継ぐ者
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怪異に向かっていった加州は、結局戻ってこなかった。
どこに行ったのか尋ねても皆が「気にするな」と言う。
まさか折れたのではとも思ったが、それなら他の男士たちがこんなに落ち着いているはずがない。
「なあに、気にすることはないさ。あいつもちょっと散歩に出ているだけだ」
鶴丸はあっけらかんと言ってみせる。
気にするな、と言われても……。
元はと言えば、あの怪異はおそらく私に憑いてきたものだ。
ばあやから引き剥がして、私に憑かせてきたもの。
そのせいで加州が迷惑を被っているとすれば、かなり罪悪感がある。
「清光くんなら大丈夫だよ。ほら、今日は疲れただろう?早く休んだ方がいい」
燭台切が食器を片付けながら大倶利伽羅の肩をトントンと叩いた。
「……なんだ」
「もー、なんだ、じゃなくて、主を部屋まで案内してあげて」
「俺は……馴れ合うつもりは……」
「そんなこといって、さっきからあるじさまのとなりにすわっているじゃないですか!」
横で様子を伺っていた今剣も話に加わり、どんどん事が大きくなっていく気配を感じた。
「いや、あの、部屋までくらい1人で行けるから」
「だめですよーあるじさま!ほら、おおくりからもたって!いっしょにあるじさまをおへやまでおつれしましょう!」
「なぜ俺が……」
ブツブツと不満げに呟きながらも、今剣に促されるまま大倶利伽羅が立ち上がる。
今剣の小さい腕で、私も引き上げられる。
見かけは少年のようでも、当たり前だが力は私の何倍も強い。
「ありがとう」
「ふふ、とーぜんです!あるじさまのあんぜんは、ぼくたちがまもりますから」
今剣の目には、強い意志を感じた。
大倶利伽羅も、今剣の言葉を決して否定しない。
私は今剣に手を引かれて、綺麗な庭沿いの部屋へ通される。
「綺麗な庭だね」
「あるじさまがいいゆめをみれるように、きょうはこのおへやをえらびました!みんなできめたんですよ!ね、おおくりから」
大倶利伽羅は目を逸らしたまま微かに頷く。
「もう!おおくりからはいつもこんなかんじなので、きにしないでくださいね」
「ふふ、ありがとう」
「それでは、あるじさま!いいゆめをみてくださいね!」
今剣は私と繋いでいた手にちゅっとキスをする。
なんてキザなんだ……。
「おい、」
「これくらいいいじゃないですか!」
それを横で見ていた大倶利伽羅が嗜めようとすると、今剣はむーっと拗ねた顔を作った。
「ありがとう。今剣も、大倶利伽羅も、良い夢を見てね」
二振りと別れて部屋に入ると、真ん中にすでに布団が敷かれていた。
誰かが用意していてくれたようだ。
ありがたいな、と思いながら布団の中に入る。
そこからはやはり、あの人と同じ匂い、この本丸の匂いがした。
「ここで、あの人は……」
そっと目を閉じた時、ひた、ひた、と近づいてくる気配に気づいた。
その気配は静かに、けれどやはり確実にこちらへ向かっている。
きっと昼間に視線を感じたあいつだろう。
色んな考えが脳内を駆け巡る。
ここに奴が来るということは、加州は?
他の刀剣男士は?こんのすけは?
「……っ」
呼吸がつい浅くなる。
だが、こういう時こそ落ち着いて、気配を消して、息を潜めなければ。
ひた、ひた、とすぐそこの廊下を歩いているのがわかる。
目を向けてはいけない。声を出してはいけない。
ただ奴が過ぎ去るのを待たなくては。
「どコダ?」
声が、聞こえた。
あまりの恐怖に、吐き気が込み上げてくる。
全身から汗が吹き出し、手はガクガクと震え、涙が止まらない。
でも、あいつ、私の気配がわかっていないのか?
音を立てないように、ゆっくり、静かに呼吸をする。
大丈夫。まだ気づかれていない。
すぐそこにいるが、私を見つけられていない。
「……っは」
バッと思わず口を塞ぐ。
すると、気配は襖の前で止まり、スーッと襖が開く音がした。
気づかれたのか?
