第2章
夢小説設定
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今、私はイッキ先輩と一緒にバイト先から帰っている。
家まで送ると言って聞かないイッキ先輩を、どうにか説得して、途中までということで片をつけた。
どうしてこうなっているのか、私もよくわかっていない。
相談に乗って、どうにか解決策を見出して、イッキ先輩の悩みを取り除きたい。
私の望みは、ただそれだけだったはずなのに。
どうやら私は、今イッキ先輩とお付き合いをすることになったらしい。
らしい、というのは、私に実感が湧いていないのだ。
「あの、」
「うん?」
「私と付き合うって、本気でおっしゃっているのですか?」
「うん、もちろん。ああ、でもマコちゃんが嫌だったら、断ってくれていいよ」
「嫌、では……ないです」
むしろ、好きなのだし。
「なら良かった」
付き合えて嬉しいのかどうかすらわからない。
思考が追いついていないのだ。
実感が湧くには、きっともっと時間が必要だ。
そして今は、冷静になる時。
もし本気でイッキ先輩と付き合うのなら、色々と考えなければならないことがある。
まず、私がイッキ先輩と付き合ったことがバレれば、確実にFCから嫌がらせを受ける。
自宅への嫌がらせはまずないとしても、例えば私が街中で1人の時とか、そういうところで狙われるかもしれない。
インターネット上にも警戒しておく必要がある。
そして今、明確な私の目標は一つ。
必ずイッキ先輩との関係を3ヶ月以上維持すること。
それが元の望みの達成にも繋がる。
イッキ先輩から別れを告げられるならともかく、私からは絶対に、3ヶ月以内は別れてはダメだ。
ここで私が折れてしまえば、イッキ先輩は恋愛に対してもっと壁を作ってしまうかもしれないから。
「あ、私もうここで」
「え、家どこ?ここから近いの?1人で大丈夫?」
「はい、大丈夫です。いつも1人で帰っている道ですし、そんなに小さな子供なわけでもありませんから。むしろ、ここまで送ってくださって、ありがとうございます。イッキ先輩もお気をつけてお帰りくださいね。おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
イッキ先輩は私に手を振り、私はお辞儀で返す。
結局、私の姿が見えなくなるまで、イッキ先輩は見送ってくれた。
ああ、本当に付き合ってしまったのか。
お父様の勘が当たった。
イッキ先輩の悩みのためでもなければ、こんなことはあり得なかっただろう。
社長令嬢だからと言って、その肩書き以外、何の取り柄もない私が、彼と並ぶなんて。
「ただいま。お父様はいらっしゃるかしら」
家に帰って、私は真っ先にお父様に報告した。
すると、お父様はしたり顔で「やはりそうなったか」と言った。
「お父様はイッキ先輩のお悩みをご存知で?」
「いや、彼が悩んでいることは知らなかったが、彼と歴代の恋人との関係に妙な共通点があることは知っていたよ」
「それは、およそ3ヶ月で皆別れている、ということですか?」
「ああ、そうだ。本人に聞いたのか?」
「いえ、トーマ君から初めに聞きました。……お父様は何故それを?」
「調べさせたんだよ。可愛い娘の想い人だからね」
こんな愛情の感じ方はしたくなかった……。
大きくなった女の子がよく言う「お父さんうざい」の気持ちが何となくわかった気がする。
「それで、私が以前言ったことは覚えているね?」
「……家に連れてくる話ですか?」
「ああ、そうだ。1週間以内にな」
「それなのですが……、1ヶ月以内に期限を延ばしていただけませんか?」
「理由は?」
「私自身、まだ実感が湧いておりませんし、何より付き合い始めて一週間で親との面会は重すぎます」
「そうか?」
「そうです」
お父様は期限を伸ばすことを許可してくれ、自分のスケジュールを私に送ってきた。
自分が家にいるときに、確実に会えるように連れてこい、ということらしい。
ただでさえやらなければならないことが多くある中で、さらにミッションが加わってしまった。
「それでは、失礼いたします」
私は早々に話を切り上げ、ひとまずやることリストを作ることにした。
街中での対処、ネット上の警備、犯人探しや証拠集め。
家の者が護衛についてくれるにしても、ときには囮になって犯人をおびき出すことも必要になるだろう。
リストを書きながら、少し、少しだけ、気が滅入りそうになる。
「気を確かに持つのよ、私。まだまだこれからなのだから」
リストを作っただけでこんな調子になっていてはダメだ。
私は改めて気合を入れ直した。