星のもと
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夏彦が眠った後、わたくしはジェット機を抜け出した。
茂みに隠れていた兵士と合流し、施設に向かう。
「ここからは隊を2つに分けます。それから、5名はわたくしの傍に」
「はっ」
「それでは各々、抜かりなく遂行してください」
「御意」
わたくしの元に残った5名に見張りを任せ、床に手をつき能力を使う。
わたくしの能力は、大地を動かすだけでなく、半径10km程度なら建物内の空洞などから構造を調べられる。
実際に現地を目で確認する方法とわたくしの能力を合わせることで、より精密な地図を作るのだ。
「……」
そして、わたくしは構造しか調べられないため、どこがどういう部屋なのか、どこにバックアップが隠されているのかがわからない。
だからこそ、目で見る係りが必要だ。
そして、彼らには特定できない隠し部屋などを調べるのはわたくしの役目。
意識を手に集中させる。
脳内で図面を描きながら、部屋の場所、隠しルート、施設の大きさ、地下に何かないか、慎重に調べていく。
「陛下、」
「どうしました?」
「通信機が使えません。妨害されているようです」
おそらく、侵入者を念のため警戒して事前に対策されていたのだろう。
これは想定内だ。
「わかりました。周りの音を警戒しつつ、新しい通信機を試してみてください」
「御意」
以前、別の施設に忍び込んだ際にも通信の妨害を受けた。
その時の経験を生かし、『世界』の技術に対抗できそうな通信機を開発していたのだ。
ただ、実戦では一度も試したことはない。
成功するかはわからない。
「!繋がりました」
「よかった。引き続き状況を確認していてください」
「御意」
粗方脳内で図面を書き終え、立ち上がる。
「他2班はどう?」
「東部隊は調査終了、現在こちらへ向かってきている模様です」
「西部隊は?」
「……それが、」
「?」
嫌な予感がする。
「現在、連絡が途絶えています」
「妨害のせいではなく?」
「はい、おそらく」
「そう……」
今、『世界』にこちらの動きを悟られるのはまずい。
セキュリティが厳しくなったり、警備が厳しくなったりすると、計画の遂行が困難になってしまう。
「わかりました。東部隊が戻ってきたらあなた達は先に離脱してください。わたくしは西部隊の元へ向かいます」
「しかし、陛下!」
「何も戦闘するわけではありません。わたくしの指示に従ってくださいませ」
「……御意」
「では、頼みましたよ。くれぐれも下手な行動はなさらないで」
「はっ」
わたくしはそう言い、西部隊が向かった方へ歩き出した。
「西部隊、応答してください」
通信機は、確かに使えているはずなのに、応答はない。
前にも、うっかり隠し部屋に入ってしまった兵士がいたから、その可能性が高いかもしれない。
人目を避けつつしばらく廊下を歩いていると、突然通信が入った。
『聞こえているか』
声を聞いて、すぐに誰かわかった。
「夏彦……?」
眠っている時を見計らって、静かに出てきたはずなのに。
しかし、夏彦が話しているということは、東部隊と合流して無事離脱できたということだ。
「皆、無事ですか?」
『ああ。今はそちらのことだ』
「何か、知っているのですか」
『昔、一度だけそこの施設に来たことがあるのを思い出した。そこにはバックアップのフェイクが2箇所ある。そのうちの一箇所が、ちょうど西部隊が向かった先にあるんだ』
そこでハッとする。
もしかすると彼らはバックアップを見つけ、消去しようとしている?
