愛するために必要なこと
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あれから二日間、出陣をせずに休暇にした。
そして今日から、演練にも参加することになった。
「第二部隊は出陣、第三部隊と第四部隊は遠征に向かってください。そして、第一部隊は私と共に演練へ」
「「「はい!」」」
休暇の間、私なりに頑張ってみんなとコミュニケーションをとった。
おかげで少し、みんなとの距離を縮めることができた気がする。
「演練には私も同行しなければならないので、待機の皆さんは本丸を頼みます」
「任せてよ。留守の間もかっこよく守ってみせるさ」
「ふふ、ありがとうございます。では、行きましょうか!」
出陣部隊、遠征部隊を転移装置で出発させた後、清光、宗三、和泉守、堀川、小夜、岩融、の六振りを連れて演練先へ転移した。
「……ここが、演練会場?」
これまではあの本丸から一切出てこなかったけど、こんなにたくさんの審神者がいるのね……。
そして、わかってはいたけど、同じ顔でも相手はうちの刀剣男士とは別なのよね。
「おや、そこの君」
「え、はい?」
知らない男の人……この人も審神者か。
「もしかして演練は初めてかい?」
「……はい」
「それなら、まず受付へ行くといい。役人が案内をしてくれるよ」
「わかりました」
「それじゃあ」
にこりと笑って、彼は立ち去った。
「……………………………………………はあ」
「っと。主、大丈夫?」
思わずふらついた私を、清光が支えてくれる。
「ありがとう、清光」
「あの人間に、何かされたの?」
「何だと?あいつ……」
「小夜ちゃん、和泉守さん、そんな怖い顔しないで。あの人はとても親切な人だよ」
「……そう」
「兼さんも落ち着いて」
「……ったく」
「はあ〜、久しぶりに人と喋ったからめちゃくちゃ緊張しちゃった……」
「そんなことだろうと思った」
清光はちょっと呆れた顔をしている。
「俺たちとは毎日話しているが、やはり人とは異なるか」
岩融は単純に疑問に思ったようだ。
「そうだね。人の形ではあるけど、神力を感じるから」
人は異質なものを恐れる。
私は常に、その『異質なもの』だった。
恐れられ、疎まれ、遠ざけられる側の人間。それが私。
でも神様は違う。
神力を感じると、相手が神なんだと確信できて、人間と話す時とは安心感が違う。
「さて、さっきの人が教えてくれた受付に行こう」
受付で演練登録を済ませて説明を聞き、私は演練場に入場した。
「あなたは、さっきの!今日の演練相手はあなたでしたか」
「ああ……。先ほどはありがとうございました」
「いえいえ。無事受付できたようで何よりです」
演練相手はレベルに合わせて組まれるはず。
ということは、彼も新人審神者のはずだけど、私より演練に詳しいのはどういうことだろう。
私は最近政府から連絡が来て演練場に来たのに。
「これだけ男士が育っているのに、これまで演練場に来たことがなかったんなんて、もったいないですね」
「……そうですか?」
「ええ。演練で勝つと、政府から小判がもらえるんですよ。少しですけどね」
「へえ……」
「小判はあったほうが何かと役に立つでしょう?」
別にうちはお金に困ってないし……。
政府からの給金と出陣の報酬で十分だ。
「まあ、ないよりはいいですね」
「……うーん、何だか僕、嫌われてます?」
「?」
「返事がとても淡白なので……」
「……すみません、人見知りで」
「ああ、そうでしたか。こちらこそ申し訳ない、話しかけすぎましたね」
悪い人ではないだろうけど、なんでこんなに話しかけてくるんだろう……。
場の空気を読むのは得意だけど、自分から積極的に話すのは苦手なのに。
「ではそろそろ、演練を始めましょうか」
結果は、私たちの勝ち。
ギリギリだったけど、何とか勝てた。
レベル的には同じくらいだから引き分けになりそうだったけど、意外と何とかなるもんだな。
「ありがとうございました」
「こちらこそ。いやはや、お強いですね」
ここでそんなことないと謙遜するのも嫌味っぽいし、そうでしょう、と言うのも嫌味っぽいな……。
どう返したらいいだろう?