いや、それならこんなにゆっくり入ってこないはず。
部屋の中に踏み入られそうになった瞬間、バチッと大きな音が鳴る。
「!!!」
この部屋には、結界が施されていたらしい。
びっくりして、奴を、見て、
「おらおらァ!!」
「!加州!」
奴が怯んだ隙を突いて、どこからともなく現れた加州が斬りかかる。
「グアアアアア!!!」
黒い澱みを纏った、人型とも言えないドロドロとした何かが後ずさる。
「主、遅れてごめん。もう大丈夫だから」
「お前にしては珍しいな、取り逃すなんて」
「こいつ、無駄に逃げ足速いんだよ」
加州だけでなく、和泉守も。
部屋まで送ってくれた今剣や大倶利伽羅もいる。
「みんな、なんで……」
「そりゃあ、主を守るためだ」
「そうですよ!ぼくのおまもりがきいたみたいですね!」
「お守り……?」
「……あんたの手に接吻したやつだ」
ふと手を見ると、うっすら今剣の紋が手の甲に浮かんでいた。
「えっなにこれ」
「手に接吻!?ちょっと今剣それは聞いてないんだけど」
「いいじゃないですか!そのおかげで、あるじさまはあいつにみつからなかったんですよ!」
「そりゃあそうだが、お前の神気を主に流し込むのは話が違うだろ!」
加州と和泉守は敵を気にしながらも今剣に抗議する。
神気を流し込まれた……?全然気づかなかった。
そうか、今剣の神気があったから、あいつは私の気配を今剣と勘違いして見つけられなかったのか。
……いや、方法としてはかなり困るが。
「心配するな。朝には外へ流し出される」
まじまじと手の甲を見つめている私に、大倶利伽羅がそう言い、流し込まれ続けなければな、と続けた。
「そうですよ!ちょっとだけです!とにかくまずはあいつをたおしますよー!」
それからの処理は早かった。
加州が「大丈夫だから、ちょっと待っててね」と襖を閉め、それからものの数分で退治してしまったのだ。
私があんなにも恐れていた相手は、刀剣男士、付喪神にとっては雑魚も同然。
彼らの力を改めて思い知らされた夜だった。
どこに行ったのか尋ねても皆が「気にするな」と言う。
まさか折れたのではとも思ったが、それなら他の男士たちがこんなに落ち着いているはずがない。
「なあに、気にすることはないさ。あいつもちょっと散歩に出ているだけだ」
鶴丸はあっけらかんと言ってみせる。
気にするな、と言われても……。
元はと言えば、あの怪異はおそらく私に憑いてきたものだ。
ばあやから引き剥がして、私に憑かせてきたもの。
そのせいで加州が迷惑を被っているとすれば、かなり罪悪感がある。
「清光くんなら大丈夫だよ。ほら、今日は疲れただろう?早く休んだ方がいい」
燭台切が食器を片付けながら大倶利伽羅の肩をトントンと叩いた。
「……なんだ」
「もー、なんだ、じゃなくて、主を部屋まで案内してあげて」
「俺は……馴れ合うつもりは……」
「そんなこといって、さっきからあるじさまのとなりにすわっているじゃないですか!」
横で様子を伺っていた今剣も話に加わり、どんどん事が大きくなっていく気配を感じた。
「いや、あの、部屋までくらい1人で行けるから」
「だめですよーあるじさま!ほら、おおくりからもたって!いっしょにあるじさまをおへやまでおつれしましょう!」
「なぜ俺が……」
ブツブツと不満げに呟きながらも、今剣に促されるまま大倶利伽羅が立ち上がる。
今剣の小さい腕で、私も引き上げられる。
見かけは少年のようでも、当たり前だが力は私の何倍も強い。
「ありがとう」
「ふふ、とーぜんです!あるじさまのあんぜんは、ぼくたちがまもりますから」
今剣の目には、強い意志を感じた。
大倶利伽羅も、今剣の言葉を決して否定しない。
私は今剣に手を引かれて、綺麗な庭沿いの部屋へ通される。
「綺麗な庭だね」
「あるじさまがいいゆめをみれるように、きょうはこのおへやをえらびました!みんなできめたんですよ!ね、おおくりから」
大倶利伽羅は目を逸らしたまま微かに頷く。
「もう!おおくりからはいつもこんなかんじなので、きにしないでくださいね」
「ふふ、ありがとう」
「それでは、あるじさま!いいゆめをみてくださいね!」
今剣は私と繋いでいた手にちゅっとキスをする。
なんてキザなんだ……。
「おい、」
「これくらいいいじゃないですか!」
それを横で見ていた大倶利伽羅が嗜めようとすると、今剣はむーっと拗ねた顔を作った。
「ありがとう。今剣も、大倶利伽羅も、良い夢を見てね」
二振りと別れて部屋に入ると、真ん中にすでに布団が敷かれていた。
誰かが用意していてくれたようだ。
ありがたいな、と思いながら布団の中に入る。
そこからはやはり、あの人と同じ匂い、この本丸の匂いがした。
「ここで、あの人は……」
そっと目を閉じた時、ひた、ひた、と近づいてくる気配に気づいた。
その気配は静かに、けれどやはり確実にこちらへ向かっている。
きっと昼間に視線を感じたあいつだろう。
色んな考えが脳内を駆け巡る。
ここに奴が来るということは、加州は?
