第2章
夢小説設定
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「やっぱりマコ、イッキさんと何かあるだろ」
「……」
さっき私が飛び退いた様子を見れば、トーマ君もさすがにもう誤魔化されてくれない。
「まあ、言いたくないならいいけどさ。何か困ってるなら頼れよ」
トーマ君は本当にいい人だと思う。
都合の、いい人。
無理にこちらに踏み込んでくるわけでもなく、かといって突き放すわけでもない。
私が話せば聞いてくれるし、話そうとしないなら聞いてこない。
カナさんに対しては、また別なのでしょうけれど。
「そうね、トーマ君になら話してもいいかもしれないわ」
彼は本当に黙っていてほしいと言ったことは誰にも言わない。
お節介を焼いてしまうこともあるようだが、直接秘密をバラしたりすることは絶対にない。言い切れる。
彼は、間接的に関わろうとするからだ。
だから、彼には話しても大丈夫だろうと思った。
「今日、バイト終わった後時間ある?」
そう言うと、トーマ君は少し嬉しそうに笑った。
バイト終わり、カナさんがいなかったこともあって、トーマ君は誰にも引き止められることなく、私と居酒屋に向かった。
「本当にここで良かったのか?」
「ええ、こういう賑やかなところの方が、意外と私たちのことなんて気にしていないものだから。それに、これだけ色んな人達が話していれば、私の声はトーマ君くらいにしか聞こえないでしょう?」
それから、2人でお酒を頼み、私はイッキ先輩とのことをトーマ君に話した。
嘘も隠し事もしない。
事実をそのまま伝えた。私の主観ではあるけれど。
「えっ、じゃあイッキさんとは同じ高校で、でも向こうはマコのこと覚えてないんだ?」
「それはそうよ。自分で話しかけたわけではないもの」
「それでも、好きなんだ」
「そう。もう、面食いだと思うでしょう……。話したこともないくせにって……自分でもそう思うわ……。でもね、最初は見た目からだけれど、ちゃんと中身も知ったのよ?全部、聞いた話と、見たことだけだけれど……」
「あー、マコ、もうそれくらいにしときな」
「うぅ……」
トーマ君は、空になった私のコップを取り上げ、代わりに水を置いてくれた。
「あ、そういえば、」
「?」
「イッキさん、最近悩んでるっぽいんだよな」
「……え?」
「なんか、付き合った子がみんな3ヶ月くらいで離れていっちゃうって」
私は受け取った水を一気飲みする。
「……どういうこと?」
「いや、俺も詳しくは知らないんだけど。この間ボヤいてたんだよ、『また3ヶ月で別れちゃった』って」
「イッキ先輩からではなくて、向こうから別れを告げられるの?」
「ああ、そうらしい。それも、ほとんどの子は3ヶ月ピッタリくらいで別れるって」
「ピッタリ……」
高校の時は、そんなことなかった。
1ヶ月の時もあったけれど、半年続いている子もいたと思う。
「彼女が嫌がらせを受けている、とか?」
FCからの嫌がらせは、昔からあった。
それに耐えられない彼女は、早々にイッキ先輩から離れていってしまう。
逆に、FCの子の場合は、仲間うちで何か取り決めをしているのか、特に嫌がらせも起こらず、付き合えているようだった。
それでも、彼女側から別れを告げることは早々なかったはず。
3ヶ月ピッタリ、というのが引っかかる。
「んー、どうなんだろう。俺もちゃんと聞いたわけじゃないからさ。それこそ本人に聞いてみたら?話すきっかけになるだろ」
「え、いきなりそういうプライベートなこと聞くのって嫌われない?仲良くなれてからだと思うのだけれど」
「その仲良くなるのに、会話は必須だろ。それに、イッキさん最近はよく知らない子でも告られたらOKしてるっぽいし、普通に話しかけても大丈夫なんじゃない?」
「知らない子でも……?つまり、好きじゃないけどOKしているということ?」
さあ、とトーマ君は言う。まあ、普通はそんな踏み込んだ話はしないだろう。
でも、引っかかった。
3ヶ月で離れていく彼女。
しかも、せっかく付き合えたイッキ先輩に自ら別れを告げている。
それに、高校の頃はちゃんと好きな子以外には『まず友達から』と断っていたのに、告られたら誰でもOKするようになっている。
そして、イッキ先輩は、彼女が離れていくことに悩んでいる……。
私の知ってたイッキ先輩とは、少し変わっている。
「そろそろ帰るか。マコ、門限大丈夫?」
「ああ、うん。大丈夫。たぶんこのお店を出たらすぐ迎えが来るから」
私が言った通り、店を出ると、待ち構えていたように車が来る。
トーマ君を家まで送り、私は帰宅した。
とりあえずその日、トーマ君から聞いた話はノートにメモしておいた。
何かあった時、彼の助けになれるように。