第4章
夢小説設定
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次の日、イッキ先輩から昨日のことを聞かれた。
急な連絡だったから、不思議に思うのは当然だろう。
トーマ君と大事な話があったと正直に言うと、イッキ先輩は「それは僕には言えない話?」と少し拗ねた顔をしていた。
「言えないことはありませんが、言いづらい話、です」
「……そっか」
「あの、聞かれます?」
「いいの?言いづらい話なんでしょう?」
「確かに言いづらいですけれど、イッキ先輩を嫌な気持ちにさせるくらいなら、お話します」
イッキ先輩は少し考えて、「やっぱりいいよ」と言った。
「無理に言わせるのも違うと思うし、君が話したいって思った時に話して」
「……ありがとうございます、お気を遣ってくださって」
「これくらい気を遣ったうちに入らないよ。……君の方が、僕に気を遣ってくれてそうだし」
「気を遣っているつもりはないのですが、そう見えるなら、きっとイッキ先輩のことが………………好き、だからです」
「えっ」
イッキ先輩はパッと私の顔を見る。
「……今の、もう一回言って」
「お、お断りします……」
「ふふ、君の『好き』はレアだからビックリしちゃった」
「そうですか?」
「そうだよ。あまり言ってくれないでしょう」
「そ、んなことは……あるかもしれませんが……」
「そうでしょう?」
「は、恥ずかしいですから……」
「君本当にかわいいね」
「えっいえ、そんなことありません!」
「謙遜しないで」
イッキ先輩が私の頬に手を添える。
鼓動が早くなるのを知られたくない。
顔が熱くなっているのを知られたくない。
そう思えば思うほど、イッキ先輩に触れられた頬が熱を帯びる。
振り払うこともできなくて、どんどん体が強張って、どこを見ていいかわからなかった目も、固く閉じてしまう。
手に、額に、首筋に、どんどん汗をかいている気がして、恥ずかしい。
ふと、イッキ先輩の親指が、頬を撫でた。
それだけで肩が跳ね、さらに体が強張り、すぐにでも脚の力が抜けてしまいそうだった。
「……ちょっと意地悪しすぎちゃったかな」
そんな言葉とともに、イッキ先輩の手が離れていく。
そっと目を開けると、少しだけ、悲しそうな表情をしたイッキ先輩がいた。
「あ、あの……」
緊張しすぎた。
これではまるで私がイッキ先輩に怯えているみたいだ。
誤解をされているような気がして、思わずイッキ先輩の袖を掴む。
「うん?」
「ええと、その、私は、イッキ先輩に触れられるのが嫌、とか、そういうことは、一切、なくて、」
「……いいよ、無理しなくて」
イッキ先輩は私の手をそっと袖から離しながら、両手で包むように握ってくれる。
「手を繋げるだけでも、僕は嬉しいから」
「いえ、あの、本当に、ちが……っ」
「!……マコちゃん、泣いてるの?」
「えっ?」
気づけば、私の頬を雫が伝っている。
雨が降っているわけでも、汗をかいたわけでもなかった。
視界がぼやけている。
私は、今、泣いている?
イッキ先輩に上手く言葉を伝えられず、動揺していた気持ちはもちろんある。
でも、こんなことで泣いてしまうとは自分でも思ってもいなかった。
「な、なんで……私、泣くつもりなんて……」
予想外に涙が溢れてきて、どんどんパニックになってしまう。
これまで、こんなに感情がコントロールできないことはなかった。
自分でも泣く時は自覚しているし、「泣きそう」という時点でわかる。
「マコちゃん?」
イッキ先輩が不安そうに見つめてくる。
こんな、心配かけたいわけじゃない。
止まれ、止まれ、と思うほど、涙は止まらない。
「ごめ……ごめんなさい……は、すみませ……」
謝りながら、どんどん呼吸が乱れていく。
「っは……ぁ……」
過呼吸……?
よりにもよってこんな時に!
「マコちゃん!?」
蹲っていく私の肩を、イッキ先輩が支えてくれる。
お礼を言いたいけれど、そんな余裕はなくて。
「は、はぁ……ぁ……」
世界がぐるぐると回っている気がして、ついにイッキ先輩にもたれかかってしまう。
視界はぼやけて見えない。
胸が痛い。動悸がする。
過呼吸に陥ったのはこれが初めてではないけれど、一人で対処できるほど慣れているわけでもない。
「……マコ?」
遠くで聞き覚えのある、嫌な気分になる声がした。
足音が近づいてきて、イッキ先輩に構わず、私の顔に触れてくる。
「おい!マコ!」
「!?誰?」
イッキ先輩が警戒しながら声を上げる。
男はどこかへ電話をしたようで、電話を終えると、イッキ先輩に向かって忌々しい言葉を口にした。
「俺はこいつの婚約者だ」
そこで私の意識は途切れた。