愛するために必要なこと
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
演練騒動からしばらくして、政府から返事とお詫びの品が届いた。
後であのリストを確認しに行ったら、私の欄だけ綺麗に消されていた。
曰く、これまでリストへの掲載を断った審神者はいないらしく、私に対しての確認を怠ってしまったらしい。
あのリストへ載ることを拒否しないなんて……、仲良くなろうとしなくてよかったかもしれない。
神隠しなどの知識を備えておらず、これまで誰からも手を出されずに生き残っている人か、はたまた神に囲われることで力をつけようとしている人か……。
真相はわからないけど、仲良くなれる相手でないことは確かだ。
「主〜、なんか手紙届いてるよ」
「手紙?」
清光がポストから小さな封筒を持ってきてくれる。
「俺たちじゃ見れないから、政府からかも」
「ありがとう」
この本丸に届く郵便物は、別の審神者や政府から届くものには特殊な封がされており、デリバリーの広告などは男士たちも見れるため、彼らが見れるものに関しては、その管理を近侍に任せている。
「『定例会のお知らせ』……?」
封を切って中を見てみると、政府から審神者の定例会に出席するようにという連絡と、一つの腕輪が入っていた。
同封されていた腕輪は同行する刀剣男士に付けさせるためのものらしい。
万が一の事態に備えて、一振りだけ同行できるようだ。
「何だった?」
「定例会だって。明後日出席しなきゃいけないみたい」
「明後日?急すぎない?」
「審神者業をしてる人は基本的に本丸から離れないから、急に予定を組んでも問題ないみたい」
「ふーん……それ、あいつも来るんじゃないの?」
清光は、先日の失礼な審神者のことを気にしているのか。
政府には私と奴を接触させないように連絡を入れているし、もし集まりに来るとしても会わないように配慮されているはずだけど……。
「審神者の定例会だから来ると思うけど、会うことはないと思うよ」
「ねえ……それ、俺もついて行っちゃダメ?」
「!」
「……ダメ、だよな……」
「ううん、ダメじゃない!むしろどうやって誘おうか悩んでたの……」
「え?」
私は同封されていた腕輪を清光に見せる。
「定例会には一振り連れて行けるの。それで、清光について来てもらいたいんだけど、この間みたいに嫌な人もいるかもしれないし、どう声をかけたらいいかわからなくて……。一緒に、来てくれる?」
清光は渡された腕輪をギュッと握り締めると、周りに桜が舞い始める。
「当たり前じゃん!」
私は定例会当日までに、乱や光忠を連れて万屋へ行き、服を見繕ってもらった。
大した服も装飾品も持っていなかったから、これを機に一式揃えてもらったのだ。
清光と並びたっても遜色ないように、私も着飾らないとと思った。
「主、服は着れた?」
「うん」
着付けてもらってもよかったのだが、それはさすがにまずいと光忠に突っ込まれ、自分でも着れるように洋装にしてもらった。
「どう、かな……」
「うん!僕の見立て通り!」
光忠は着替えた私を満足そうに見つめ、いそいそと椅子に座らせてくれた。
「今日のために練習したんだ。かっこよくヘアアレンジしたいよね!」
私はオシャレとかよくわからないけど、光忠も乱も、私が定例会に清光と一緒に行くという話をしたら、何から何まで準備してくれた。
乱は「清光さんのこと、驚かせよ!」と張り切っていて、新しく服を買ったことも、こうしてヘアアレンジしてもらうことも、清光には話していない。
「はいできた!主、どこか痛いところとかない?」
「うん、大丈夫。ありがとう光忠さん」
「主ー?一時に出発するって言ってなかったー?」
行っておいで、と光忠に優しく送り出される。
2振りが全力で見繕ってくれたんだから、自信を持とう。
私は背筋を伸ばして外へ出る。
「あ、準備でき……た……」
襖を開けると、ちょうど迎えに来ていた清光と遭遇した。
清光は私を見て硬直している。
「どうかな……?光忠さんと乱ちゃんに見繕ってもらったんだけど……」
固まったまま動かない清光。
どうしよう、私、オシャレしない方がよかったかな……。
