第4章
夢小説設定
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「さっき、本当に何の話してたの?」
帰り道、イッキ先輩がずっと黙っていると思ったら、さっきのことを気にかけていたらしい。
「ケントさんと店長とお話ししていたことですか?」
「……うん」
まさか、そんなに気にされているとは思わなかった。
当然のように手を繋いで帰るようになったこの頃。
イッキ先輩の手が、いつもより少し冷えているような気がした。
「本当に大した話ではありませんよ。今日私が勝手にお客様にお茶をお出ししてしまったので、それについてお話していたのです」
「勝手に?」
「はい。少し、粗相を……。そのお詫びにと、勝手にお出ししてしまったのです」
「そうなんだ……。大丈夫だった?絡まれたりしてない?……もしかして、FCの子?」
私が彼女に対応している時、そういえばイッキ先輩はちょうどキッチンに料理を取りに行っていた。
「いえ、一般のお客様ですよ。すみません、イッキ先輩にまでお気を遣わせてしまって。今後は気をつけますね」
「こんな時くらい気遣わせて。君は僕に弱音なんて吐いてくれないでしょう?だから、こういう時は『僕が』心配したいの。だから「すみません」じゃなくて、「ありがとう」でいいんだよ」
「そ、そうですか?……ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
その後、イッキ先輩はずっと機嫌が良かった。
私のこと心配したい、なんて、夢みたいな言葉。
いや、もしかすると夢なのかもしれない。
だってこのお付き合いは、あと2ヶ月以上経てば終わるもの。
私はお父様の会社を継ぐつもりでいるし、イッキ先輩はイッキ先輩の人生がある。
私達が付き合い続けて結婚、なんて、到底無理な話だ。
うちの会社はお父様が初代だし、特に世襲制というわけではないけれど、それでも、継ぐつもりで勉強してきた。
これはお父様に何か言われたわけでもなく、私自身の意志だ。
だから、イッキ先輩を私の道に引きずり込むなんてことは、絶対にしたくない。
「……マコちゃん?」
「えっ、あ、はい!すみません、何でしたっけ?」
「着いたよ、僕の家。……本当に大丈夫?やっぱり今日は僕が送って、」
「いえ、順番で今日は私がイッキ先輩をお送りする日ですから。そんなに時間も遅くないですし、大丈夫ですよ」
「……でも今日ミスしちゃって、落ち込んでない?」
「落ち込んではいませんよ、反省をしています。落ち込んでも、解決するわけではありませんから」
「そう?」
それでもイッキ先輩は納得がいかないようで、うーんと考え込んでしまう。
本当に私は落ち込んでいないし、むしろFCから仕掛けてきてくれたおかげで、収穫があったとすら思っている。
「じゃあ、はい」
「……はい?」
「ハグだよ。ほら」
「え、は、はい……」
少し恥ずかしいけれど、イッキ先輩が広げてくださった腕の中に思い切って飛び込む。
そのままギューッと抱き締められ、私は頭上に疑問符を浮かべていた。
「え、ええと、イッキ先輩……?これは一体……」
「人と触れ合うと、ストレス軽減になるらしいよ」
なるほど、これはそう言った意図があったのか。
でも、私はわざわざハグしなくても、イッキ先輩といるだけで幸せな気持ちになれるのに。
「ありがとう、ございます」
「いいえ」
心臓が、ドキドキしている。
イッキ先輩に抱き締められたところが熱を持って、全身で、ああ、好きだなあと感じる。
私達は数分抱き合い、互いに名残惜しむように、静かに離れた。
「ありがとうござしました。その、癒されました」
「うん、僕も。……じゃあ、また明日ね」
「はい。また、明日」
失礼します、と頭を下げて、私は帰路についた。
イッキ先輩はすぐには中に入らず、曲がり角で見えなくなるまで、私を見送ってくれた。