最終章
夢小説設定
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私の留学の時が来た。
イッキ先輩はギリギリまで恋人関係を続けてくださった。
空港にも、お父様と一緒に迎えに来てくださった。
「すみません、わざわざ」
「僕が来たくて来たんだよ」
「あっ、これ、お渡しするのを忘れていました」
私は「FC対処マニュアル」と書かれた冊子をイッキ先輩に手渡す。
「これは?」
「私が実際に受けた嫌がらせや被害を元に作成した「FC嫌がらせ対処法」をまとめたものです。執事のシノにも手伝ってもらいながら、イラストや写真を交えてわかりやすく作りましたので、よろしければ役立ててください」
「……嫌がらせ?」
「あ、えっと、」
「一度も僕に相談してくれたことなかったよね?」
「……心配をおかけしたくなかったので」
「つくづく信頼されてないなぁ、僕」
「そういうわけでは……!」
「……ふふ、わかってるよ」
イッキ先輩の柔らかい表情に、ホッと胸をなでおろす。
「でも、次何かあったら、今度は彼氏の僕を頼ってね」
「……はい」
次、を考えてくださっている。
イッキ先輩は、留学から帰って来た後、当たり前のように私と関係を戻す気でいてくださっている。
それが、今はたまらなく嬉しい。
「では、そろそろ行きます」
「うん」
「……改めて言うのも変ですが、これで、恋人関係を解消しましょう」
「……うん」
「今まで、ありがとうございました」
「……こちらこそ。でも、これで最後にする気はないからね」
「……ありがとうございます。その言葉を聞けただけで、もう十分なほどです」
「……」
最後にハグをする。
名残惜しくなるから、キスはしなかった。
「お父様、」
「ん、もういいのか?」
空気を呼んで離れていてくれたお父様が様子を伺いつつ近づいてくる。
「はい」
「では、気をつけてな。仕事でそちらに用があれば、様子を見に行く」
「ありがとうございます。では」
お父様ともハグをして、私は飛行機に乗った。
執事のシノも、一緒に乗る。
イッキ先輩は、最後までシノに対していい顔をしなかった。
留学先で何かあった時のためにと同行してくれるシノ。
その話をした時、イッキ先輩は「だったら僕がついていく」と冗談なのか本気なのかわからない表情で言っていた。
執事といっても同じ男なのだから、自分の方を頼ってほしいと。
イッキ先輩は、意外と独占欲が強いのだと知った。
留学は、私にとって良い経験になるし、有意義なことだ。
でも、これがなければ、私は今頃……と、少し考えなくもない。
それでも私は行く。
帰った時、胸を張ってイッキ先輩の横に並べるように。
お父様に認められる一人前になって、イッキ先輩に恥じることのない自分になって、一緒に生きていけるように。
……どうなるかは、わからないけれど。