「や、やっぱり私、着替えて───」
「っっ超かわいい!!!!!!!!!!!!」
「えっ」
それまで固まっていた清光が、とんでもなく大きな声を出す。
び、びっくりした……。
「あんた素がいいから絶対着飾ったら超可愛いでしょって思ってたんだけど、やっぱり思った通りじゃん!主がこんなにオシャレするんだったら俺もデコってほしかったなー」
「あの……」
「ん?」
「つまり、びっくりして固まってただけ……?」
「そりゃあビックリして固まりもするよ!いつもの格好だと思ってたから予想外だし……」
「よかった……。清光に気に入ってもらえなかったら、光忠さんと乱ちゃんに協力してもらった意味がないから」
私の言葉を聞いて、清光の周りに桜が舞い始める。
「えっ……なにそれ」
心なしか顔も赤い。
何が恥ずかしいのか、清光は手で口元を覆う。
「それってなんか……俺めちゃくちゃ愛されてるみたいじゃん」
「!」
いつも、清光の欲する『愛』が何なのかわからなかった。
彼の望むものをあげられないことも心苦しかった。
愛されたことがないから、愛し方がわからなかった。
でもこうして、相手のために着飾ったり、相手と並び立って遜色ないようにしようとしたりすることも、『愛』のひとつなんだ。
「……うん、そうだね。愛しているんだと思う」
「!」
清光は今度は顔を隠してしまう。
「それでね、清光」
「な、何?」
「さっき、俺もデコってほしかったって言ったでしょ?」
「……言ったけど」
「乱ちゃん、光忠さん!」
「「はーい!」」
2振りがサッと箱を取り出す。
「え?」
「もしかしたら、清光ならそう言うかもって思って、清光の分も買っておいたの」
「お、俺の……?」
清光は信じられない物を見るように、目を輝かせている。
「で、でも主、一時に出るって……」
時刻は十二時五十分。
一時に出るなら、もう間に合わない。
一時に、出るなら。
「余裕を持って時間を伝えておいたの。清光もちゃんとデコれるように」
本当の出発時刻は二時三十分。
もし清光が何も望まなければ、そのまま早く出発してお茶でも飲もうと思っていた。
「ありがとう主!!」
「喜んでもらえてよかった。爪は私に任せて!いつか清光に綺麗に塗ってあげたくて、練習してたの」
私も用意していたネイル用品を取り出し、さっそく清光の爪をデコり始める。
その間に光忠が髪をセットする。
ネイル乾燥機で乾かして、乾き次第乱が用意している服に着替える、という流れだ。
着替えにはさすがに立ち会えないから、私は部屋を出て、今日の定例会の持ち物を確認する。
「端末と近侍と、資料は端末にダウンロードしてあるし……」
「主さん!用意できたよ!」
乱の声とともに部屋から清光が出てくる。
「どう、かな……」
私が万屋で想像した通り、いやそれ以上に似合ってる。
普段から可愛いとは思ってるけど、さらに可愛さが加速してる感じだ……。
「よく似合ってる。想像以上だよ!」
「あ、ありがとう……」
ぶわっと桜が舞う。
可愛いなあ。
「よし。じゃあ気合いも入れたし、」
「「いってきます!」」
みんなに送り出されて、私たちは定例会会場に出発した。
会場に着くと、入り口にスタッフ2人が待機していた。
「さや様ですね。お待ちしておりました。ご案内いたします」
「刀剣男士の方はこちらへ」
「……万が一に備えて連れてくるように伺っていましたが、彼を私から離すのですか?」
私がチラリと清光の方を見るも、スタッフは淡々と対応するだけだった。
「会場内への刀剣男士の立ち入りは原則禁止となっております。お近くのお部屋で待機していただきますので、ご心配なく」
清光は私を安心させるように頷く。
つまりこれから私は人間しかいないところに1人で飛び込まないといけない。
久しぶりの緊張感だ……。
「わかりました」
清光と別れて中に入ると、既に何人もの審神者が来ていた。
誰も彼も服装に気合が入っているが、私が気になったのはそのメンツだ。
「……」
座っている人の中に、例のリストに載っていた審神者が1人もいない。
「さや様のお席はこちらです」
てっきり末席に案内されると思ったのに、ここはかなり上の人が座る席じゃない?
