第3章
夢小説設定
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イッキ先輩は、結局そのまま家の近くまで送ってくれた。
「すみません、送っていただいて……」
「いいんだよ、気にしないで」
「……」
私から手を離すのは気が引けて、離れたくない気持ちも少しあって、黙っていると、イッキ先輩が静かに手を離した。
「っ……」
「マコちゃん?」
「あっ、はい!何でしょうか?」
「あはは、そんな顔されたら、離れ難くなっちゃうな」
えっ、と思って、手で顔を覆う。
「……私、どんな顔してました?」
「うーん、寂しそうな顔、かな?」
イッキ先輩に微笑み混じりに言われ、恥ずかしさで死にたくなる。
そんなにわかりやすい顔をしていたなんて。
「すみません、お見苦しいところをっ──!?」
不意に、腕を引かれる。
イッキ先輩の心音が、伝わってくる。
「っ!?えっ!い、イッキ先輩?あ、あの……」
「んー?」
甘い声が、耳元で囁く。
くすぐったい。
顔が熱い。
動悸が早くなって、冷静な判断ができなくなる。
「え、えっと……」
私からも背に手を回していいのか、そんなおこがましいことをしていいのか。
手が宙を彷徨う。
なかなか決意できず、体が硬直してしまう。
「……っ」
「……身体が強ばってる。よしよし、そんなに緊張しなくていいよ」
イッキ先輩が私の背中をポンポンと優しく叩く。
子どもをあやすように、優しく。
「……」
次第に安心感に包まれ、私は自然と背に手を回すことができていた。
「じゃあ、また明後日ね」
「……はい」
最後にギュッと抱きしめ、身体を離される。
イッキ先輩は私の頭を撫でると、満足気に帰って行った。
私はというと、しばらく放心状態で、帰りゆくイッキ先輩の背を見つめていたところ、あまりに帰りが遅いと心配した執事のシノが迎えに来た。
「お嬢様、こんなところで何をなさっているのです?」
「ああ、シノ。何でもないわ。すぐ戻ります」
「お顔が赤くなっておりますが、もしやお熱が、」
「いいえ、いいえ、そんなものありません。大丈夫よ。さあ戻りましょう」
私は強引にシノを誘導し、家に帰った。
お風呂に入っても、眠ろうとしても、まだイッキ先輩に抱きしめられた時の感触が残っている気がした。
イッキ先輩に触れられたところを摩っては、記憶がフラッシュバックして、顔が熱くなる。
好きな人と結ばれる、ということは、こんなにも人の冷静さを奪うのかと実感した。
ファンクラブのことや、父のこと、今後のことを、あの瞬間はすっかり忘れてしまっていた。
冷静に今を分析しなければと思う自分と、イッキ先輩と一応でも付き合えたことに喜ぶ自分。
徐々に理性的な面が薄れていく自分に、少しだけ恐怖を覚えた。