第5章
夢小説設定
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家に着くと、イッキ先輩は唖然としていた。
「イッキ先輩?」
「えっ?あ、ああ。トーマから何となくセレブっぽいことは聞いてたけど、本当にそうだったんだね……やっぱり手土産持ってきた方が……」
「あっ、すみません、お伝えし忘れていて……。でも本当に手土産とかは必要ありませんから。どうぞ中へ」
「ありがとう」
イッキ先輩を家の中へ招き入れると、私から連絡を受けていたお父様が書斎から出迎えに来た。
「やあ、よく来たね」
「初めまして、マコさんとお付き合いをさせていただいております、」
「君のことはよく聞いている。堅苦しい挨拶はいいから、こちらへ」
「は、はい」
お父様はイッキ先輩の言葉を遮り、リビングへ案内する。
使用人がお茶とお茶菓子をテーブルに並べ終えると、全員部屋の外へ出て行った。
「君とは一度話をしてみたかったんだ」
「僕と、ですか?」
「ああ。娘から君の話はよく聞いていたよ」
一体どんな話を?とイッキ先輩に視線で問いかけられる。
「お父様」
「はは、そんなに睨むな」
それからお茶を飲みながら、他愛もない話をした。
好きなものとか、趣味とか、休日の過ごし方とか。
メイドがちょっとしたお茶菓子を運んできたあたりから更に話が弾み、結局長く話し込むことになってしまった。
イッキ先輩は、嫌な顔1つせず、お父様と話を続けている。
「そうだ、イッキ君。せっかくだから、うちで夕飯を食べて行ったらどうだ?」
「お父様、あまり遅くなっては……」
「何だ、遅い時間になった時はうちに泊まればいいし、帰るのならサカキに送らせればいいだろう」
「ですが……」
お父様はかなりイッキ先輩のことを気に入ったようだ。
夕飯まで一緒に食べれば、確実にお泊まりコースになる。
先輩にも予定があるし、あまり気を遣わせるわけには……。
イッキ先輩をちらりと見ると、にっこりと微笑まれる。
「明日も予定が入っていますので、せっかくですがここでお暇します」
「そうか?うむ……、それなら仕方ないな。サカキに送らせるくらいはさせてくれ」
お父様がそう言って手を挙げると、ドア付近に立っていたメイドがサカキを呼びに出て行った。
「何から何まですみません。お茶菓子も美味しかったです」
「口に合ってよかった。またいつでも遊びに来なさい」
「ありがとうございます」
イッキ先輩はお父様に一礼して、玄関を出た。
「マコ、送ってあげなさい」
「はい、お父様」
お父様は車のところまで見送りに出てきた。
私が反対側のドアからイッキ先輩の横に乗ると、サカキは先輩側の窓を開けた。
「?」
「イッキ君、」
「はい」
「娘を、よろしく頼むよ」
「……はい」
窓が閉まり、サカキが車を出す。
「……」
「……」
……気まずい。
あんなの、結婚の挨拶に来た帰りみたいな空気になるに決まっているのに。
あれを言われた後に、私がイッキ先輩を二人になってしまうことを考慮して欲しかった。……サカキもいるけれど。
「……」
「……あの、」
耐えきれず、口を開く。
「ん?」
イッキ先輩の声音が、いつもより甘い気がした。
「先ほどのお父様の言葉、あまり重く受け止めないでくださいね」
「うん?」
「その、深い意味では言っていないと思うので。普通に、あの、交際に反対されなかった、くらいに思ってください」
「……わかった」
恥ずかしさと、気まずさで、イッキ先輩の顔を見れない。
その時、先輩がどんな表情をしていたのか、私にはわからなかった。
結局その後、イッキ先輩の家に着くまで、一言も話さなかった。
「すみません、結局長話になってしまって」
「ううん。僕も楽しかったから大丈夫。素敵なお父さんだね」
「そう言っていただけると救われます。イッキ先輩が楽しかったのなら、私はそれで十分ですから」
「今日はありがとう。それじゃあ、またね」
「はい。こちらこそ、ありがとうございました」
イッキ先輩がマンションへ入っていくのを見送り、私は家に帰った。