継ぐ者
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母の死を知ってから数ヶ月、私はひたすら荷造りと諸々の手続き確認に追われた。
大学を辞めることにはなったが、別に何か夢があったわけでもなく、怪異が見えてしまう私は、どのみち大して人とも仲良くなれなかった。
「荷物はこれで全てですか?」
「はい」
政府が手配した業者に全ての荷物を頼むと、ペコリと頭を下げ虚空に消えていった。
「お嬢様……」
その様子を見送り、私も家を出ていく準備をしていると、ばあやが声をかけてくる。
「ばあや」
「やはり心配です……私も一緒に、」
「何言ってんの。ばあやには息子さんたちもいるじゃん。私についてきたら会えなくなっちゃうよ」
「ですがやはりお嬢様をお一人で行かせるだなんて……奥様ももういらっしゃらないのに」
私の手を取り、潤んだ瞳で私を見上げてくる。
「私は大丈夫だって。元々、ばあや以外にこの世界で大事な人もいないし」
ばあやの手をぎゅっと強く握り返す。
「未練はないよ。何があっても」
「そ、そんなことおっしゃらないでください!」
「あはは、ごめんごめん」
私の力に負けないくらい強く握ってきたばあやが、お元気で、と呟く。
おそらくもう会えないだろう。
それでも、私といる時よりはきっとばあやは幸せになれるはずだ。
私はばあやの後ろに揺らめく黒い影を睨み、家を後にした。
政府から支給されていた装置を使用すると、あっという間に気がつくと大きな門の前に立っていた。
「これが本丸、ね」
マニュアルでもらった通りに門の戸を叩くと、中から小さいぬいぐるみみたいな生き物が出てくる。
「これはこれは!貴方様が新しい審神者様ですね!」
「君は?」
「私はこんのすけと申します。政府から遣わされておりますゆえ、何かわからないことがありましたら、何なりをお尋ねくださいませ」
なるほど、案内人のようなものか。
「さあさあ、中へお入りください!」
こんのすけの言葉で、初めて本丸との間に感じていた高い壁が取れたような気がした。
今、こんのすけが中へ招き入れてくれたのか。
「大広間に皆さんを集めて参ります!」
「いいの?ありがとう」
こんのすけが渡してくれた本丸のデータを見ながら私は大広間に向かい、こんのすけは途中で別れて他の刀剣男士たちを呼びに行ってくれた。
本丸。あの人から話に聞いてはいたけれど、随分とのどかなものだ。
襲撃を受けたとは思えないほど、建物に傷はないし、畑なども荒らされた様子はない。
これも何か、特殊な力が働いているのだろうか。
スーッと空気を胸いっぱいに吸い込んでみる。
何だか、あの人の匂いがした気がした。
「審神者様!」
「今行く」
こんのすけは、てっきり歩いて全員に声をかけに行くのかと思っていたが、どうやら違ったらしい。
私が大広間に着くよりも先に、こんのすけの方が先に着いていた。
「失礼しまーす」
私が大広間に入ると、少し空気が張り詰めるのを感じた。
見られている。
あの人が従えてきた刀剣男士の視線が一気に私に集中する。
怪異に見られた時とはまた違う圧がある。
なるほど、付喪神とはこういう類のものか。
「初めまして。真名は明かすなと言われているので、私のことはさなと呼んで。ご存じかと思いますが、先代の娘です」
至らないところもありますがよろしくお願いします、と深く頭を下げ、ふう、と息を吐いて顔を上げる。
すると、先ほどまでの張り詰めた空気とは打って変わり、皆がキラキラした目で、優しい目で、温かい目で私を見つめていた。
「えー!?主様の?!」
「話は聞いていたけど、へえ、君が」
次代に娘がくるって伝わっていなかったのか?
