星のもと
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『世界』との争いの最中、思いがけぬ来訪者がいた。
「失礼致します、女皇陛下。伝令役、三条晴真にございます」
「こんにちは、三条。何か御用ですか?」
「吾妻夏彦という男がお目通りしたいと申しております」
「吾妻夏彦……?こちらにお連れしてくださる?」
「承知致しました」
吾妻夏彦、どこかで聞いた名前だ。
顔を見れば思い出すかもしれないと思い、椅子に座って待っていると、しばらくして戸を叩かれる。
「お連れ致しました、三条でございます」
「どうぞ、お入りになって」
「失礼致します」
入ってきた男に、見覚えはない。
だが、その装いから、一般市民でないことはわかる。
「三条、あなたは下がってくださって構いませんわ」
「え、しかし……」
「大丈夫ですわ、あなたは会議室へ行ってください。何かあれば、知らせに来てくださいませね」
「し、承知致しました。失礼致します」
伝令役が立ち去り、しばらくして、吾妻夏彦の顔を見る。
「では、お話を致しましょう。『世界』の方が、敵地に何の御用ですの?」
「やはり気づいていたか、一条小百合」
「まあ、その名で呼ばれるのは久方ぶりですわ」
「女皇陛下、だったか」
「ええ。……現代の方は、耳につける通信機器はお持ちではありませんのよ」
彼はなるほど、と通信機器に触れた。
「だが、お前はひとつ勘違いをしている」
「勘違い?」
「俺は確かに『世界』の元にいたが、今は敵対関係にある」
「それをわたくしに信じろとおっしゃるのですか?」
「まあ、信じられないだろうな」
そう話していた時、先程の伝令役が駆け込んでくる。
「お話し中のところ大変失礼致します、陛下!」
「構いませんわ。何がありましたの?」
「はっ、はい、それが、『世界』のものと思われる“何か”が上空から攻撃してきています!」
「ちょうどいい、俺の仲間に応戦させる。それで信じられるはずだ」
「貴様、陛下に対して何たる口の利き方……!!」
「よろしいのよ。……わかりました。けれど、ただ応戦するだけではなく、撃ち落とすことはできまして?それができれば、そちらの本題をお伺いいたしますわ」
「いいだろう」
「取引成立ですわね」
パンパンと手を叩くと、数人の兵士が中へ入ってくる。
「お呼びでしょうか、女皇陛下」
「こちらの方を、お部屋へお連れしてくださる?」
「承知致しました」
「おい!」
「そのように睨まずとも、手荒な真似は致しませんわ。……わたくしはまだ、あなたを信用したわけではありません。ですから、仲間の方が『世界』の戦闘機を撃ち落とすまで、少々身柄を拘束させていただきます」
「くっ……」
「武器も、少々お預かり致しますわね。ご安心くださいませ、お部屋には電波妨害等は仕掛けておりませんから。……では、お連れしてください」
「失礼致します」
兵士達は吾妻夏彦を拘束して武器を回収し、深々と頭を下げて出て行った。
伝令役が「よろしいのですか!?」と声を上げたものの、彼に向けて微笑むと、顔を青くして部屋を出て行った。
「虎雄、そこにいまして?」
「はっ」
隠密部隊隊長の虎雄。
彼は隊員達を動かしつつ、基本的にわたくしの傍に控えている。
「吾妻夏彦とその周りの兵士の見張りをお願い致しますわ。必要であれば、わたくしの名を出し、制圧してくださいませ」
「周りの兵士を、ですか?」
「ええ。何人か、彼が『世界』に類する人間だと勘づいている者がおります。彼らが暴走しないように、見張っておいていただけまして?」
「承知」
虎雄はスッと姿を消す。
あとは、戦闘機の墜落を待つのみ。
「どなたか、そこにいらっしゃる?」
「はい。何かご用命でしょうか、女皇陛下」
扉越しに声をかければ、外で待機していた警備兵がひとり入ってくる。
「各地域の戦況は?」
「もうすぐ定期連絡が入るかと思われますが、先程の上空に現れたもの以外に緊急の連絡は入っておりませんので、他地域は均衡しているかと」
「そう……」
「何か、気になるようなことが?」
「いいえ。……それより、先程上空に現れた『世界』の兵器、あれは今後『戦闘機』と呼称を統一致しますわ」
「承知致しました。伝令を走らせましょう」
「ええ」
空から責められては、今の我々では太刀打ちできない。
今、わたくしの治めるこの地域では、わたくし達は上空における戦闘手段を所持していないことになっている。
わたくしを含む我が一族の上層部のうち数名は、隠された兵力を知っているが、口外はされていないのだ。
一番は、我々が『世界』に近い存在であると民に印象づけないため。
『世界』と対等な技術を見せれば、民は我々に畏れを抱き、そこに疑念を生んでしまう。
我々もまた、彼らから搾取する側の人間なのではないかと。
「頭が、痛みますわね……」
そのため、技術は後から開発されたことにした方が良いのだ。
だが、現在の研究者の中に飛行船に関する才能に長けた者は少ない。
彼らにヒントを与えつつ、どうにか彼らの力で生み出してもらわねば。
吾妻夏彦が信用できる人間であれば、元『世界』側の人間の知識として、戦闘機の作成に取り掛かることができるかもしれない。
彼がこちら側につくのは、メリットだ。
その時、不意に扉が開く。
「失礼致します!」
「どうしました、三条?」
「はい。ご報告申し上げます!『世界』の戦闘機、と申しましたか。何者かの攻撃により、墜落を確認致しました。操作していた人間の死亡も確認されております」
「わかりました、ありがとうございます。今すぐ吾妻夏彦をここへ!」
「はっ」
風向きが、良くなってきたかもしれない。
少しだけ、頭の痛みが和らいだ気がした。