星のもと
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「お待たせ致しました、吾妻夏彦。我々は、あなたを信用致します」
「それは何よりだ」
「へ、陛下!」
ひとりの兵士が抗議の声を上げる。
「『世界』の戦闘機を撃ち落としたのは、この方のお仲間です。充分信用に値すると思いますけれど……ご意見がありましたらお聞きしますわ」
「しかしこいつは『世界』の……」
「ええ、確かにこの方は『世界』にいた人間ではありますけれど、今は反旗を翻し、彼らと敵対関係にあります。それではご納得いただけませんか?」
「……差し出がましいことを申しました。申し訳ありません」
「いいえ。あなたが感じていることは、おそらく皆が感じていることですわ。むしろ、ここで意見を述べてくださって、ありがとうございます」
恐れ多いお言葉にございます、と頭を下げ、兵士は壁に控えた。
「それでは、本題に入りましょう。何故、わたくしの元へ?」
「ああ、」
それから、吾妻夏彦が言うには、補給拠点の確保が目的らしい。
食料や燃料をより手軽に入手し、休息が取れて、『世界』に敵対し続けている勢力の中に拠点を作りたいと。
「そちらの要望は把握致しました。コックピット並びに食料や燃料、それから、この屋敷の中に部屋も用意させましょう」
「……条件があるんだろう」
「察していただけて、助かります。こちらがそれらを提供するにあたって、わたくしと協力関係になっていただきたいのです」
「協力関係だと?」
「はい。といいましても、今回のように直接戦闘に関わっていただきたいわけではありませんわ。ただ、あなたの持っている技術を、わたくし達の研究チームに授けてほしいのです」
「……いいだろう」
彼はおそらく、『世界』の知識をそのまま教えてはくれない。
今の時代のレベルに合わせたものだけをこちらに与えるつもりだろう。
しかしそれは、一条家が“本当に”現時点で公にしている技術しか持っていなかった場合。
「ありがとうございます、契約成立ですわね。さっそく研究チーム長にあなたのことを伝えておきますわ。これからよろしくお願い致しますね、夏彦」
「ああ、こちらこそ、小百合」
夏彦と手を取り合い、握手を交わす。
「陛下をそのように呼び捨てするなど……!!!」
「良いのです。彼とわたくしの関係は契約の上で成り立ち、それは対等なものですから」
「……失礼致しました」
「では、夏彦を研究チームのところへ案内していただける?」
「承知致しました」
皆がわたくしの部屋から出て行ったことを確認し、わたくしは自分のこめかみに手を添える。
『チーム長、聞こえますか、チーム長?』
『はい、小百合様』
『今そちらに『世界』から来た殿方をお送りしました。あとはお任せしてもよろしくて?』
『心得ております』
『それでは、よろしくお願い致しますね』
『御意』
わたくしと、本家の幹部のみが使用できる、連絡手段。
声に出さずとも、相手に言葉を伝えることができる。
通信が届く範囲はこの屋敷内のみとなってしまうが、誰にも聞かれたくない話をする時にはちょうどいい。
「虎雄」
「はっ」
「先程墜落した戦闘機のパイロット、身元を特定しておいてくださる?」
虎雄は『またか』と言いたげな顔をする。
「……『世界』側の人間でしょうし、特定はかなり難しいかと」
「いいえ、おそらく民間の方ですわ。『世界』なら、無人戦闘機くらい持っているはずですもの。わたくし達との戦争にまだ本気ではなく、『世界』に味方する民を利用しているのでしょう」
虎雄はかねてから、一々死んだ人間の情報を確認しなくていいと言ってきている。
いつもの如く、どうにか情報収集から逃れようとしているように見えた。
「……差し出がましいことを申しました」
「構いませんわ。よろしくお願い致しますね」
「はっ」
けれど、わたくしだけは、忘れてはならない。
わたくし達は、正義の味方でも何でもない、ただの人殺しであると。
知らぬ誰かであったとしても、その者にも家庭があり、大切なものがあり、幸せに生きる未来があったはずだということを。
誰の命を奪い、誰を傷つけたのか。
これはわたくしの自己満足だけれど、わたくしは、死にゆく者達のことを知っておかなければと、思ったのだ。
「陛下!」
「……何かしら?」