「……ですが、もう少しで負けるところでした。そちらもお強くていらっしゃいますね」
「ありがとうございます。次また戦う機会があれば、ぜひリベンジしたいところです」
よかった。気分は損ねなかったみたいだ。
さて帰ろうか、と仕度していると、先程の審神者さんがまた近寄ってきた。
「もしこの後お時間あれば、交流も兼ねてお茶でもいかがですか?」
「……え」
嫌だ〜〜〜〜〜!!!
今すぐにでも本丸に帰りたい。
でもわざわざ声をかけてきたのに断るのも失礼だし、別に用事があるわけじゃないから時間はあるし……。
「彼らも一緒でよければ、少しなら……」
縋るように清光の袖を掴む。
清光は少しギョッとしていたが、状況を把握して私を抱き寄せてくれた。
そこに第一部隊のみんなも、私を囲うように寄ってきてくれた。
「ええ、もちろんです。よければうちの子たちとも話してやってください」
相手方も刀剣男士を連れていくつもりのようで、結局そのままお茶をすることになった。
……まあでも、審神者ってことは私みたいに霊力があって、同じように周りから疎まれてきた存在かもしれないし。
少なくとも私を憐れんだり、恐れたりはしないだろう。
「ここは政府管轄の地ですから、近くに刀剣男士も入れるお店があるんですよ」
男は演練会場の近くについても説明しながら、何度も来ているらしいお店に連れて行ってくれた。
外からでもわかるくらい、中には刀剣男士たちの神気が満ちている。
こんなところ、霊力が微量な只人が来たら一発アウトだ。
「いらっしゃいませ」
迎えてくれた店員は人。
この人も霊力があるんだろう。
私はよくわからないから、男に勧められるままに注文をする。
「刀剣男士の皆様はどうぞこちらへ」
どうやら、審神者が飲み食いする場所と、刀剣男士が待機する場所は分けられているようだ。
なるほど、彼らに聞かれたくない話が思う存分にできるようになっているわけか。
政府もよく考えるものだ。
「……」
清光が店員に案内されながらも、心配そうにこちらを見る。
この店に入った以上、郷にいれば郷に従え。拒否はできない。
私は清光に頷きを返した。
……何かあれば、すぐに帰ろう。
「ところで、あなたはいつから審神者を?」
話したいことも特にない私が黙っていると、男から話しかけてきた。
「あと1週間と少しで一月になります」
「え、そんなに短期間であれほどまで成長を?」
「……そちらはいつから審神者を?」
「僕は半年前からです。いやあ、すごいな。通りで演練が初めてなわけですね」
おかしいと思ったんですよ、と男は笑っている。
何が面白いかわかんないけど、とりあえず笑っとこう。
「僕は出陣をサボりがちで、小判稼ぎに演練だけやってあとは休暇にしたりしちゃうからまだまだなのかなあ。どれくらいの頻度で出陣してますか?」
え、グイグイくるな。
「1日に何度か……」
「それを毎日?」
「そうですね」
「それは上がりますね!僕も頑張らないとなあ」
それからお茶とお菓子が運ばれてきて、他愛ない話が続いた。
切り上げ時がわからなくてヘラヘラ笑っていると、ふと男が真剣な顔になった。
「そういえば、お会いした時から気になってたんですけど」
「はい」
「あなたってもしかして、政府が公表している霊力が高い審神者さんじゃありませんか?」
「……なんですかそれ」
男はタブレットを取り出して、とあるサイトを見せてくれた。
そこに表示されているところに、確かに私の仮名と顔写真があった。
「これは一体……」
「聞いていませんか?霊力が高い審神者はここに掲載されるんです。政府にとってあなたのような審神者は英雄も同然ですからね」
「こんな、無許可で……」
「霊力が高いと待遇も違うと聞きます。その霊力の高さから生まれた場で苦労した分、このように英雄のように扱い、僕より給金も多いのでは?」
男は私に自分がもらっている給金のおおよそを教えてくれたが、私の十分の一だった。
それは、足りないはずだ……。
「どうです?僕より多いでしょう」
「……そうですね」
「これ、政府がでっちあげて僕たちの士気を上げさせようとしてるだけかと思ってましたが、本当だったんですね」
何だか、とても居心地が悪い。
「それだけ霊力が高いと、やっぱり見えてはいけないものも見えたりするんでしょうか?」
「……は、」
「僕は元々そんなに霊力が高くないですから、ずっと気になっていたんですよ。妖とか、見えたりしますか?」
「……そうですね」
「どういったのを見たことがあります?実は僕、オカルトファンでして、」
「あ、あの」
「はい!」
「この、霊力が高い人がリストアップされているこのサイトは、審神者になれば皆さん教えてもらえるものなんですか?」
「そうですね、教えてもらえると思います。霊力を鍛えることも僕たち審神者の責務なので」
「……そうですか」
「ただ、暗黙のルールでこのリストについてはあまり話してはいけないことになっているので、話題にする人はほとんどいないでしょうね」
「え、それじゃあ、」
私にそのことを話した彼は?
