継ぐ者
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ある日、一通の手紙が届くと共に、母は帰らぬ人となった。
いつもの朝、大学へ行く準備をしていると、政府の人間がやってきた。
そろそろ出ないといけないのに、男は目を泳がせるばかりで、なかなか話を切り出そうとしない。
「あの、何かあるなら話してください。私もこの後大学があるので」
「あ、はい……すみません、」
男は出されたお茶をぐっと飲み干し、意を決したように口を開く。
「……お母様が、お亡くなりになりました」
「……はぁ」
なるほど、その報告か。驚きはするけど。
「……?あの、」
「はい」
「あや様のお母様が、亡くなられました」
私の反応があまりにも淡白だから、男は同じことを言い直す。
「わかりましたけど、お話はそれだけですか?お葬式の準備とかは私の方ですることになるんでしょうか」
「い、いえ、それはあの、ご遺族の方のご意見を尊重させていただいて……」
「ああ、やっていただくこともできるんですか?」
「ある程度こちらでご用意進めさせていただいて、最終確認をお願いするような形になります」
「あ、じゃあそうしてください。……というか、お葬式必要ですか?本丸の皆さんとお別れ会だけして、火葬が良い気がしますけど」
「その、大変申し上げにくいのですが、審神者様がお亡くなりになった場合、本丸から直ちにご遺体を政府にてお預かりする必要がありまして、刀剣男士とお別れの時間を作ることはできないんです」
彼らも神様ですので……と男は言う。
まあ、そうか。魂をそちら側に持って行かれでもしたら大変だもんなあ。
「え、じゃあ、あの人のために顕現して戦ってくれた本丸の皆さんは、あの人とちゃんとお別れできず仕舞いってことですか?」
「……本丸襲撃による殉職ですので、刀剣男士の損傷も激しく、」
そういうことだろうと思った。
あの人はいつも「本丸は政府に守られていて安全だから」と言っていたが、それも全て人の手で作られたものだ。
やはり結界などに穴があったのだろう。
「……そうですか。もちろん、今後の対策は考えられているんですよね?あの人の死をきっかけに、さらなる守りの強化を行うんですよね?」
「も、もちろんです!!」
彼らが主を守れなかった傷は癒えないだろうが、犬死にならないならあの人は化けて出たりしないだろう。
「彼らが参列できないなら、葬式はしなくていいと思います。あの人も別に「葬儀を行なって誰々さんを呼んでくれ」とかは遺言残してないんですよね?」
「それは、まあ……」
「じゃあいいです。特に知り合いもいないので、火葬だけしていただければ」
「……承知しました」
男はゴソゴソとメモを取り出して、何やらメモを書いている。
火葬だけとはいえ、人が亡くなった時の対応を何も知らないから、他にも何かあるんだろうか。
「その他諸々のお手続きは、私共の方で処理させていただきますので」
「……あ、銀行の口座閉じたりとかも?」
「はい、審神者様に関わる全ての事務処理は全て政府で行わせていただきます」
「わかりました。……話はそれだけですか?」
男はまた言いにくそうに黙り込み、浅く息を吐いてカバンから書類を取り出す。
「こちらを」
「『審神者代替わりについて』?」
「通常、審神者様がお亡くなりになり、審神者様にお子様がいらっしゃる場合、本丸は取り壊さずお子様に引き継ぎいただきます。本来であれば終活の一環として事前に手続きをしていただくのですが……」
「突然の出来事だったから何も手続きが終わっていなくて、あの人が私に本丸を継がせようとしていたかどうかもわからないってことですね」
「……おっしゃる通りです」
いつか、こんなことが起こるんじゃないかと思っていた。
でも、あの人は私に会いにくる時に頑なにこの話はしなかった。
おそらく、外との関係が断絶され、戦の中に身を置くという「審神者」という仕事に、私を巻き込みたくなかったのだろう。
「いいですよ、引き継ぎます」
あの人のことは、最期までどんな人かわからなかった。
なぜ私を産んだのか、なぜ本丸から私を引き離して育てたのか、何も。
それを知るには、本丸に行くしかない。
……それに、幼い頃から見える怪異のことを考えると、普通に生きていくにはこの世界は生きづらすぎる。
「!本当ですか!」
「はい。あの人、何も学ばずに審神者になれたって言ってましたけど、私もそんな感じでなれるんですか?」
「あ、はい、あや様にも十二分に審神者として必要な霊力が備わっていますので、養成学校に通わずとも可能です。もちろん、基本的なマニュアルや規則本はお渡しいたしますので、ご心配なく」
年々審神者としての素質が備わったものが減っており、本丸1つ潰すのも痛手になってきていると、いつぞやあの人が零していた。
政府としては、私が継ぐことで潰さずに済むなら、それ以上に嬉しいことはないのだろう。
「で、ではこちらにご署名を……」
その後、今後の大学を辞める時期や審神者業の開始時期、諸々の手続きについて説明を受けた。
本丸への引越し費用なども全て政府が受け持ってくれるらしい。
かなり手厚く、ほとんど私の希望が通った状態で本丸に移動させてもらえることになった。