第1章
夢小説設定
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「おかえりなさいませ、お嬢様」
家に帰ると、使用人達が私からコートやバッグを取っていく。
「旦那様がお待ちです」
今日は食べて帰ると言ってあるし、何か話があるのだなと勘付く。
だいたい、内容は予想がついている。
「ただいま戻りました、お父様」
「ああ、遅かったな。そこに座りなさい」
「はい」
バイトを始める件については話はついている。
となると、バイト先に問題が?
使用人の真似事をすることに異議があるのだろうか。
「バイト先を『冥土の羊』に決めたそうだな」
「……はい。友人の紹介で」
報告は今日するつもりだったが、やはりもう調べがついているようだ。
「トーマ君、だったな。まあ彼の紹介なら大丈夫だろう」
「えっ」
思いの外すんなりいったことに、思わず声が漏れる。
「?なんだ、反対されると思ったのか?」
「……はい。社長令嬢が使用人の真似事などするな、と」
「ふ、よくわかっているな。そう思ってキッチン担当を希望したのだろう?」
あの場に、誰もいないはずがない。
そう思ってはいたが、やはり誰かがあの店で、私とトーマ君の会話を聞いていたな。
「……はい。ホールに出る機会はそうないかと」
「自覚があるならいい。どのようなバイトであれ、社会勉強にはなる。身売りなどでなければ反対はしない。だがお前、料理の経験はあったか?」
「いえ……学校の調理実習くらいしか」
「それなら家で練習してから行きなさい。ご迷惑をおかけすることがあってはならないからな」
「承知しました」
それと、と付け足し、お父様はこれからが本題だというような顔をした。
「イッキ君、といったか」
「!」
やはり、そこも引っかかっていたか。
あの場に誰かいたのであれば、イッキ先輩のことが報告されないはずがない。
「まさかとは思うが、お前、まだ彼のことを?」
「……ええ、そうです。以前申し上げたはずです、この気持ちは変わらないと。ですから、婚約も解消していただいたわけですし」
「はあ……。いや、婚約解消については、私ももう気にしていない。相手があのような息子とわかっては、私の大切な会社も、娘も、任せるわけにはいかないからな。ただ、」
「ただ?」
「もし、あの彼と付き合うことになったら、必ず私に報告し、お付き合いから一週間以内に一度家へ連れて来なさい」
「……は?」
一瞬、お父様の言っている意味がわからなかった。
私とイッキ先輩が付き合うなんてことは万に一つもありえないし、しかもありえた場合には家へ連れて来いと?
お父様の目に、私とイッキ先輩が付き合う可能性があるように写っていたことも驚きだが、付き合わないように妨害しようとする素振りがないことにも驚いた。
「何を驚いた顔をしている。今の彼には、お前のような人間が必要だろうと思ってのことだ」
「そう、なのですか?」
お父様のこういう勘は、あまり外れない。
もしかすると、という想像が頭を過って、我に帰る。
私のような人間、というのは肩書きではなく性質を指しているだろう。
それなら、こんな人間はいくらでもいる。
自分で言うのもなんだが、そんなに突飛な性格ではないし、私である必要はないだろう。
「話は以上だ。キッチンには話を通してあるから、練習についてはシェフと打ち合わせをしなさい」
「はい。ありがとうございます、お父様。失礼致します」
それからの一週間。
私は毎日、帰宅から就寝時間まで、料理の特訓をしたのだった。