「つい、好奇心には勝てませんでした」
こうして箝口令を破ってくれる彼のおかげで、私はこのサイトについて知ることができた。
ちょっと、いやかなり、気分は悪いけど。
「……私の家には霊が住み着いていましたし、近所の神社の神様も見えます。あと、心霊スポットと言われているトンネルなどよりも廃屋や跡地の方がよく見ますね。夜道には怪異にあとを尾けられることが多いのであまり歩かないようにはしていましたね」
「……ほお……」
「霊力が高いと神域に連れていかれかけることもあるので、あまり良い思い出はありません。……これくらいでいいですか?」
「!ありがとう、ございます……」
男はようやく空気を理解したのか、微妙な顔をする。
私は早々に帰り支度をする。
「清光」
そう呼べば、部屋の奥から清光たちが出てくる。
「終わった?主……って、」
清光は私を見るや否や、座っている男を睨みつけた。
続くみんなも、私の顔を見るなり、隣の男を冷ややかに見つめる。
「……帰ろう」
清光の袖をキュッと掴む。
清光が私の肩を抱き寄せ、私はテーブルにお金を置いた。
演練で対戦した相手のことは記録されているはずだから、この人とは二度と会わないように政府に調整をお願いしておこう。
「それでは」
店を出て、しばらく歩いて、転移装置が見えてきた頃、ドッと疲れたきた。
「大事ないか?」
ふらついた私を、咄嗟に岩融が支えてくれる。
「ありがとう」
「さっきの男と話してから、主さんの顔色が悪いよ」
「ごめんね、堀川……心配かけちゃって」
「何か、嫌なことを言われたんでしょう?」
堀川が私の背中をさすり、小夜も心配そうに私に寄り添ってくれた。
清光はずっと、不安そうな顔をしている。
「早く帰ろう」
震える手で転移装置を操作し、早々に本丸へ帰った。
帰り着くと、出陣から帰ってきたメンツと、本丸に待機していたメンツが揃って転移装置の前にいた。
「……どうしたの主」
本丸のみんなが、一気に顔を顰める。
「ごめん、疲れたからちょっと休むね。後で話すから……」
「主」
清光が私をエスコートするように手を引いて、審神者部屋まで連れて行ってくれる。
「布団敷く?」
「ううん、そこまでは大丈夫」
「お茶淹れてくるから、ゆっくりしてて」
「ありがとう」
座椅子にもたれて、一息つく。
審神者の中でも、結局霊力の序列があるんだ。
それによって、霊力が高い人は奇異の目で見られる。
……別に友達を作りたいとは思わないけど、せめて人間と普通に関われたらいいのに。
「お茶持ってきた。燭台切がちょうどお茶菓子用意してたみたい」
「わあ、美味しそう!清光の分ももらってきた?」
「……一緒にいていいの?」
人付き合いに疲れた私に気を遣って、お茶だけ用意して去ろうとしてたのかな。
「もちろんだよ」
「……そっか。じゃあもらってこよっと」
清光は何気ない顔をしながら出て行ったが、背後に少し桜が舞っていた。
出て行った清光は、さっきよりも早く戻ってきた。
「お待たせっ」
「ふふ、そんなに急がなくてもいいのに」
「べ、別に急いでないよ」
それから、気持ちが落ち着くまで清光とお茶を飲んだ。
「そういえば、結局あの男は主に何をしたわけ?」
「ああ、あの人……何をしたってほどのことでもないんだけど、やっぱりどこの人間も変わんないんだなーって」
「変わんない?」
「態度がね。なんか、霊力が高い審神者のリストがあるんだって」
さっきの人に見せてもらったサイトを、うろ覚えで調べてみる。
それは、意外と簡単にヒットした。
「これ」
「うわ、なにこれ」
「霊力が高い審神者の一覧だって。審神者は霊力を鍛える、鍛錬をすることも仕事の一環だから、こうやって士気を高めてるみたい」
真名こそ載せてないけど、こんなの神隠し対象者リストみたいなもんだし。