「吾妻夏彦が『話がある』と申しております」
「お入りになって」
「……」
出て行ってからまだ30分も経っていない。
夏彦は明らかに不機嫌だった。
「……部屋を変えましょう」
「陛下、どちらへ?」
「わたくしの書斎へ参ります。あなた方はここの警備を続けてくださいませ。伝令役が来たら、対応は司令官に一任するとお伝えしてくださる?」
「承知致しました」
移動している間も、夏彦はずっと喋らなかった。
他の者は諸々知らされていないと察してくれたのだろう。
「さあ、お入りになって」
「……ああ」
「そちらの椅子へどうぞ。……それで、お話とは何でしょう?」
「わかっていて聞いているだろう」
「ええ。……あなたが何を言いたいのか、ある程度はわかっているつもりですわ。けれど、それでもあなたの口から話してくださいな」
「……はあ。まあいい。まず、先ほどお前の言う“チーム長”とやらと会って話した。が、契約した内容とは随分違ったな」
「どのように?」
「お前は俺に『世界』の技術をチームに授けろと言ったが、あのチーム長とやらは既に技術を得ていながらチームに還元していなかった」
「ええ」
「それどころか、元々知っていたにも関わらず、俺からの技術としてチームに話した」
「はい」
「これはどういうことだ?」
「そのまま、夏彦が見てきた通りですわ」
「そうじゃない。俺が聞いているのは、何故一条家がここまでの技術を得ているのかということと、何故それを他の人間が知らないのかということだ」
「……あなたになら、まあ話しても問題はないでしよう。お話し致しますわ」
それからわたくしは、一条家が2度リセットから逃れていることや、持っている技術を公にしない理由を話した。
「夏彦、あなたに協力をお願いしたのは、もうこれ以上、持っている技術を隠して『世界』と争い続けるのは難しいと感じたからなのです。とはいえ、わたくしから技術を与えれば、何故隠蔽していたのかと、もしや『世界』の手下なのではという疑念を民に抱かせかねません」
「その疑念は当然のものだろう」
「けれど今、内部統制を崩されるわけにはいかないのです。ですから、あなたからの情報提供という形をとって、わたくし達の持つ技術を公表しようと考えたのです」
「賢明な判断ではあるが、今の戦況は均衡しているんじゃないのか」
「『世界』が手を抜いた状態で、均衡しているのです。一条家には、『世界』の中に内通者がおりました。しかし、その方とはおよそ100年前に連絡が途絶えてしまったのです。『世界』がそこからどれだけの成長をしたのか、わたくしは存じません。『世界』が本気を出せば、今のわたくし達では確実に負けてしまいます。……そうなれば、この地域の民はどうなるのですか。本当はこんな戦いなんて───」
───するべきではなかった。
そこでハッとして口を閉じる。
一度深呼吸をして、気持ちを落ち着かせ、再び口を開く。
「……失礼致しました、今のは失言ですわ」
「……いや……」
「とにかく、わたくし達は早急に『世界』への対応を考えなくてはならなかったのです。そんな時、あなたが来てくださって、これが最善であると判断致しました。……不服かしら」
「……そうだな、そういう事情は契約前に言ってもらわなければ“話が違う”と言いたいところだが、まあいい。そういうことなら、別に協力は惜しまない」
「ありがとうございます!良かったですわ、あなたが、協力してくださ………っ……て…………」
喜びのあまり立ち上がると、目眩がして、体が大きく傾く。
「っおい!!」
床に倒れる直前で、夏彦が抱き止めてくれた。
「……すみません…………」
「お前、熱が……」
夏彦が、私の額に手を当ててぎょっとする。
「……虎雄」
「はっ」
「30分だけ、仮眠を取ります。この部屋の一切の出入りを禁じ、わたくしは夏彦と話し込んでいることにしてください」
「御意」
「おい、とても30分じゃ……」
「……申し訳ありません、夏彦。わたくしの自己管理がなっていなかったばかりに、あなたまで巻き込んでしまって」
「そんなことはいい。それよりも───」
「ありがとうございます。では、今話した通りですので、30分だけ、この部屋にいていただけますか?」
「………………わかった」
書斎には、簡易ベッドが備え付けてある。
わたくしはそこへ横になり、すぐに眠りに落ちた。