心は解けていた。認められたようだ。
「そんなことが起こっていたのね。じゃあこんないかにもな時期に乗ってくる人がいたら怪しむよね〜」
「ごめんね。じゃあ改めて、俺達も自己紹介しようか。俺は結賀駆。それから───」
全員の自己紹介を受けて、ある程度把握する。『世界』の人間も。
「ここに来てないやつもいるけどね」
「そうなの?」
「ずっと引きこもってるんだ。市ノ瀬千里っていうんだけど」
「千ちゃん!?」
やっぱり乗ってた!
私の声に、皆が反応する。
「千里くんとお知り合いなんですか?」
「うん!千ちゃんの村にも滞在したことがあって、あれからどうしてたかなって思ってたの。お部屋はどこ?」
結賀と遠矢が顔を見合わせて、千ちゃんのお部屋に案内してくれる。
「ここだよ」
ノックをするが、中から声は聞こえてこない。
もう一度ノックすると、少しだけ中から物音が聞こえる。
さらにノックすると、中から小さい声が聞こえる。
「……誰ですか」
「千ちゃん……?」
元々外交的な子ではなかったけど、こんなに引きこもってしまうような子だっただろうか。
私の呼びかけに、わずかに扉が開く。
「!まりあさん……?」
後ろにいる結賀と遠矢から、微かな動揺が伝わってくる。
「千里がこんなに素直に扉を開けるなんて……」
今まで、そんなにも閉じこもっていたのか。
「久しぶりね、千ちゃん」
私の姿を確認すると、今度はきちんと扉を開けてくれる。
「お久しぶりです」
控えめな笑顔は変わらない。
私達の雰囲気を察してか、結賀と遠矢は静かに去っていった。
「中に入ってください」
「ありがとう」
千ちゃんに促されて、中に入る。
整理整頓された綺麗な部屋だ。
「……」
千ちゃんの目の下に痣を見つける。
頬に触れ、痣をなぞる。
「これは……?」
気まずそうに目をそらす。
たぶん、村の奴らに付けられたんだろう。
私が、下手に逃がしたりしたから……?
「……っ」
千ちゃんの小さい体を抱きしめる。
泣きはしない。辛いのは、私じゃなくて千ちゃんだから。
「ごめんね、私が───」
下手に関わらなければ。
そう言う前に、千ちゃんが言葉を遮る。
「やめてください。まりあさんのおかげで、僕は今元気でいられてるんです」
千ちゃんの手が背中に回る。
「ありがとう……」