適切な距離感
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あれから毎日、私が外に出るときはトーマくんが付き添ってくれた。
そして、数日が経ったとき、ようやくリカの都合がつき、近くのカフェで話し合いの場が設けられることになった。
それまでの間に、家の前に防犯カメラをつけたり、日頃から音声レコーダーを付けていたり、サイトで掲載元の裏を取ったり、証拠はある程度揃ってる。
「久しぶりね、リカ」
「お久しぶりですわ、リンさん。この度は、本当に申し訳ありません……」
「イッキから話は聞いた?」
「はい……。そちらの殿方は……?」
「私の恋人よ」
「まあ!」
リカは連れてこられた他の会員をパッと振り返る。
「っ!」
会員たちはバツが悪そうに顔を逸らす。
「あなたたち、どういうことですの!?リンさんに恋人はいらっしゃらなくて、イッキ様を誘惑なさっていると……!」
「なるほどね、そういうこと。おかしいと思ってたのよ、恋人がいるのにリカが嫌がらせにゴーサイン出すわけないし」
「!」
「リカ、どういうこと?リカが指示を出してたの?」
「も、申し訳……」
「説明して」
「……わたくしは、彼女たちから「恋人がいるイッキ様に対してリンさんが色目を使っている」と報告を受けました。FC内でも不満が高まっておりましたので、牽制するつもりでメールをお送りいたしましたの」
「そうね。あなたからのメールが最初だったわ」
「それをあの子たちに伝えたのですけれど、それでは牽制にならないと、ネットに書き込みを……」
「男漁りが趣味とか、S○Xが趣味とか?親友の恋人を奪ったクソ女とかもあったかしら」
「リカ!」
「も、申し訳ありません……!ただ、わたくしが指示したのは誓って「友人の恋人を奪おうとしている」という話だけですわ!あの子たちを、いつの間にかコントロールできなくなってしまって……。わたくしの監督不行き届きが招いた結果ですわ、本当に申し訳ありません……」
「ネットへの書き込みって、一番面倒なのよね。今も外から私を見てる奴がいるし、あそこの角の席にいる男、さっきこっちにカメラ向けてたわよ。もう数分したら『修羅場なう』とかってネットに上げられるかもね」
「!」
「どうしてくれるの?同じように、あなたたちの顔写真もネットに上げてあげましょうか」
「っ」
会員たちの肩が震える。
「だ、だってイッキがその子ばっかり構うから……」
「何?僕は僕が話したい相手と話しちゃいけないの?彼女は僕の大切な友人だし、君たちに何か言われるようなことじゃないと思うけど」
「!」
「それにさっきも言ったけど、リンには今恋人がいるんだ。僕とどうこうなんてありえないし、僕は今の恋人を大切にしてるつもりだよ」
「そうね、私は恋人にベタ惚れだし、イッキとヨリを戻すとか死んでもありえない話だけど。あなたたちの目には違って見えたということかしら?」
「そ、それは……」
「君たちの目は、友情と恋の違いもわからないほど濁ってるの?」
「っ!」
会員たちは冷や汗をかいて、涙目になっている。
リカも顔が真っ青だ。
「人間不信になるな、全く……」
トーマくんも何か言いたそうだったが、話し合いを始める前に「ただ傍にいて」と私が言ったから、何も口を挟まずに黙っている。
「で、つきましてはネット上での私の名誉挽回と、普段の安全確保、個人情報の保護に協力してほしいのだけど」
「わたくしたちが蒔いた種です。ご協力させていただきますわ」
「僕にもできることがあれば言って」
「あなたたちも、それでいい?あなたたちが納得して謝罪して協力してくれないと、また同じことが起こると思うのよね」
「!」
「……」
此の期に及んで、まだ謝罪の言葉が出てこないようだ。
「君たちは僕をどこまで失望させたら気が済むの?」
「!」
イッキに冷たい目で見られて、さすがにこれはまずいと気づいたのか、小さい声で「……すみませんでした」と呟いた。
「……まあいいわ。前にも同じことをしやがったから、今回こそ法廷に叩き出そうかと思ったけど、今のミジンコの鳴き声くらいでも謝罪してくれたから。協力してくれたら許してあげる」
ニッコリと笑いかけると、やはり彼女たちは気に入らない様子だったが、渋々もう一度「すみません」と呟いた。
「じゃあ、具体的に説明するわね。資料をプリントしてきたから、これを見て」
ネットへの対処やサイトの削除等々、FCにしてほしいことを1つずつ丁寧に説明していく。
「以上だけど、何か質問はある?」
「いえ……ありませんわ」
「ないです……」
「そう。じゃあよろしくね。私は平和な世界でトーマくんと過ごしたいから」
「リン、本当にごめん……」
「なんでイッキが謝るのよ。あんたは何もしてないんだし、こうして協力してくれたからいいのよ。行きましょう、トーマくん」
「はい」
お店を出る前、トーマくんが彼女たちを振り返る。
その表情は見えなかったが、女の子たちの顔が真っ青になった。
「トーマくん?」
「はい、なんですか?」
私に向き直ったトーマくんの表情は、普通だったけど。
「なんでもないわ」
それから2人で歩いて帰った。
付き合い始めてからずっと、怒涛の日々だった気がする。
それでも、自然と手を繋ぐようにはなった。
帰り道、トーマくんの手が、私を安心させてくれていた。
「今日、傍にいてくれてありがとうね」
「いえ。俺は何もできませんでしたから……」
「ううん。傍にいてくれるだけでいいのよ。私はそれで勇気が出るから」
「それなら、良かったです」
信号に差し掛かり、足を止める。
なんだかドッと疲れがきた気がする。
「はぁ……」
「リン」
「えっ───!」
名前を呼ばれると共に腕を引かれ、頬に軽くキスされる。
「え、えっ!?」
トーマくんはにこやかに微笑むだけで、何も言わない。
「な、なになに?びっくりした!」
「……リンさんに大きな怪我がなくて良かった、っていうキスです」
そんなキスがあるのか……と驚いていると、今度は反対の頬にキスされる。
「!?」
人通りの少ない道を歩いていたのは、人目を憚らずキスをするため!?
「今のは、お疲れ様っていうキスです」
「そ、そんな、」
トーマくんは楽しそうに笑っている。
こんな無邪気な一面があったなんて知らなかった。
付き合い始めたばかりで、私はまだまだトーマくんのことを知らない。
でも、優しくて、私のことをわかってくれる、とてもいい人なのはわかる。
これからは本当に、トーマくんとのことを考えて日々を過ごそう。
どこにデートに行きたいかとか、一緒にどういうことがしたいかとか。
嫌がらせ対処に没頭していて、あんまり恋人を満喫できてない。
「トーマくん、」
何か喧嘩したりするかもしれないけど、トーマくんとならきちんと話し合える気がする。
こんなバカップルみたいなことをしちゃうくらい、私はトーマくんに惚れ込んでるから。
「な───ん、!」
私はトーマくんの腕を引いて、唇にキスをした。
「大好き、のキス!」