「……貴重な情報ありがとうございます」
歩いているうちに、それらしい部屋を見つけた。
一旦夏彦との通信を切り、西部隊に切り替えると、その部屋に近づくほど声はクリアに聞こえてきた。
静かに中を覗くと、西部隊の面々が機械に触れようとしていた。
「皆さん!」
わたくしの声に驚き、1人が振り返る。
「陛下……!」
「何をなさっているのですか」
「陛下、これを!」
また1人は、嬉しそうに画面を見せてくる。
「ここがバックアップの場所です」
「……」
確かにそこには膨大なデータが残されていたが、夏彦を信じるならこれはフェイク。
「今回の任務の趣旨を理解していますか」
「えっ」
わたくしに言われ、各々ハッとして青ざめていく。
「他の部屋の調査は?」
「……申し訳、ありません」
「あれほど作戦の説明を───」
話していた時、こちらへ向かってくる足音が聞こえた。
「隠れて」
わたくしの指示に従い、各々物陰に隠れる。
「誰かいるんですか?」
その声とともに、ここのスタッフらしき人が覗く。
「やだ、画面開いたままじゃない」
バックアップが表示された機械を操作し、画面を閉じる。
少し室内を見回して怪訝そうに出て行った。
「これ以上の滞在は危険ですわ。撤退いたしましょう」
「ですが、調査は、」
「よろしくて?今回の調査が相手にバレると、構造が明確にわからないよりも困ることになるのです。ここは引くべきですわ」
「……御意」
その後、西部隊を連れて、なんとか気付かれずに外へ出ることができた。
ただ、あの機械を誰かが操作したということは向こうにバレているだろう。
内輪揉めのタネにでもなってくれたらいいが……。
「#名前#!」
「陛下!」
わたくし達が外へ出ると、夏彦達が駆け寄ってくる。
「早く施設を離れましょう。皆も機内へ」
「御意」
皆を連れて機内へ戻る。
兵士達には機体後方の別室へ入ってもらう。
「これにて無事作戦は終了となります。皆さん、ご協力ありがとうございました。ゆっくり休んでください」
「もったいないお言葉に存じます」
西部隊の何名かは浮かない顔をしていたが、恭しく頭を下げていた。
毛布の場所だけ教え、わたくしは夏彦の元へ向かう。
「……」
部屋に入っても、夏彦は何も話さなかった。
目を瞑り、少し眉間に皺が寄っている。
「……あの……」
なぜか居た堪れない気持ちになって、つい沈黙を破ってしまう。
「……なぜ俺に黙って行った?」
「……」
夏彦の鋭い目を見て、誤魔化しが利かないことを悟る。
「今回の目的は、内部構造を探ることでした。ですから、夏彦の力を借りるまでもないと思ったのです」
「あと少し西部隊を見つけるのが遅ければ見つかっていたかもしれないだろう」
「……その通りです。夏彦の情報があってこそ、わたくしはあの部屋に気を留め、合流することができました。彼らが情報に気を取られてしまったことも含め、わたくしの監督不行届きですわ」
夏彦はため息をつく。
「今回の施設が最後だったものですから、わたくしの中にも気の緩みがあったのだと思います」
このところ、色んな場面で気が緩みすぎている。
終わりに近づくほど、気を引き締めていかなければならないのに。
「夏彦にもご迷惑をかけてしまい、本当に申し訳───」
「違うな」
「え?」
「迷惑ではない」
「……?」
意図を図りかねて首を傾げると、夏彦はまたため息をついて、わたくしの手を夏彦の両手で包み込んだ。
「心配だ」
「!」
真っ直ぐにわたくしを見つめ、真剣な表情で言う。
「……ご心配を、おかけしました」
「ああ」
夏彦は満足そうに頷く。
けれどわたくしは、以前のことも思い出して、少し落ち込む。
夏彦から見て、わたくしはそんなにも頼りなさそうなのだろうか。
どんなに能力があるといっても心配するかもしれないことはわかっている。
それでもわたくしは、夏彦にため息を吐かせるほど心配をかけていると思うと、少し、胸が痛む。
「少し、風に当たってきますわ」
「は?こんな時間に、」
「……1人で思考する時間をいただきたいのです。すみません」
「……っ」
引き留めようとする夏彦を背に、わたくしは外へ出る。
寒い外界で、深呼吸をする。
あまり、夏彦に深入りするのは良くない。
気が緩むし、つい彼を頼りたくなってしまう。
……違うな。全てわたくしの精神力の弱さがいけない。
もっと強く、もっと冷静に。
今回の任務で、もう何か気を張らなければいけないことはなくなった。
正確には、最終計画を遂行するまで、わたくしは国の業務をこなすだけ。
わたくしに残された時間を、有効に使わなければならない。
改めて色々な覚悟を決め、わたくしはもう一度深呼吸をした。