適切な距離感
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
唐突に決まったデートだったため、行きたいところも何も考えていなかった。
どこか行きたいところは、と聞かれて咄嗟に答えられなかった。
少し考えたトーマくんは、俺に任せてもらえますかと言ってくれた。
「よろしくお願いします」
それから私たちは映画館にやってきた。
「!」
「外だとまだ日差しが強いですから。映画でもいいですか?」
「ありがとう、考えてくれて」
「何見ましょうか───」
そうしてラインナップを見ようとしたところで、
「あ、」
イッキと出会った。
「やあ、2人も映画を見にきたの?」
女の子と2人きり。新しい彼女か。
「ええ。デートよ」
「え!付き合うことになったの!?」
ギョッとしてトーマくんを見るイッキ。
「はい」
私が出しゃばってしまって嫌だったかな……と思っていたが、トーマくんは即答してくれた。
「へえ。今度詳しく聞かせてよ」
「お断りよ。あなただって馴れ初めとか話さないじゃない」
「僕の場合は、まあ」
ちらりと彼女の様子を伺うイッキ。
「冗談よ。行こう、トーマくん」
「あ、はい。失礼します」
「うん。また」
女の子は終始黙っていたけど、イッキと親しげに話す私に対して敵意はあった。
FCの子かなあと思いながら、私たちは映画を見た。
初デートで恋愛映画はちょっと気恥ずかしいと思い、話題になっているアニメーション映画を見ることにした。
私はいつものノリで普通に見入ってしまったが、映画を終えた後のトーマくんの顔は少し表情が曇っていた。
「トーマくん?映画、面白くなかった?」
「え?ああ、いえ。そんなことないですよ。やっぱり話題になってるだけありますね」
少し、嘘が混じった笑顔。
こういうのは、私は気づいてしまう。
「トーマくん、少しどこかで一息つかない?」
「……はい」
それから私たちは近くのカフェに入った。
お互いにコーヒーを注文したけど、会話は全くと言っていいほど弾まなかった。
長い沈黙の後、ついに耐えきれず、私から話し始めた。
「私何か、気に障ること言っちゃったかな」
苦し紛れに出たのは、喧嘩中なら一発アウト、考えもせずにすぐ答えを聞こうとするなという叱責を受ける言葉だった。
まずった、と思いながらも、正直私には全くと言っていいほど心当たりがない。
映画を見る前は普通だったし、映画を見ている間も、私は別に何もしていなかった。
……むしろ何もしなかったことがいけないのか?手を繋いだりするべきだった?いやでも面白い映画だったから、普通に見たかったし……。
「……」
トーマくんは何と伝えたらいいものか、悩んでいるようだった。
口元に手を当てて考え込んでいる。
これは待ったほうがいいなと思い、私はコーヒーを飲んだり周りを見回したりしながらトーマくんの言葉を待つことにした。
「リンさんは、」
「!はい」
「リンさんはイッキさんやケントさんと仲が良いですよね?」
「ええ、そうね」
「俺が言うのも何ですけど、イッキさんと友達みたいに話してる女の人ってあんまり見かけないんです。ケントさんもですけど……」
モゴモゴとはっきりとしない言い方をするトーマくん。
「んー……?」
真意を図りかねたものの、これはおそらく。
「トーマくんのそれって……嫉妬ってことでいいのかな」
「!」
「それ、もしかして付き合う前から聞きたかった?」
「………………はい」
それはそうか。
私の配慮が足りなさすぎた。
トーマくんはこんなにも私のことを考えてくれているのに。
「ごめんね、そうよね。付き合った相手がやたらと仲が良い異性のことなんて、気になるに決まってるわよね」
「無理に効き出すつもりじゃないので、無理に言おうとしなくても」
「ううん、無理じゃないわ。そんな疚しい関係でもないし。ええと、そうね……簡単に言うとイッキは元彼で、ケンちゃんは幼馴染みなの」
「元彼?」
やっぱり、引っかかるのはそっちよね。
「そう、元彼。と言っても3ヶ月も付き合えなくてひと月半くらいかな?で別れたの。あの男、私が日焼けを気にし始めたきっかけについて話したら「日焼けしてても可愛いと思うよ」とか言ってきたのよ。一生添い遂げる気もないくせに軽々しく私の人生を左右しようとすんなってど突いて別れちゃった」
「そんなことが……」
「うん。……この際だからもう全部話すね」
そうして私は、日焼けを気にし始めた原因についてもトーマくんに全て話した。
何か隠し事があると人間関係は拗れやすくなる。
特に、それについて知っている人と知らない人がそれぞれいるとより拗れる。
だから、どうしても隠しておきたいことではないのなら、さっさと話したほうがいいのだ。