最終章
夢小説設定
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とうとう朝がやってきた。
「お嬢様、今日のご予定は?」
「あ、ああ……冥土の羊にご挨拶をして、それから、それから……」
「……イッキ様のところへ行かれるのですね」
「そ、そう。うん。行きます」
「かしこまりました。……どのようなことがありましても、このシノ、お嬢様の味方ですので」
「ちょ、ちょっと!なんでそんな、振られる前提、みたいな……」
「お嬢様が自信なさげにされているので、そのような前提でお話した方がよろしいかと。……きっと大丈夫ですよ」
「……ええ、そうね。きっと……」
「いってらっしゃいませ」
「ええ、行ってくるわ」
サカキの送迎を断り、私は冥土の羊まで歩いた。
昨日は疲れていたからか、車から外を見なかったけれど、歩いていると、昨年のことを思い出す。
イッキ先輩と歩いた道や、トーマ君と話したカフェ。
FCの子に嫌がらせをされかけた路地……。
そういえば、トーマ君の話によると、暴走したFCの子たちはリカさんから厳重注意を受けたらしい。
イッキ先輩が私が渡したマニュアルを読んで、リカさんに「これはどういうことだ」と詰め寄ったらしい。
ただ解散をしていないところを見るに、イッキ先輩もそこまで追い込むことはできなかったということだろう。
私の助言が上手く作用して、FCが「イッキの幸せを願う会」とかになっていたらいいのだけれど、高望みだろうな。
「……」
そんなことを考えているうちに、冥土の羊に着いてしまった。
裏口と正面と、どちらから入るか少し迷って、正面から入った。
「おかえりなさいませ、……って、マコ……?」
「久しぶりね、トーマ君」
「……本当におかえり。席こっちでいいか?店長たちにも知らせてくるよ」
「ありがとう。ごめんね、忙しいのに」
「何言ってんの。今は空いてるし、久しぶりに会えて嬉しいよ」
そう言ってトーマ君はキッチンに向かった。
一緒にホールに出ていたカナちゃんも「お久しぶりです」と挨拶をしてくれた。
「元気にしていた?」
「はい。マコさんも、お元気そうでよかったです」
「ありがとう。トーマ君とは上手くやってるの?」
「えっ!?」
真っ赤になったカナちゃんを見て、ついにくっついたかな、と思った。
2人が想い合っていること、バレてないと思ってたのかな。
「久しぶりだな、マコ」
「あ!お久しぶりです、ケントさん」
「元気にしていましたか、マコさん?」
「店長!はい、元気にしていました。皆さん、たくさんメールくださってましたのに、お返事できなくてすみませんでした」
「君が謝ることではない。我々が好きで君に連絡を送っていただけだ」
「そうですよ。忙しいことはこちらも知っていましたからね」
「ありがとうございます……」
「それで、マコはこれからどうするんだ?また大学も通うんだろ?」
「あ、ええと、お父様の仕事を見させていただきながら、大学も通うって感じかな。学年は1つ下がってしまうけれど、きちんと卒業したいの」
「じゃあ……カナと同じ学年か」
「ええ、そうなるわね。よろしくね」
「はい!」
皆さんバイト中なので、あまり長話はせず、お土産を渡してお茶をいただいて、早々にお店を出た。
「おかえりをお待ちしております!」
カナちゃんの可愛い笑顔に見送られ、私は覚悟を決めてイッキ先輩の家に向けて歩き出した。
何度も引き返そうと思ったし、サカキを呼んでしまおうかと思った。
色んな悪い想像をしてしまって、軽く過呼吸を起こしかけたりしながら、身も心もボロボロになってイッキ先輩の家の前にたどり着いた。
「……」
やっぱり帰ろうかな……。イッキ先輩まだ帰ってきてないだろうし……。
そんなことを思いながら完全に怖気付いた時。
「マコちゃん……?」
「!!」
1年間。ついぞ忘れることのなかった声。
振り返らなくても、そこに誰がいるのかわかる。
「イッキ、先輩……」
恐る恐る振り返る。
イッキ先輩の横に女の子がいたらどうしよう。
知らない子と手を繋いで帰ってきてたらどうしよう。
色んな想像が頭の中を駆け巡って、最後は勢いだった。
ええいままよ!
パッと顔を上げると、そこにはイッキ先輩1人しかいなかった。
ホッと胸を撫で下ろした瞬間、私はイッキ先輩の腕の中にいた。
「マコちゃん……!!」
「……イッキ先輩……!」
しばらく家の前で強く抱きしめ合い、ふと我に返って慌てて離れる。
ここ、通りだった……!!
通行人の方々がチラチラとこちらを見ていることに気づく。
「す、すみません……!」
「どうして謝るの?せっかく久しぶりに会えたんだから、もうちょっとあのままで良かったのに」
「い、いえ、でもその、あの、イッキ先輩の交際状況を存じ上げませんし……!!」
そう言うと、イッキ先輩はきょとんとした顔でこちらを見る。
それから盛大にため息をついて、「ひとまず僕の家に来て」と言って中に入っていってしまった。
私はそれを慌てて追いかけた。