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翌日、私は大学に寄ってから、その日はショッピングモールに向かった。
トーマくんへのお礼のプレゼントを買うために。
「本当に今日付き合ってくれるの?」
「いいよ。面白い話聞けそうだし」
「そんな面白い話じゃないけど」
トーマくんの好みを聞いたら、イッキが「じゃあ僕が一緒に行ってあげようか」と言ってきた。
珍しく今付き合っている彼女はいないらしく、そこも問題ないからと。
「トーマくんは仏のように良い人ねって話しかしないわよ」
「へえ。確かに彼、誰にでもあんな感じだしね」
「そうなの?やっぱりトーマくんは仏なのかしら」
それから色んなお店を見て回った。
雑貨屋さんや食料品店、服飾関係のお店も回った。
「消費できないものだと、ちょっと重いかな」
「食べてなくなるものとかの方が良いかもね」
「でもトーマくん一人暮らしなんでしょ?お菓子とかもらって迷惑じゃない?」
うーん、と悩みながら歩く。
「一旦休憩しようか。結構歩いたでしょ」
「それもそうね」
悩み疲れたのと、歩き疲れたので、私たちは近くのカフェに入った。
コーヒーと紅茶をそれぞれ頼む。
「お待たせいたしました。アイスティーのお客様」
「はい」
「アイスコーヒーのお客様」
「はい」
「失礼いたします」
店員が去ったのを見て、紅茶に口をつける。
「店員、男の人でよかったわね」
「まあサングラスしてるから大丈夫だとは思うけどね」
以前出先でFCの子たちに遭遇した時はお店が大変なことになった。
その子たちが連絡したのか、次々と女の子がやってきて、あっという間に囲まれてしまったのだ。
「フリーのあなたを女の子たちが放っておくわけないでしょ」
今も、他の席の女の子がチラチラとこちらの様子を伺っている。
私が一緒にいるから、声をかけてこないだけだ。
イッキは『目』の力と関係なく、普通に顔がいいし、背も高い。
だから、サングラスをしたところで、元の良さは隠せていない。
「それで、トーマくんとはどこで出会ったの?」
イッキがニヤニヤしながら聞いてくる。
「何その馴れ初め聞いてくる女子みたいなセリフ。別に、元彼の大学よ」
「え、いきなり修羅場?」
「そんなわけないでしょ。振られて気落ちしてた私に、トーマくんがお水をくれたの」
「へえ」
「ね、仏みたいな人でしょう、トーマくん。普段はどうなのか知らないけど、あの時の私には仏のように見えたわ。別れた愚痴も聞いてくれたし」
「だから今回は明るいんだ」
「え?」
「いつも、別れた後は大体めちゃくちゃ落ち込んでるでしょう」
「そう、かな」
「いつも話聞かされてる僕が言うんだから間違いないよ。ケンにも聞いてみなよ、たぶん同じこと言うから」
「ケンちゃん?」
ケンちゃんにはもう恋人の話はしてないし。
「時々僕に聞いてくるんだよ、「最近リンはどうなんだ」って。最近の話してないんでしょう」
「そりゃあそうよ。小難しい話されるし、終いには「君は学習能力がないな」とか言うし。もう話すのやめちゃった」
「あれでも君のこと気にかけてるんだよ。幼馴染みなんだから」
「そんなに話聞きたいなら、あんな言い方しなきゃいいのに。……まあ、昔からだけど」
はあ、とため息をついて、紅茶を一口飲む。
「この間「私は何か間違ったことを言っただろうか」って心配してたよ」
「言ってることは間違ってないんだけど、対応が間違ってるのよね。傷口に塩塗ってくるタイプっていうか。ケンちゃんも誰か恋人とかできたら変わるのかなあ」
それはどうだろうね、と茶化すような口ぶりで言って、イッキもコーヒーを一口飲む。
「なんか、トーマくんの話してたはずなのに、いつの間にかケンちゃんの話になってたわね。そろそろ出ましょうか」
「うん」
会計に行くと、イッキが全額出そうとしたので、それを制して私が払う。
「もう彼女じゃないんだから、そういうのやめて」
「彼女じゃなくても、女の子に払わせたりしないよ」
「はあ、そういうところがモテるんでしょうね。今日は私に付き合ってもらってるんだから、これくらい払わせて」
私がそういうと、イッキは私の意思を尊重してくれた。
それからも2人で色々と見て回って、結局当たり障りのない、ちょっと高めのインスタントコーヒーを買った。
「今日は本当にありがとう。結局当たり障りのないもの買っちゃったけど、一緒に探す人がいてくれて助かったわ」
「こちらこそ。久しぶりにゆっくり話せて楽しかった。それじゃあ、またね」
「送ってくれてありがとう」
去っていくイッキを手を振って見送り、私は家に入った。
「ただいま、母さん」
「あら、おかえりなさい。早かったのね」
「うん。ちょっと買い物に行っただけだから」
「そうなの?お友達と出かけるっていうから、てっきり母さん、リンちゃんはデートに行ったのかと思ってたわ」
「お友達って言ったでしょ。デートの時はデートって言うじゃない」
「それもそうね」
「それに、彼氏とはつい最近別れたし」
「あら!今度の方とは長かったのにねえ」
「……まあね」
「けど、今回はいつもより落ち込んでないみたいね?」
「えっ」
「いつも、そういう報告はもっと後にしてくるじゃない。何か他にいいことでもあったのかしら」
「ふふ、秘密」
イッキも、母さんも、ケンちゃんも、よく私のこと見てるなあ。
そう思いながら、私は夕ご飯を作り始めた。