あなたのためなら、なんだって
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あれから、ずっと考えていました」
「……うん」
「僕は、まりあさんの優しさに……嘘を感じたことはありません」
千ちゃんは、すごく言葉を選んでいるように見えた。
「あの時は、動揺してしまって……。失礼な態度を取ってしまったと後悔しています。すみません……」
「うん、当然の反応だよ」
「あの時のまりあさんは、少し怖かったけど……僕は、僕に優しくしてくれたまりあさんを信じることにします」
「!」
「……宿吏さんも、なにか事情があるんだろうって言ってましたし……」
さっき話していたのは、もしかしてそのことなのだろうか。
「千ちゃん!」
「は、わっ」
私は思わず千ちゃんを抱きしめた。
私のためにこんなに悩んでくれて。考えてくれて。
これが抱きしめずにいられるだろうか。
「ありがとう。たくさん考えてくれて」
「……いえ……」
千ちゃんの顔が少し赤らむ。
そんなところも愛おしい。
「……もう少しでお別れだけど……」
「え?」
「ううん。なんでもな〜い」
島に着けば、千ちゃんとは一緒にいられなくなる。
『世界』の工作員として、また任務をこなさなければならないし、夏彦の居場所の隠し方も考えなくてはならない。
それから島に着くまで、私は千ちゃんとたくさん過ごした。
水浴びもしたし、千ちゃんの趣味の木彫りを見たり、ノルンの中をお散歩したりした。
たくさん思い出を作って、頭の中に残しておきたかったから。
『おーいみんな!正宗が、もうすぐで着くから準備しろって!』
乙丸の言葉で、一気に現実に引き戻される。
「だって。みんなのところに行こっか〜」
「はい」
皆で乗船口に集まり、到着と同時に1人ずつ降り始める。
いよいよか。
そう思いながら降り、島の中を皆と歩いていく。
「すごい森だな……」
誰かがそう呟いた。
空汰は見覚えのあるものを見つけたらしく、酷くうろたえていた。
奥まで進んでいくと、そこにはアイオンらしき姿があった。
「……へえ……」
本体を見たのは初めてだった。
いつも遠隔で見るだけだったから、本体を見たのはこれが初めてだ。
あれが、夏彦が壊そうとしているものか。
「!」
アイオンを見た空汰はハッとした表情をする。
ノルンの中で会っていたのかもしれない。
それからの段取りは知っている。
リセットの説明をして、過去や未来を見せて、選択させる。
データにあった通りの流れ。
しかし今回はイレギュラーがいる。私だ。
「能力者ではないのは、」
アイオンは当然の如く、私を指差す。
「あなたです」
「「「!」」」
千ちゃんも私を見る。
だって皆、思っていたから。能力者以外は船には乗れない。
そして、能力者でない者こそが内部犯の可能性が高いと。
「あたり〜」
「そんな……!」
「じゃあ、あなたがっ」
「それは違うよ。内部犯は私じゃなくて、途中で降りた室星ロン。アイオン、彼も能力者ではないよね?」
「はい」
「ロン……」
「どちらが内部犯だったのかは、これからわかるよ」
「?どういうこと?」
ちょうどその時だった。
ドォォンという爆発音と共に地響きが起こる。
夏彦か、結賀史狼だ。
先にアイオンの元へやってきたのは、夏彦。
「!おい、どうなっている?」
「あれ、夏彦以外にもここを狙ってる奴がいたみたいだね」
傍には室星ロンの姿。
「ロン!」
「あ、あの人よ!私が見た襲撃犯!」
深琴が夏彦を指差す。
「じゃあ内部犯は……!」
「今はそれどころじゃない!さっきの爆発はなんだ!?」
「相手の様子を見るに、彼らとさっきの爆発は関係がないようだけど……」
「みんな落ち着いて〜。騒いでもどうにもならないよ」
「まりあはどうしてそんなに落ち着いてるんだ……!」
「秘密!だけど、騒いでもどうにもならないのは本当。夏彦、手分けして確認に行こう」
「!……わかった。ロンは向こうへ」
「はーい」
「知り合いなの!?」
「あはは、それを言うならそこの遠矢も夏彦と知り合いでしょ〜」
「!?」
一気に情報が出過ぎた。
皆パニックになっている。
「いい?攻撃系じゃない能力者はみんなここで待機!戦う体力がない千ちゃんも、ここで待ってて」
「まりあさんは!?」
「私はほら、これがあるから」
そう言って銃を見せる。
「!」
「大丈夫だよ〜。深琴はここに残ってみんなを守ってね」
「わ、わかったわ!」
「あ!大事なこと忘れてた。結賀もここで待機ね」
「どうして?確かに戦いには不向きかもしれないけど、ここは森だし、俺が適任だと思うよ?」
「結賀が来たらややこしくなりそうな予感がするから!」
私はそれだけ言い残し、森の中へ走って行く。
夏彦じゃないなら、結賀史狼だ。息子が現れたら、ややこしくなる。
「あー、テステス。夏彦聞こえる?」
通信機を耳につけ、適当に電波を漁る。
『!まりあか。簡単に割って入ってくるな』
「状況が状況なんだから、情報共有していかないと。そっちはどう?こっちは機械人形が3体ってところかな〜」
『こちらも同じくらいだな。ロン?』
『こっちは5体かなあ』
室星がそう言いながら発砲する。
「手が早いな〜」
と言いつつ、私も発砲する。
「みんな、1人で対処できそうだね。問題は史狼が来るのがどこかっていうことだけど……」
『おい、なぜ奴の息子が来ている!?』
「えっ待っててって言ったのに……」
どうやら、夏彦のルートに結賀駆も来たようだ。
「ごめーん夏彦、頑張って」
『くそっ』
こういうのは大抵、面倒ごとに面倒ごとが重なる。
だからたぶん、夏彦がいるところが、史狼が現れるところだ。
私は早々に付近の人形を撃ち倒し、夏彦がいる方向へ向かった。