最終章
夢小説設定
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「適当にくつろいでて。コーヒーでいい?」
「あ、あの、お構いなく……」
多少の居心地の悪さを感じながら、隅に正座する。
イッキ先輩は手際よくコーヒーを入れて持ってきてくれた。
「インスタントだけど」
「ありがとうございます」
「……で、早速本題に入るけど。さっき言ってたことはどういう意味なの?」
「……はい。あの、誤解のないように初めに言わせていただきたいのですが」
「うん」
「私は、本当に、心の底からイッキ先輩のことが大好きです」
「!……まあ、さっきのリョウ君の話といい、それはわかってるつもりだよ」
「ありがとうございます。……それでは、お話させていただきますが」
それから私は、イッキ先輩と付き合い始めた目的をはっきりと話した。
イッキ先輩の悩みをトーマ君から聞いていたこと、相談に乗ってそれが事実だと判明したこと、それなら私が3ヶ月以上付き合ってイッキ先輩の悩みを取り払おうとしたこと。
それから、イッキ先輩と今後もお付き合いを続けていくわけにはいかないこと。
「それは、どうして?」
「私、再来月から1年間留学するのです」
「……」
「1年の間、こちらには戻ってきませんし、やらなければならないことがたくさんあるので連絡をとることも難しいと思います。そんな中でイッキ先輩を、この関係のまま縛ることは、良くないと考えました。……だから、このままお付き合いを継続することはできません」
「僕が構わないって言ってもダメなの?」
「……すみません、」
つい、泣きそうになる。
目をゆっくり閉じて、少し耐える。
泣いちゃダメだ。
「私が、怖いのです。イッキ先輩にとって良くない、とか言い訳です。会えない1年のうちに、イッキ先輩に「別れよう」と言われることが怖いのです」
「そんな、」
「ずっと、遠くから見ていられるだけで幸せでした。でもこうしてお付き合いをさせていただいて、一緒に出かける楽しさや、目を合わせてお話しすることの喜びを知ってしまいました。イッキ先輩の手の温もりも、抱きしめられた時の腕の強さも、……キスをした時の唇の柔らかさも。大好きなあなたと一緒にいて、私は色んなことを知ってしまって、欲張りになってしまいました」
「……」
「叶うことなら、ずっと一緒にいたいと。イッキ先輩にも、私が想うのと同じように私のことを想ってほしいと」
我ながら重いと思う。
高校の頃からは考えられないほど、イッキ先輩への想いが膨れ上がっている。
もっと一緒にいたい、もっと色んなことを知りたい。
もっと、もっと。
想いは溢れるばかりで、正直イッキ先輩と1年も離れていられる自信がない。
「でもいけません。イッキ先輩は、私ではない方と結ばれた方が幸せになれますから」
「……どうして?」
「私、父の会社を継ぐつもりでいるのです。そうしたら1年どころではない期間、離れることがあったりします。なかなか会えない想い人より、会いたい時に会える想い人の方が良いではありませんか」
「……」
「ですから、イッキ先輩が本当に好きだと思える方を見つけて、その方とお幸せに───」
「ストップ」
「?」
「君はそれでいいの?」
「え?」
「僕が、他の誰かと一緒になってもいいの?」
「……はい。それがイッキ先輩の幸せならいいです」
「本当に?」
「……もちろんです」
イッキ先輩が真っ直ぐに私を見据える。
邪まな心の中を見透かされそうで、少し視線を逸らしてしまう。
「他の子と手を繋いだり、抱き合ったり、キスしたり、それ以上のことだってするけど、君は本当にそれでいいの?」
「……ですから、それでいいと、───!」
突然イッキ先輩に抱き竦められる。
「あ、あのっ、」
「君さ、今自分がどんな顔してるかわかってる?」
「……」
「そんな顔して、僕が幸せならそれでいいとか言わないでよ。嫌だって言ってるようにしか見えないから」
「そ、そんなことは……」
「恥ずかしいから、あんまり言いたくないんだけど、」
「?」
「僕は、君が好きなんだ。これが好きってことなんだって思うよ。女の子に囲まれてても、バイト中でも、君のことしか考えてない。君はどうしてるかなって、次のデートはどこに誘おうかなって」
「!」
「君と別れて家に帰ってくる度、またすぐ君に会いたくなる。君の声が聞きたくなる」
顔が熱い。
鼓動が早い。
確実に、私の熱はイッキ先輩に伝わってしまっていると思う。
「君が、好きだよ。僕は君とずっと一緒にいたいと思ってる。本気で、将来背負ってもいいと思ってるよ」
「えっ!」
「……はい。告白タイム終わり」
「え、えっ?あの、最後のって……というか、私のこと好きって……!」
「やっぱり伝わってなかった」
イッキ先輩は呆れたようにため息を吐く。
「これでも結構好意は伝えてきたつもりだったんだけど。わかりづらかった?」
「いえ、その……。何度か勘違いしそうになったのですが、イッキ先輩が本気で私などを好きになってくださるはずがないと……」
「はあ。なんでこのお嬢さんは自分にそんなに自信がないのかな。……でも今ので、僕の気持ちはちゃんと伝わった?」
「は、はい!」
まだ、夢を見ているような心地だ。
まさか、まさか、と思ってはいたけれど、本当にイッキ先輩が私に好意を抱いてくださるなんて。
前なら、ありえないとまだ足掻いていたかもしれないが、こんなにもすんなり受け入れられたのは、イッキ先輩が真剣な顔をしていたからかもしれない。
「まだ、僕と別れたいって思ってる?」
「……1つ、提案させていただいてもいいですか?」
「ん、何?」
「……留学する前に、やっぱり私は別れたいです」
「……」
「それで、1年経って帰ってきたら、あの、もう一度イッキ先輩のところに来てもいいですか?」
「!」
「それでもし、まだ私に対して好意を抱いてくださっていたら、付き合ってください」
イッキ先輩は少し複雑そうな顔をしたけれど、わかった、と頷いてくれた。
「決してイッキ先輩のお気持ちを疑っているとか、そういうことではなくて、その、私の気持ちの問題なのです」
「うん」
「イッキ先輩には、気持ち的に私に縛られた状態でいてほしくないというか、その、自由な心であっていただきたいというか、」
「うん。大丈夫、わかってるから」
「……ありがとうございます」
来月で、イッキ先輩と付き合い始めて3ヶ月。
それを過ぎた再来月、私は留学する。イッキ先輩と別れて。
今のうちにたくさん温もりを感じておこう。
そう思い、どちらからともなく抱きしめあった。