適切な距離感
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数日後、ケンちゃんと一緒に冥土の羊に行くと、トーマくんに会った。
母さんの言葉を思い出して少し照れ臭くなったけど、ここで顔を背けるのはおかしいし、にこやかに挨拶をする。
「こんにちは」
「今日はお2人なんですね」
「ああ。席は空いているか?」
「はい。ご案内いたします」
ケンちゃんに奥の席を促される。
「えっ」
「……なんだ」
驚いてパッとケンちゃんを見ると、じとっとした目で見返される。
「いや……」
戸惑いながらも奥の席に座り、注文を済ませる。
「ケンちゃんさ、」
「?」
私の声に、少し身構えている。
「もしかして彼女できた?」
「なっ……」
すぐ否定しないところを見るに、図星だろう。
「やっぱり!?」
興奮して立ち上がったものの、ハッとして座る。
「どんな人?私が知ってる人?年下?年上?どこで出会ったの!?」
「リン……」
ケンちゃんは呆れた顔でため息をつく。
「あはは、ごめんごめん。でもしょうがないじゃない。あの朴念仁に恋人だなんて!ビッグニュースだわ」
それからはケンちゃんの恋人の話を根掘り葉掘り聞いた。
嫌そうな顔をしながらも、幼馴染のよしみで教えてくれた。
「へえ……。年下で他の大学の子で臨時講師をした時に出会った子、ねえ。しかもケンちゃんから告白したの?」
「告白と言っては語弊がある。私はただ、この感情についてもっと研究する必要があると感じただけだ」
私も思わず苦い顔になる。
「ねえ、もしかしてそれ彼女に言ったの?」
「……何かまずかったか?」
「いや、いやいやいや!普通にまずいよ……」
頭痛がしてくる。
前々から相手の立場や気持ちを考えて言葉を選べないタイプだと思ってはいたものの、そういうストレートな物言いは、ある意味ケンちゃんのいいところだと思っていた。
でも、今回ばかりはちょっとよくないかもしれない。
「ケンちゃんのそのストレートな言い方はいいと思うけど、その相手の子は、そういうことをストレートに言われて耐えられる精神を持った子なの?」
「どうだろうな。だが、私に言い返してくるくらいには図太いぞ」
「えっ、ケンちゃんに?彼女、年下の子よね?」
少し考える。
でも、ケンちゃんに言い返せるくらいの子でないと彼女は務まらないかもしれない。
彼女はケンちゃんのそういう物言いに惹かれたのかな。
「それならまあ、いつも通りの言い方でいいかもしれないけど……。ケンちゃん、たまに妙に皮肉った言い方をするから、そういう言葉が出そうになった時は、恥ずかしくても素直な気持ちをそのまま伝えるのよ?」
「心に留めておこう」
ケンちゃんは珍しく素直に頷く。
「ねえ、さっきも思ったんだけど、もしかして私に奥側の席を譲ったのって彼女に何か言われた?」
「……」
ケンちゃんはバツが悪そうに目をそらす。
「やっぱり!」
素直に言うことを聞くのは、相手が好きな子だからだろうか。
これ以上つつきすぎるのも良くないかと思い、口には出さないでおいた。
「イッキにはもう言ったの?」
「言う必要はないだろう」
「彼女と揉めたり困ったりした時、イッキに相談できた方がいいでしょう?まあそのうちデート中とかにバッタリ会いそうだけどね」
確かに、と笑い合う。
「そろそろ帰るか」
「そうね」
会計を済ませて外へ出る。
「私は少し買い物をしてから帰るから」
「珍しいな。リンがこの時間帯に出歩くとは」
「日傘もあるし、サプリメントも飲んできたし、お店出る前に日焼け止め塗り直したし。今日は母さんの帰りが早いから早めに買い物を済ませておかないといけないのよ」
「そうか。では、またな」
「ええ」
ケンちゃんの後ろ姿が見えなくなってすぐに私は買い物へ向かった。