私はこの定例会に参加するのも初めてなくらい新参だし、こんな席なのはどう考えてもおかしい。
「……はい……」
案内された私を見て、数人の審神者が隣の審神者とボソボソ話し始める。
この人たちはおそらく何度も同じメンバーで集まっているだろうから、もう隣の人とは顔見知りみたいなものなんだろう。
こんな目立つことになるなら、下手に服に気合い入れない方が良かったかも……。
そうネガティブに考え始めたところで、清光が喜んでくれたことを思い出して思考を止めた。
「あの……」
「!……はい?」
隣の審神者が突然話しかけてきた。
「初めて参加される方ですよね……?」
「そうですけど……」
「わあ、やっぱり!以前私のお隣に座られてた方は、前々回あたりからいらっしゃらなくなって……少し寂しかったので、またお隣の方ができて嬉しいですわ」
「来なくなる、とかあるんですか?」
「ええ、まあ……。詳しい理由は私も存じませんけれど、本丸が襲撃されたとか、神隠しにあったとか、もう審神者を辞職されたとか……」
不穏すぎる……。
なんだかこの席すらも曰く付きのような気がしてきてしまう。
「あ、でも別に私の隣の席が呪われているとか、そういったことは一切ありませんし、あくまでも噂ですから。お気になさらないでくださいね」
「はあ……」
そうは言われても気にするだろう。
怖いなあ……、と思いながら、話題を変えることにした。
「ところで、この席って一体どうやって決められるんですか?」
「あら、ご存知ありませんの?この席順は霊力の高さ順ですわ」
「こんなところでも霊力……」
「それはもちろん。霊力が高いということは、それだけ審神者としての能力も高く、政府から重要な役割を担わされることもあるということですから」
「重要な役割?」
「私よりも上座の皆様しか任されたことのない役割だそうですから、どのようなものかは存じませんけれど、あなたもいつか任されるのではないかしら」
「そう、ですか……」
そんな役割を任されるなんて聞かされてないし、雇用契約に違反しているのでは?
霊力によってもし任務の危険度も変わるとかなら、どう考えても私は不利だ。
審神者としての業務に慣れてきたら霊力に応じて新たな業務を任せよう、みたいなことなんだろうか。
私だけそんな仕事が増えるだなんて……。
『それでは、ただ今より定例会を開始いたします。この度はご足労いただきまして───』
それから政府による挨拶があり、その後は各本丸の戦績や何か異常はないかなどの確認、そして各本丸で行っている独自の取り組みなどについても共有し、より良い本丸を作り上げようという主旨の話し合いがなされた。
『以上をもちまして定例会を終了いたします。これからお呼びする皆様は、そのまま席でお待ちください。さや様───』
「えっ」
先頭で私の名前が呼ばれ、立ちかけていたところをまた椅子に座り直す。
「ではまた」
隣の方は軽く頭を下げて去っていく。
確かに私を含め、彼女よりも上座にいる人だけが呼ばれている。
こういう呼び出し方は彼女のようなギリギリのラインにいる人にとって気持ちの良いものではないだろう。
こういうあからさまなのは嫌になるな……。
「さや様、ご案内いたします」
「どこへですか?」
「個室へお連れするようにとのことです」
「なぜです?」
「……政府よりさや様へ内々にお話があるとのことです。具体的な内容は私共は存じません」
もしかしたら、さっきの人が言っていたことかもしれない。
「わかりました」
大人しくついていきながら道順を覚えておく。
何かあったらダッシュで逃げよう。
入り口からどんどん離れてるってことは、つまり清光とも離れてるってこと。
「こちらです」
案内されたところには、私の研修も担当した役人が座っていた。
「さや様、ご無沙汰しております」
「お久しぶりですね」
「どうぞおかけください」
案内人は私を部屋に案内すると、早々に扉を閉めて立ち去っていった。
「お話があると聞きましたが」
「……ええ。単刀直入に申し上げます。さや様には、政府直属の刀剣男士を管理する役職を引き受けていただきたいと考えております」
「……は?」
「この短期間で平均よりも多くの刀剣男士を従えておられること、霊力が高いこと、またその霊力の性質、全てを総合して判断した結果です」
