適切な距離感
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
帰り道、無言になったらどうしようという不安があったけど、トーマくんは思いの外間を持たせるのが上手だった。
会話が続かない気まずさとか、私にあまり感じさせないように話題を選んでくれているようだった。
「リンさんは一人暮らしなんですか?」
「ううん、母と一緒に暮らしてるの。他人と暮らすよりやっぱり楽なのよね」
「そうなんですか?」
「うん。一時期恋人と同棲してたこともあったんだけど、家事の分担とか、生活レベルとかで揉めて。私の価値観の根幹である親と暮らすのが一番楽よ。トーマくんは?」
「俺は一人暮らしです。と言っても、実家が結構近いのでかなりの頻度で帰ってますけど」
トーマくんはバツが悪そうに笑う。
「一人暮らしって大変?」
「うーん、俺は実家にいる時から料理とか掃除とかそういうのしてたので、そういう面では大変さは感じませんね」
「偉いのね」
「いえ、そういうのじゃないです。うちは親が共働きなので」
「そういうの、偉いっていうのよ。うちも親がいつも仕事でいないから、私が家事をしてるの。面倒だなあとか、遊びに行っちゃおうかなあとかいつも思ってたから、家事をしてるのは偉いと思う」
「あはは、ありがとうございます」
トーマくんは照れ臭そうに笑う。
勝手なイメージだけど、トーマくんが料理や洗濯など家事をしている様子はかなりしっくりくる。
得意そうなイメージがある。
「じゃあ、何が大変?」
そういう面「は」、と言ったトーマくんの言葉が引っかかる。
「……恥ずかしい話なんですけど、」
トーマくんが頬をかく。
うん、と相槌を打って彼の言葉を待った。
「ふとした時に寂しくなるんですよね」
想像していなかった可愛らしい悩み。
思わず頬が緩むのが自分でもわかる。
「笑わないでくださいよ」
「笑ってないわ。ふふ。少し可愛らしいなと思っただけよ」
「笑ってるじゃないですか」
トーマくんの耳が少し赤い。
爽やかな青年に、こんな一面があったのか。
そうこうしているうちに、家の近くのカフェにたどり着く。
「ありがとう、ここまでで大丈夫よ」
「わかりました」
じゃあ、また、と手を振って別れる。
また、きっと会うだろう。具体的には、冥土の羊とかで。
「ただいま」
「おかえりなさい。──あら、今日のお出かけは楽しかったの?」
「え?」
「いつもより顔つきが明るいわ。今の恋人は良い人なのね」
「今日出かけた人は恋人じゃないわよ、母さん」
「そうなの?」
私が荷物を置いて手を洗っていると、母さんがその後ろをついてくる。
「良い人は捕まえとかなきゃダメよ〜?母さんみたいにね」
私の記憶にある限り、母さんと父さんはとんでもなくラブラブだった。
父さんが他界してからも、母さんは時々父さんの話をする。
両親は、どちらかが先に死んだとしても必ず子供を満足に育てきると約束していたらしい。
母さんは父さんを溺愛していたけれど、後追いはしなかった。
いつだったか、私のせいでごめんねと謝ると、母さんは珍しく怒った顔をして、「もちろん父さんを愛しているけど、リンちゃんのことも母さんはとても愛しているのよ」と言った。
「……そうだね」
トーマくんの顔が頭をよぎった。