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離れる時、欠員が出た。
室星ロン。
あいつは船が着陸してから外へ出て、結局戻ってくることはなかった。
夏彦とでも合流したんだろう。
どうせまた島で会う。
「ふぅ……」
ひとまず警戒は解いていいはずだ。
ただ、周囲から攻撃されないとも限らない。
深琴は先の戦から街を守った反動で、まだ能力が十分に使えていない。
ノルンは結界に守られてるとはいえ、それは完全ではないし……。
「遠矢」
「!」
私がただの行商人でないことがバレてから、遠矢には警戒されている。
戦地にいる彼らに余計な不安要素を伝えまいと黙っていたが、船に戻ってきた時点で全員に明かした。
もちろん、『世界』の人間であることは言ってないけど。
「そんなに意識しないでよ〜。取って食ったりしないからさ」
「そ、それはわかっている」
「うん。それでね、この船ってレーダーついてる?」
ついてることは調査済みだけど、そこまで知っているとなると『世界』側の人間だと悟られてしまう。
「ああ。よく知ってるな、レーダーなんて……ってそうか。お前はただの行商人じゃなかったな」
「あはは……。そう、そのレーダーに何か不審な物が映ったら、すぐにこのボールをその方角に向かって投げてほしいの」
「これは?」
「そうね、そういった不審物を自動で追跡してくれて、いざとなったら爆弾になってくれる装置、だね。空汰と共同開発だよ〜」
「お、おまえっ、空汰になんてことさせてるんだ……!」
「なあに?」
「そんな兵器を子供に、」
「やだなあ、爆弾の部分は私が考えただけ。空汰は自動追跡の部分をカバーしてくれただけだよ〜」
「そ、そうか」
遠矢はどこか安心した顔をする。
「ねえ、どれくらいで着きそう?」
「早くて明後日だな。天候次第ではもう少し伸びるだろう」
「……そう。わかった〜」
それから私は千ちゃんの様子を見に行った。
あまり近づきすぎると怖がらせてしまうので、あくまで遠目に、気づかれないように。
「!」
「……か」
「……、……だろ」
千ちゃんが、宿吏と話してる!
遠くからで会話の内容はわからないけれど、千ちゃんから話しかけている様子だ。
宿吏も不機嫌な様子はないし、千ちゃんも自分のしたい話をできているみたいだ。
「ふふ……」
これなら私が出る幕はないかな。
船内の見回りでもしてよう。
私は足音を立てないようにしながらその場を離れ、ヒヨコと一緒に船内を見て回った。
「ヒヨコ、映像は記録した後、何の問題もなければ明日には削除ね」
「ピ!」
元気よく返事しているものの、このヒヨコがどこまで私の言うことを聞くのかは定かではない。
あとでいじっておこうかなあ。
別にまずい映像があるわけじゃないけど。
「他のヒヨコも、手が空いてる子は空汰の部屋に籠ってないで見回りをさせてね〜。あなたの目の奥で見ているあなたも、空汰のことばかりじゃなくて全体を見てね」
「ピ?」
ノルンにこんな世話用ヒヨコがいるなんて情報はなかった。
でもいる、ということは誰かの策略である可能性も高い。
たぶん『リセット』をさせたい側の派閥だろうなあ。
アイオンとやらが大切にしている『鈴原空汰』が気になるんだろう。
「さあ、あとは屋上だけだね〜」
んー、と伸びをしながら歩いていく。
そのときふと、後ろに足音を感じて振り返ると、千ちゃんがこっちに走ってきている。
「ヒヨコ、先に行ってて!」
「ピピ、ピー!」
私は向かってくる千ちゃんと距離を縮めるように駆け寄る。
「どうしたの?そんなに走らなくても、ほら、息上がってるよ。ええと、水は、」
「は、はあ、まりあさん!」
お水を取りに行っている間に千ちゃんを休ませようと場所を探していると、千ちゃんに強く袖を引かれる。
「!うん?焦らなくてもいいよ、ゆっくり聞いてるから。あっちの木陰で話そう?」
「……はい」
私は息の上がった千ちゃんを宥めるようにゆっくりと木陰に移動させる。
あまり体力がある子ではないから、すぐにでも水分と塩分を取らせてあげたいけど、袖を離してくれない。
「千ちゃん、汗が……」
ポケットに入れていたハンドタオルで、千ちゃんの額を拭う。
「すみません……」
「謝らないで。走ってでも私に伝えたいことがあったんだよね」
「……はい」
少し前に宿吏と話していたところを見たから、そのことかな?
でも、例の一件から私との関係性も変わったはず。
宿吏とのことを走ってきてまで報告しに来たりするだろうか?
「千ちゃんのペースでいいから、焦らないで話してね」
私がそう促すと、千ちゃんはポツポツと話し始めた。