「ちょっと待ってください。じゃあ今の本丸はどうするんですか?」
「そちらは審神者として再雇用された方にお願いするつもりです」
「つまり、私が顕現し、私の霊力によってその体を維持している彼らを、別の審神者に丸投げすると?」
「……そのようになりますね」
「いい加減にしてください。分霊とはいえ、彼らは私の霊力によって顕現しているんです。異なる霊力に慣れるまでどれだけの苦労があることか」
「その点は問題ありません。政府の方で対応いたします」
「……はあ。私はそこまで薄情に見られているんですか?自分の手で顕現した彼らに対して、分霊だからと切り捨てられるほど薄情ではありませんよ」
「こういった『本丸を離れる』というケースにおいて、そのようにおっしゃられる審神者の方は多くおられます。しかし、さや様の場合、今後管理するのは、その分霊たちの大元です。分霊に情が移ったとはいえ、大元の刀剣男士と関わることは、彼らを切り捨てることとは異なると思いますが」
面倒なことになったな。
分霊はいずれ本霊と一緒になるだろうけど、じゃあその本霊の世話をするなら、分霊を別の人に渡しても問題ないのかというとそれは違うだろう。
分霊は分霊の意志を持って動いている。
だから演練先でたくさんの分霊に会っても個体差があるし、見分けもつく。
これは、全部ひとまとめにして一緒だと言ってはいけないだろう。
「あなた方の考えが何であれ、私はその職務を全うする気はありません。お断りします」
「……そうですか。我々としては非常に残念です」
「話はそれだけですか?」
役人が頷いたのを見て、失礼しますとだけ言いすぐに外へ出た。
覚えていた通りの道を戻っていく。
早く、早く清光と合流しないと。
元々入ってきた入り口が見えてきたところで、そこに清光が立っているのが見えた。
「清光!」
「主〜!」
「っ、?」
思わず駆け寄りかけて、足が止まる。
「……私の本丸の清光、だよね?」
「当たり前じゃん」
そう言って清光は私が渡した腕輪を見せてくる。
確かにうちの本丸番号が刻まれている。
でも何だろう、この違和感は。
「どうかしたの?」
「……ねえ、清光が待ってたっていう待機室って結局どこだったの?」
「……どうして?」
「また来ることになるだろうから、刀剣男士がどこに待機してたか知りたいの。建物内全然案内されてないし、危険があったときに逃げ込む場所はわかってた方がいいでしょう?」
ふむ、と清光は少し考えて、こっちだよ、と案内してくれた。
「ここ。他の本丸の刀剣男士も一緒に一室に集められてたよ。今はもうみんな帰ったけど」
「確かに会場から近いけど、戦力を一箇所に……。せめて二方向からの攻撃くらいには耐えれるように分散させた方がいいと思わない?」
「確かにねー。この部屋に戦力固めてたら柔軟な対処はできないよね」
私が中に入ろうとドアノブに手をかけると、清光が私の手首を掴んだ。
そこで、気づいた。
清光の爪、私が塗った爪じゃない!
「中に入りたいの?」
「うん。部屋の大きさを見ておけば、何振り程度が一部屋に適切な刀数かわかるでしょ」
「……それを知って政府に進言したところで、今さら建物を建て直すわけにもいかなくない?」
「それもそうか……わかった。手を離して」
「うん。じゃあ、俺たちも帰ろう。ここに残ってる審神者はもう主だけだよ」
私の他にも呼び出された審神者がいたはずだけど、もうみんな帰ったのか。
今、すごく体温が低い気がする。
「そうなの?それなら早く───待って」
私の3歩後ろを歩いている清光を制止する。
「何?」
「……何か、前の方から嫌な予感がする」
「え?うーん……俺は何も感じないけど」
「念の為そこの曲がり角の先に何もないか確認してくれる?……前にも話したけど、私こういう予感に敏感なの。色々あったの知ってるでしょ?」
「……わかった。主はそこ動かないでね」
清光がスッと曲がり角に行き、その先を覗く。
「何もいないよー」
「天井とか床とか、そういうところも見なきゃだめよ!」
「……はーい」
ちょっと面倒そうな声を出しながら、曲がり角に消えていく。
姿が見えなくなった瞬間に、私は待機室に向かって走り出した。
「!」
私が走り出したことに気づいた清光が急いで戻ってくるが、刀剣男士といえど、これだけの距離が空いていればいける!