これ、私以外に載せられてる審神者もみんな知ってるんだろうか。
「政府に報告して除名してもらうつもり」
「それがいいよ。何があるかわかんないから」
「うん」
「それで、このサイト見せられて、そいつはなんて?」
「なんか、見ちゃいけないものも見えるのかーとか、怪異を目にしたことはあるのかーとか」
「あー……主それ答えたの?」
「うん。こんなの見たことあるとか、神隠しに遭いかけたとか、ぜーんぶ答えて、霊力高くてもいいことないですよって言ったの」
私の話を熱心に聞いているせいか、清光のお茶菓子は全然減っていなかった。
「そいつ、次会ったら許さない……」
「大丈夫だよ、もう会うことはないから。政府に報告したし。審神者としての戦力を削がれたくなければ、彼を私に近づけるなってね」
清光に限らず、うちの刀剣男士たちは優しいから、次あいつを見かけたら、真っ先に斬りかかるレベルだろう。
私も不要な殺生はしたくない。政府にとって、私に彼を近づけないのがベストのはずだ。
誰にでも適性があるわけじゃないから、審神者業は万年人手不足だというし、霊力に関わらず一人欠けるだけでも困る、ということだ。
「主は政府にもそいつにも気を遣ってるわけね」
「まあ、関係が拗れて良いことってないから」
コミュニティが築けないことがわかってしまったのは残念だけど、まあ別にうちだけでやっていけるしな。
演練も、もう行かなくていいだろう。小判そんなに求めてないし。
「でももし主が友達作りたいんだったら、そのリストにいた霊力高い人と話してみたらいいんじゃない?」
少し残念そうにしている私を見て、清光が提案してくれる。
「確かに……」
私はこれまで人間の友達を作ったことがない。
みんな近づいてきてくれても、すぐに噂が広まって、離れていってしまっていたから。
私の周りではよく怪奇現象が起こるし、一生懸命傍にいてくれようとした子は、ストレスで不登校になってしまったりした。
「人間の友達を作ってみたいのは確かだけど、でも、もういいかな。そんな無理して作るようなものでもないし、本当に必要になったらそのときに考えよう」
「そっか」
「さて、と。みんなにも心配かけちゃったよね。清光と話してて落ち着いたから、みんなにもちゃんと説明しなくちゃ」
それから私はご飯のついでに、みんなに今日会ったことを話して、それへの対応も全部話した。
「ということで、もう何も問題はないし、そいつと会うこともないけど、帰ってきたときに疲れてたのはそういうこと。心配かけてごめんね」
「あ、主〜!!」
「それは、辛かったね……」
「ぬしさま、もふもふしますか!?」
ご飯中だったけど、みんな私のところに寄ってきてくれて、ある刀は頭を撫で、ある刀は私に抱きつき、私はもみくちゃになっていた。
「はいはいストーップ。主困ってるじゃん」
清光が私の腕を後ろに引き、みんなから離してくれる。
「ごめん!」
「痛かったかい!?」
「あはは、大丈夫だよ。ありがとう清光」
彼らは神様だけど、人の姿をしていて、こんなにも私を想ってくれるなら、無理に人間の友達を作る必要はないのかもしれない。
彼らは私の霊力を狙っているわけでもないし。
「みんなも、ありがとう。私はもう大丈夫だから、ご飯食べよう!」
ね?と促すと、みんな食事に戻っていく。
数振りは心配そうにこちらの様子を伺っていたけど、さっきのように押し寄せてくることはなかった。
「あるじさま」
「ん、何?今剣ちゃん」
「もしまたいやなことがあったら、いっしょにいるとうけんだんしに、すぐいってくださいね」
「え?」
「あるじさまがいやなおもいをしているときに、なにもできないのはみんなつらいですから」
「……そっか。わかった、ありがとう」
今剣は満足そうに笑って、食事を再開した。
私はもっとみんなに頼ってもいいのかもしれない。