星のもと
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屋敷を出たところで、ちょうど夏彦と会った。
遠い地の戦に、介入してきた帰りらしい。
「小百合、どこか行くのか?」
「ええ、北方の戦地へ」
「は?頭が出ていくなど、」
「それは先程チーム長とやり取りを致しました。急ぎますので、」
「……乗っていけ」
「え?」
「急ぐんだろう。公表してる設備では、数時間はかかる」
「……ありがとうございます」
何故夏彦が手助けをしてくれるのかはわからないけれど、夏彦の言う通り、民に明かしている技術では、時間がかかりすぎる。
戦闘機に乗り込むと、1人の男が操縦席に座っている。
「あれ、夏彦さんまた出発っすか?」
「ああ。すぐに出せ」
「はーい。……もしかして、この綺麗な人が一条小百合様!?」
「初めまして、一条小百合ですわ。ええと、あなたは確か、雪ですね」
「俺のこと知ってるんすか?」
「はい。夏彦から聞いておりますわ。今お帰りになられたばかりのところ申し訳ありませんが、よろしくお願い致します」
「任せてください!」
彼は文句も言うことなく、戦闘機を飛ばしてくれた。
おかげで1時間もかからずに現地上空に到着できた。
「着陸は結構ですわ」
「!?おい!」
夏彦の制止を背に、わたくしは上空からダイブした。
高度と落下速度を脳内で計算し、怪我なく着地できるよう、あらかじめ地面を自分の方へ引き寄せておく。
体と接地した瞬間に落下速度を徐々に落としながら地面を元の高さまで上手く戻していく。
無事地上へ降り立つと、わたくしの能力が使用されたのを見て集まって来た兵士達が待っていた。
「女皇陛下だ!」
「陛下がお越しくださった!」
「陛下!!」
皆大いに盛り上がっていたが、指揮官が大きな声で皆に言い聞かせた。
「陛下の御前である。皆、静まれ」
その一言で、皆ハッとし、わたくしに向かって頭を垂れた。
「構いませんわ。皆、頭をお上げくださいませ」
「女皇陛下、遥々北方の地へようこそお越しくださいました」
「連絡は届いておりますか?」
「は、つい先ほど届きました」
「では、これより、わたくしが許可を出すまで、相手に攻撃をする事を禁じます」
「!?」
場がざわつき始める。
それもそうだ。相手はもうすでに攻めて来ようとしている。
迎撃を止められて、皆が不安になるのは当然のこと。
「安心なさってください。皆や街へ危害が及ぶようなことは致しませんわ。少しだけ、わたくしに時間をください」
各々が顔を見合わせ、頷き合う。
「陛下がそうおっしゃるのでしたら、そのように」
その顔は、希望に満ちていた。
権力に屈したのではなく、本当にわたくしを信じてくださっている。
「ありがとうございます」
それから兵士達はわたくしを戦場近くのテントへと案内してくれた。
「拡声機器の準備を」
「は。あと2分ほどで出来ます」
相手側に声を届けるため、拡声機器の準備を連絡事項に入れておいた。
夏彦にも、通信機器だけ渡して来た。
これで、どうにか流れる血を減らす。
「準備できました!」
「ありがとうございます。皆、離れていてください」
わたくしはテントを出て、兵の隊列よりも前に進み出る。
敵方の指揮官がわたくしの姿を捉えたのか、相手の動きが少し鈍くなる。
『『世界』の兵達、しばしその耳をこちらへ傾けよ』
わたくしの声が、響き渡る。
『あなた方は『世界』に騙されている』
相手の隊列が乱れ、ざわつきがこちらまで伝わってくる。
『上空の飛行物体が援護するから大丈夫だと、そう言われたのであろうが、あれはただの移動用の機体に過ぎぬ。戦用ではない』
相手の隊列の先頭にいた兵士達が後ろを振り返り、他の兵士達は上を見上げ始める。
『現に、こうして話していても、攻撃してこないのが何よりの証拠だ。防御力も低く、簡単に破壊できてしまう。その上、無人機だ』
そう言ってわたくしは地面に両手をかざし、勢いよく両腕を振り上げた。
すると、地面から拳3つ分くらいの岩が2つ浮上し、上空の2機を貫いた。
機体は炎を上げながら離れたところに墜落していく。
相手側は、悲鳴を上げる者、逃げ出す者、ヤケクソになってこちらへ走って向かって来る者、いろんなタイプに分かれた。
『あなた方がこちらへこれ以上危害を及ぼさないのであれば、その命はこの一条小百合の名にかけて保証する』
向かって来ていた者の動きが鈍くなる。
『武器を捨て、投降せよ。これ以上の流血は無意味!あなた方を騙し、利用した『世界』へ、反逆の時である!』
高々と宣言すれば、多くの者が武器を地面に置いた。
しかし、後方がどうにも動かない。
「夏彦、後方の状況を教えてください」
通信機を介して、夏彦と連絡をとる。
『『世界』の軍らしき奴らが銃を持って後方の兵を脅しているように見える。撃つか?』
「いいえ、こちらで対処致します。ありがとうございます」
わたくしは前方に手を向けて力を込め、上に引き上げる。
地響きと共に、後方の兵の後ろに大きな土壁ができた。
地響きのおかげで『世界』の兵は少し引き、あちらの民の中で何かを察した者が声を張り上げたおかげで、向こう側に逃げようとしていた兵も、こちら側へなんとか逃げてこれたようだった。
『新たな世を築こう、我らと共に!』
おお!!!という声と共に、向こうの兵がこちらへ駆けてくる。
「全員捕らえて、首都へ輸送してください。くれぐれも乱暴なことはなさらないよう、お願い致します」
「は!陛下の仰せのままに」
向こうの兵がこちらへ向かって来たのを確認した夏彦は、近くの茂みに着陸したようだった。
現場の兵に任せ、帰りの用意をしていたところ、夏彦が駆けて来た。
「小百合!」
「夏彦。先ほどはありがとうございました」
「いや、それはいい。お前、目が、」
「ああ、赤いですか?大丈夫ですよ、サングラスをしていれば誰もわかりませんから」
「そうじゃない。……能力が原因か?」
「ええ、まあ。使い過ぎると、このようになってしまいますの。でも大丈夫ですわ。少し休めば元通りになります」
「……」
「さあ、帰りましょう。兵士達への挨拶は済ませました。屋敷に仕事を残してきておりますから、早く戻らなければなりませんわ。またお手数おかけしますが、送っていただけますか?」
「……ああ」
夏彦は何か言いたそうにしていたが、何も言わず、わたくしを屋敷まで送り届けてくれた。
夏彦の部屋の前で別れる時にも、ずっと何か言いたそうにしていたが、結局何も言わず、「今日はありがとうございます」と言うと、「ああ」とだけ言って、部屋へ戻っていった。