待機室のドアをバンッと思い切り開く。
「えっ主!?」
そこには、私の、本物の加州清光がいた。
「話は後!早くここから逃げるよ!」
「え!?う、うん!」
手を掴んで、爪を確認する。
間違いない。私が顕現した清光だ。
「私が言った通りの道順で進んで」
「あれ、なーんだ、やっぱりバレちゃってたわけか」
清光が私を抱き上げたところで、偽の清光が入ってくる。
「服も口調も同じにしたのに、なんでバレたんだろ」
「それを教える義理はないわ」
「え、何あいつ!?俺……?」
「詳しいことはわからないけど、敵なのは確かだよ。あいつ振り切って逃げれる?」
「……頑張るよ」
霊力の強さからして、相手の方がレベルが高いのは確か。
でも逃げなくちゃ。
「この部屋を出さえすれば、あとの道順は私に任せて」
「りょーかい!」
奴とここで直接対決するのはどう考えてもこちらが不利だ。
しかもこんな状況下で政府の警備隊が駆けつけてこないってことは、奴と政府が手を組んでいる可能性が非常に高い。
「アレとまともにやり合っちゃダメ。逃げることだけ考えてね」
「もちろん」
清光も、相手とのステータス差は理解しているらしい。
ジリジリと睨め合いながら、仕掛けるときを狙っている。
……しかし、清光の腕が若干震えているように感じた。
「清光?」
「ねえ主、もしかしてなんだけど、俺の霊力吸い取られてない?」
「!」
吸い取られている、かどうかは私にはわからないけど、明らかに清光の霊力が弱まっている。
どうして……?
そこにさっき役人に言われた『本霊』という言葉が思い浮かんだ。
「まさか……」
ハッとして奴を見ると、全て見透かしたようにニヤリと笑っている。
「……そういうことね」
「ねえ主、素直に俺の言うこと聞いた方がいいと思うよ」
『主』と聞いて、清光の表情が一瞬硬直し、みるみるうちに殺意に満ちた表情に変わっていく。
まずい。相手の挑発にのっちゃダメだ。
私は清光の両頬を手で挟むように掴んだ。
「しっかりして!」
「っ、主……」
「そう。私はあなたの主。あいつの主じゃない」
奴は肩を竦める。
「そいつも俺も加州清光で、主は加州清光の主でしょ?じゃあ俺の主でもあるじゃん」
「違うわ。私はこの、今私を抱き上げている加州清光の主なのであって、加州清光全ての主ではない」
ギュッと、強く清光に抱きつく。
「私の清光に、手を出さないで」
私は霊力を制御するための腕輪を外し、奴に投げつけた。
「っ!」
一瞬怯んだところを、清光がサッと抜いていく。
「あっ」
奴は何でもない顔をしながら後ろから追いかけてくる。
たぶん奴といると、清光の霊力がどんどん弱まっちゃうんだ。
「清光、走りながらよく聞いて」
「……うん」
「私の霊力を9割まで吸っていいから、足りてない分を補給して」
「えっ!?」
「今はこれしか方法が思いつかない。本丸に帰り着くことが先決でしょ?私は大丈夫だから」
「でも……っ」
「清光だから任せるの。このまま霊力垂れ流してたら別の何かを引き寄せかねないし、あなたが吸収してくれた方が役に立つ」
奴からも私の霊力を感じたから、もしかすると垂れ流されている私の霊力を吸い取れるかもしれない。
「絶対にみんなの待つ本丸に一緒に帰ろう。ね、清光」
「………………………わかった」
私は全身の力を抜いて清光に身を委ねる。
「本丸の座標は私の私用端末を見たらわかるから、無理に政府の機械を使おうとしないで」
「……そういうこと。わかった」
清光はすぐに状況を察してくれたようだった。
「あとは、任せた」
「うん。主が次に目を覚ましたら、その時は本丸にいるからね」
私を安心させるような、優しい声。
その声に誘われるように私は意識を手放した。