最終章
夢小説設定
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あれから1年が経った。
留学している間も、トーマ君やケントさん、店長からイッキ先輩の情報がたくさん送られてきた。
返事をする暇もなかったけれど、時折イッキ先輩の話を見ては、励みにしていた。
会いたい気持ちは膨らむばかりだが、ここで頑張らなければ、という気持ちも強かった。
今日、私は日本に帰ってきた。
「ん〜……っ」
大きく伸びをする。
地に足をついた瞬間、帰ってきたという実感と、イッキ先輩のことが浮かんで不安が押し寄せてくる。
今日帰ってくる日だということは、お父様以外には伝えていない。
「まずは、お父様にご挨拶をしなくては」
「お嬢様、サカキが迎えに来ています」
「ありがとう、シノ」
「おかえりなさいませ、マコ様」
「ええ、ただいま、サカキ。お迎えありがとう」
「いえ」
サカキの運転で、まずはお父様がいる会社に向かう。
会社に着くと、私は真っ先に社長室に通された。
「マコ!」
書類に目を通していたお父様がガタッと勢いよく立ち上がる。
「お父様、お久しぶりで───」
言葉の途中で抱きしめられる。
「おかえり」
「……ただいま戻りました、お父様」
「長旅で疲れただろう、お茶でも飲むか?」
「そんな、戦地から戻ってきたわけではありませんのに反応が大げさですわ。それに、半年前に1度お会いしましたでしょう?」
「まあ、そうなんだが……」
半年前に久しぶりにお会いしたお父様も、こんな風に動揺していた。
あまり連絡ができなかったせいもあるかもしれないが、心配してくれていたようだ。
「私なら、この通り元気ですから。向こうで学べることは学んできました」
「そうか、そうか。……これからは、私の傍で仕事を学んでいきなさい」
「はい、ありがとうございます、お父様」
それから留学中の話を少しして、私は先に家に帰ることにした。
家に帰ってからも荷物の整理をしたり、トーマ君たちに連絡したりとやることが色々とあった。
イッキ先輩の連絡先は、留学した時に消した。
未練がましく、連絡をしてしまいそうだったから。
『ただ今帰国いたしました。明日、冥土の羊にご挨拶に伺わせていただきたいと考えています。ご都合よろしいでしょうか?』
店長にメールを送り、今日はもう家から出ないことにした。
「……ビビりすぎかな……はは……」
思わず笑いが零れる。
私から答えを聞きに行かなければならないのに、イッキ先輩に会うのが怖い。
恋人として一緒にいた4ヶ月。
あの頃は、イッキ先輩が私のことを好きでいてくれているのだと傍で感じられた。
でも、1年離れてしまった今、そんな自信はすっかり削がれてしまった。
イッキ先輩はまだ私を好きでいてくれているだろうか。
もしかしたら、新しい彼女ができたかもしれない。
それなら、私はもう会いに行かない方がいいのではないか。
私が行けば、イッキ先輩に無用な負担をかけてしまうのではないか。
シノに「イッキ先輩のことを調べてほしい」と頼めば、すぐにでもイッキ先輩の交友関係を洗いざらい教えてくれるだろう。
でもそれは、ダメだ。
私の逃げに付き合わせるわけにはいかないし。
この件だけは、私が確かめないと。
「……こそっと様子を見て、恋人がいらっしゃらないか調べてから……とかも良くない……よね」
本当に情けない。
イッキ先輩のことになると、いつも自信がなくなる。
……でも、もう決めたことだ。留学する前からずっと。
イッキ先輩からどんな答えが返ってきても、笑って返事ができるように。
今夜は心の準備を万全にしておこう。
そう強く思いながら、私は一夜を過ごした。