星のもと
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
屋敷の外には、民が集まっている。
方々の道は塞がれ、ごった返している。
わたくしは正装に身を包み、3階のバルコニーから外へ出た。
わたくしの姿を見て、民が歓声をあげる。
それを手で制し、わたくしは言葉を紡いだ。
「皆、忙しい中集まっていただき、感謝します」
一度、お辞儀をする。
「入国前にお話しいたしましたことを、覚えていらっしゃいますか?」
皆、顔を見合わせる。
「『世界』の行う、リセットについてです」
「「!」」
「ついに、その時が参りました。近日中に、リセットが行われる可能性があります」
皆がざわつくのを、また手で制す。
「お話ししていました通り、皆には近々シェルターの中に入っていただきます。今のうちに絶対に失いたくないものはまとめておいてください。荷物の制限については、本日中に掲示板に記載いたしますので、そちらをご確認ください」
そして、これからが本題だ。
一呼吸置く。
「そしてこれは、皆には初めてお伝えすることですが」
息をのんでいる、というのはこういうことなのだろうと感じるほど、皆がわたくしの言葉を待っているのがわかる。
「リセットが行われた後、この国は消滅いたします」
「「「!?」」」
「リセットの影響、というのももちろんありますが、これからは外の世界と1つになり、『世界』ではなく人々の手によって動かされていく社会を作っていただきたいのです」
一条家の悲願、それは『世界』の滅亡と、人々による社会の運営だった。
「外界との文化の差や価値観の差など、様々な壁にぶつかることでしょう。しかし、わたくしと共にこの平和な国を築いてくださった皆に、この地球を託したいと思います。我々が得ている知識を共有し、どうか豊かな世界を築いてください」
泣き始める人、狼狽える人、戸惑う人。色んな人がいる。
「リセット後の皆の生活は、一条家が責任を持って確保いたします。今と変わりない暮らし、というのは難しいかもしれませんが、少なくとも最低限以上の生活ができるよう、取り計います」
外界から隔離し、こちらの都合で解放する者の責任。
それは必ず果たす。そう決めていた。
「これから様々な困難が待ち受けていることと思います。ですがどうか、平和を重んじる心を、隣人を思いやる心を、忘れないでください。わたくし達の目指した社会を、皆の手で外界に作り上げてください」
警備員も含め、皆で頭を下げる。
「どうか、これからの未来を、よろしくお願いいたします」
パチパチ、といった数人の拍手から、喝采に変わる。
任せてください、陛下!、今までありがとうございます、様々な声が飛び交う。
これほどの国を築き上げてくださったのは先代達だけれど、わたくしも、それをどうにか維持させることができたのだと、感情が高ぶっているのがわかる。
今一度深々とお辞儀をし、わたくしは屋敷内へ戻った。
「警備隊の皆、ご苦労様でした。最後の仕事に、掲示板にお知らせを掲載してください」
「はっ」
「我々は陛下の下で働くことができ、光栄でした。陛下もどうか、お元気で」
「ありがとうございます。わたくしも、皆についてきていただけて、幸せでした。どうか、息災で」
警備隊と入れ替わりで、夏彦が入ってくる。
「……どういうことだ」
「あなたには、まだ話していませんでしたね。これからお話しいたしますわ。わたくしの書斎へ参りましょう」
久しぶりに、頭が痛い気がする。
途中でお茶を注ぎ、書斎へ入る。
座るよう促し、テーブルにお茶を置く。
「ええと、何から話しましょうか……」
少し考えて、初代から続く一条家の悲願について、そしてその悲願が叶う日が近いことを話した。
「一条家は何千年もの間、ずっと『世界』を滅ぼすことだけを目標として活動してまいりました。それが本年、ようやく叶うのです」
「リセットから逃れていたことは聞いていたが、なぜそれほどまでに『世界』を憎んでいる?お前の先祖は確かに『世界』が憎かったかもしれないが、お前自身が憎む理由にはならないだろう」
「確かにわたくしは『世界』を憎んでいるわけではありませんわ。けれど、滅ぼしたいとは思っているのです。憎いからではなく、単純にその存在に疑問を感じているから」
先代からリセットや『世界』の話を聞かされた時、子供ながらに、これはおかしいと感じていた。
同じ人でありながら、なぜ人を支配する人がいるのか。
そして、一条家の存在を知った時、ああ、わたくしが変えていくのだと思った。
「一条家に縛られている、と思われても仕方ありませんわ。実際、一条家に生まれたからこそ、わたくしはこのように指揮をとり、人が平等に社会を築き上げられる世界を作ろうとしているのですから」
「……ではなぜ、最後までお前が指揮をとらない?この国だけでなく、世界各地に一条家の名を轟かせ、正しい世へと導けばいいだろう」
「それは違いますわ。それでは『世界』と同じですもの。正しい世など、わたくしなどにはわかりません。わたくしも人ですから。正しい世とは、誰かに導かれるものではなく、皆で共に歩いてたどり着くものなのです」
リセットをしたり、情報を隠して統制したり、そんなのは結局のところ一時しのぎに過ぎない。
戦は起こり、たくさんの犠牲が出るかもしれない。
でもそれは、リセットでしのいでいたとしても、いずれ出る犠牲だったろう。
それでも、過ちを認め、たくさん後悔しながら、学び、生きていく。
それが本来の人の形ではないかと、わたくしは思う。
「わたくし達一条家は、一条家による世界の統制を望んでいたわけではありません。あくまでも、人の手に社会の運営を委ねるために活動してきたのですわ」
「……なるほど。それでこの国も無くすのか」
「……ええ。名残惜しいですけれど、いつかはこの国も無くさなければなりませんでしたから。この国がなくなるということは、『世界』による統治がなくなるということ。それはとても喜ばしいことですわ」
この国を離れる覚悟などとっくにできていたはずなのに、いざその時が来ると、少し寂しい気持ちになる。
けれど、わたくしが迷っていてはだめだ。
一条家の当主として、真っ直ぐと進む先を見据えていなければ。
「『世界』の元へ行く算段はついているのか?」
「ええ、まあ。ステルス機能付きの航空機がありますから、それで向かうつもりですわ。夏彦も参りますわよね」
「当然だ。……俺の航空機に乗るか?」
「……よろしいのですか?」
「ああ」
夏彦が所持しているもの、ということは、『世界』のセキュリティを熟知したもののはず。
一条家で独自に研究し開発したものより、信頼度は高い。
「では、お言葉に甘えさせていただきますわ」
わたくしは、準備を進めてくれているであろう作業員に伝え、少し早いが退職してもらうことにした。
「皆、これまでよく尽くしてくださいました。本当にありがとうございます」
屋敷勤めの人々を呼び、改めて礼を言う。
戦に出ていた軍も呼び戻し、全員に頭を下げた。
あとはもう、ここを発つだけだ。
皆に挨拶を済ませた翌日、わたくしは再度能力者達の位置を確認し、夏彦と共に国を出た。
「皆、どうか息災で」
「陛下も!」
「陛下にお仕えできて幸せでした!」
わたくし達が飛び立った後も、見えなくなるまでずっと手を振っていてくれた。
彼らがこれから自由に生きていけるよう、わたくしはわたくしの使命を果たさなければ。