こんのすけをジロリと見ると、目を逸らされる。
報連相がなっていないな。
「……」
皆が思い思いに話す中、1人だけ、私と同じ目の色をした男士が、じっと私を見つめていた。
大広間の最後列。どんな表情かは読めない。
「じゃあ、今日からどうぞよろしくね、皆さん」
男士が初めに気を張っていたからか、大広間は少し神気が強い。
まだ彼らの神気に体が馴染んでいない私にとっては毒だ。
あの人も、初めは神気に慣れず、気分が優れなかったと話していたな、とそんなことを思いながら、私は大広間を後にした。
大学を辞めることにはなったが、別に何か夢があったわけでもなく、怪異が見えてしまう私は、どのみち大して人とも仲良くなれなかった。
「荷物はこれで全てですか?」
「はい」
政府が手配した業者に全ての荷物を頼むと、ペコリと頭を下げ虚空に消えていった。
「お嬢様……」
その様子を見送り、私も家を出ていく準備をしていると、ばあやが声をかけてくる。
「ばあや」
「やはり心配です……私も一緒に、」
「何言ってんの。ばあやには息子さんたちもいるじゃん。私についてきたら会えなくなっちゃうよ」
「ですがやはりお嬢様をお一人で行かせるだなんて……奥様ももういらっしゃらないのに」
私の手を取り、潤んだ瞳で私を見上げてくる。
「私は大丈夫だって。元々、ばあや以外にこの世界で大事な人もいないし」
ばあやの手をぎゅっと強く握り返す。
「未練はないよ。何があっても」
「そ、そんなことおっしゃらないでください!」
「あはは、ごめんごめん」
私の力に負けないくらい強く握ってきたばあやが、お元気で、と呟く。
おそらくもう会えないだろう。
それでも、私といる時よりはきっとばあやは幸せになれるはずだ。
私はばあやの後ろに揺らめく黒い影を睨み、家を後にした。
政府から支給されていた装置を使用すると、あっという間に気がつくと大きな門の前に立っていた。
「これが本丸、ね」
マニュアルでもらった通りに門の戸を叩くと、中から小さいぬいぐるみみたいな生き物が出てくる。
「これはこれは!貴方様が新しい審神者様ですね!」
「君は?」
「私はこんのすけと申します。政府から遣わされておりますゆえ、何かわからないことがありましたら、何なりをお尋ねくださいませ」
なるほど、案内人のようなものか。
「さあさあ、中へお入りください!」
こんのすけの言葉で、初めて本丸との間に感じていた高い壁が取れたような気がした。
今、こんのすけが中へ招き入れてくれたのか。
「大広間に皆さんを集めて参ります!」
「いいの?ありがとう」
こんのすけが渡してくれた本丸のデータを見ながら私は大広間に向かい、こんのすけは途中で別れて他の刀剣男士たちを呼びに行ってくれた。
本丸。あの人から話に聞いてはいたけれど、随分とのどかなものだ。
襲撃を受けたとは思えないほど、建物に傷はないし、畑なども荒らされた様子はない。
これも何か、特殊な力が働いているのだろうか。
スーッと空気を胸いっぱいに吸い込んでみる。
何だか、あの人の匂いがした気がした。
「審神者様!」
「今行く」
こんのすけは、てっきり歩いて全員に声をかけに行くのかと思っていたが、どうやら違ったらしい。
私が大広間に着くよりも先に、こんのすけの方が先に着いていた。
「失礼しまーす」
私が大広間に入ると、少し空気が張り詰めるのを感じた。
見られている。
あの人が従えてきた刀剣男士の視線が一気に私に集中する。
怪異に見られた時とはまた違う圧がある。
なるほど、付喪神とはこういう類のものか。
「初めまして。真名は明かすなと言われているので、私のことはさなと呼んで。ご存じかと思いますが、先代の娘です」
至らないところもありますがよろしくお願いします、と深く頭を下げ、ふう、と息を吐いて顔を上げる。
すると、先ほどまでの張り詰めた空気とは打って変わり、皆がキラキラした目で、優しい目で、温かい目で私を見つめていた。
「えー!?主様の?!」
「話は聞いていたけど、へえ、君が」
次代に娘がくるって伝わっていなかったのか?
こんのすけをジロリと見ると、目を逸らされる。
報連相がなっていないな。
「……」
皆が思い思いに話す中、1人だけ、私と同じ目の色をした男士が、じっと私を見つめていた。
大広間の最後列。どんな表情かは読めない。
「じゃあ、今日からどうぞよろしくね、皆さん」
男士が初めに気を張っていたからか、大広間は少し神気が強い。
まだ彼らの神気に体が馴染んでいない私にとっては毒だ。
あの人も、初めは神気に慣れず、気分が優れなかったと話していたな、とそんなことを思いながら、私は大広間を後にした。