他の刀剣男士は?こんのすけは?
「……っ」
呼吸がつい浅くなる。
だが、こういう時こそ落ち着いて、気配を消して、息を潜めなければ。
ひた、ひた、とすぐそこの廊下を歩いているのがわかる。
目を向けてはいけない。声を出してはいけない。
ただ奴が過ぎ去るのを待たなくては。
「どコダ?」
声が、聞こえた。
あまりの恐怖に、吐き気が込み上げてくる。
全身から汗が吹き出し、手はガクガクと震え、涙が止まらない。
でも、あいつ、私の気配がわかっていないのか?
音を立てないように、ゆっくり、静かに呼吸をする。
大丈夫。まだ気づかれていない。
すぐそこにいるが、私を見つけられていない。
「……っは」
バッと思わず口を塞ぐ。
すると、気配は襖の前で止まり、スーッと襖が開く音がした。
気づかれたのか?
いや、それならこんなにゆっくり入ってこないはず。
部屋の中に踏み入られそうになった瞬間、バチッと大きな音が鳴る。
「!!!」
この部屋には、結界が施されていたらしい。
びっくりして、奴を、見て、
「おらおらァ!!」
「!加州!」
奴が怯んだ隙を突いて、どこからともなく現れた加州が斬りかかる。
「グアアアアア!!!」
黒い澱みを纏った、人型とも言えないドロドロとした何かが後ずさる。
「主、遅れてごめん。もう大丈夫だから」
「お前にしては珍しいな、取り逃すなんて」
「こいつ、無駄に逃げ足速いんだよ」
加州だけでなく、和泉守も。
部屋まで送ってくれた今剣や大倶利伽羅もいる。
「みんな、なんで……」
「そりゃあ、主を守るためだ」
「そうですよ!ぼくのおまもりがきいたみたいですね!」
「お守り……?」
「……あんたの手に接吻したやつだ」
ふと手を見ると、うっすら今剣の紋が手の甲に浮かんでいた。
「えっなにこれ」
「手に接吻!?ちょっと今剣それは聞いてないんだけど」
「いいじゃないですか!そのおかげで、あるじさまはあいつにみつからなかったんですよ!」
「そりゃあそうだが、お前の神気を主に流し込むのは話が違うだろ!」
加州と和泉守は敵を気にしながらも今剣に抗議する。
神気を流し込まれた……?全然気づかなかった。
そうか、今剣の神気があったから、あいつは私の気配を今剣と勘違いして見つけられなかったのか。
……いや、方法としてはかなり困るが。
「心配するな。朝には外へ流し出される」
まじまじと手の甲を見つめている私に、大倶利伽羅がそう言い、流し込まれ続けなければな、と続けた。
「そうですよ!ちょっとだけです!とにかくまずはあいつをたおしますよー!」
それからの処理は早かった。
加州が「大丈夫だから、ちょっと待っててね」と襖を閉め、それからものの数分で退治してしまったのだ。
私があんなにも恐れていた相手は、刀剣男士、付喪神にとっては雑魚も同然。
彼らの力を改めて思い知らされた夜だった。