愛するために必要なこと
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「大包平。池田輝政が見出した、刀剣の美の結晶。もっとも美しい剣の一つ。ただ……」
なんだか後半歯切れの悪い、大包平。
天下五剣の中には入れなかったけれど、美しい刀。
「お前が俺の主か?」
「はい。さやと言います。仮名ですけど」
自信に満ち溢れた姿が、清光と対比される。
「よろしくお願いしますね、大包平さん」
握手を求めると、大包平はポカンと差し出された手を見て、状況を察して握り返してきた。
「ああ!」
ステータスの確認をしていると、こんのすけと清光がバタバタと鍛刀部屋に入ってきた。
顕現まで粘ってくれて助かったな。
「ごめん主!止めきれなかった〜」
「ありがとう、清光さん」
「さや様!困ります、こんな勝手なことをされては……!」
「私の本丸だもん、いいでしょ。こちら、先ほど顕現を終えました大包平さん。レベルは99でした」
「この本丸にはまだ俺とこやつだけか?」
「俺は加州清光。よろしくー」
「よろしく頼む!」
ガシッと大包平が先ほどと同じように清光の手を握る。
「えっ」
グイグイくる大包平に、清光はちょっと引き気味だ。かわいいな。
「む、これが現代の挨拶かと思ったのだが違ったか?」
「ふふ、合っていますよ。大包平さん飲み込みが早いですね」
「ふふん!」
大包平は自信たっぷりな顔をする。
それに対して清光はちょっとムッとした顔をしている。
「そこな狐は?」
「こちらはこんのすけさん。私を支えてくれる狐さんです」
「なるほど。よろしく頼むぞ」
「は、はい」
政府の命に逆らって召喚された大包平。
こんのすけは反応に困っているようだった。
「さて!時に大包平さん、畑仕事はお好きですか?」
「任せろ。地味な仕事は得意だ」
「頼もしいです!清光さん、行こう」
「……はーい」
こんのすけは政府に追加報告に行ったのだろうか、いつの間にか姿は見えなくなっていた。
「おお、わかってはいたけど、荒れ放題ね……」
畑としての土地は確保されているものの、雑草は生えているし、土も固まってしまっている。
「大包平さん、あそこの小屋から農具を持ってきてもらえますか?大包平さんが一番力があるので」
ステータス的に。
「了解した」
「清光さんは私と一緒にちょっとずつ雑草抜いていこうか。はい、軍手」
大包平が農具を取りに行っている間、2人きりになった。
「ねえ、何か言いたいことあるんじゃない?」
そんなに深刻そうな感じではなかったから、思い切って聞いてみる。
畑仕事をすることになってから、どことなく元気がない気がしたから。
「……俺、汚れる仕事嫌なんだよなー」
「あっはは、そうだったの?それなら雑草抜きじゃなくて、農具で耕す方にしようか」
ネイルも剥がれちゃうし、確かに畑仕事は嫌かもしれない。
「爪紅剥がれちゃったら後で私が責任持って塗り直すよ」
雑草を抜きながらそう言うと、清光は嬉しそうに声をあげる。
「本当!?……絶対だからね?」
「うん」
「持ってきたぞ!」
「わあ、大包平さんって本当に力持ちですね」
1人と二振りしかいないのに、小屋にあった農具をありったけ持ってきたようだった。
「えっと、まず耕す?それから雑草抜いたらいいのかな?」
「みたいだねー」
清光と一緒にマニュアルを覗き込みながら、方針を決めていく。
「じゃあ、大包平さんもそこのクワ持ってください!ひとまず途中まで耕しましょう。まだ私たちだけだから、そんなにたくさん植えなくてもいいでしょう」
「任せろ!」
私も、清光も、大包平も、汗を流しながら畑を耕していく。
機械漬けの日々だったから、こういう、汗を流して自分でやるのも意外と楽しいかもしれない。
汚れるのが嫌だと言っていた清光も、一生懸命耕している。
大包平はレベルが99なだけあって、誰よりも早く、強く、耕すことができている。
ただ、汗の量がどんどん増えている。
「あの、大包平さん」
「む、なんだ?」
「汗がすごいので……。もしかして、体の力が弱まってきている感覚がありませんか?」
「なぜわかった!?」
「少し休憩にしましょう」
清光にも声をかけて、一旦休憩を挟むことにした。
大包平には手ぬぐいを渡して日陰で休ませ、清光と台所で冷えたお茶を入れる。
「大包平さんのステータスは、っと」
ステータスを見ると、レベルが10まで下がっていた。
「うーん、畑仕事でも霊力が出ていくの?……ってことは、活動することで定着できなかった霊力が流れ出るのかも」
「俺のステータスは?」
「清光さんは、出陣で得た分の経験値は減ってないよ。だから多分、私によって急激に注ぎ込まれた霊力ではなくて、戦闘経験と共に鍛えられた霊力は定着してレベルが上がるってことなんだろうね」
政府の報告を待つよりも、やっぱりこうして自分でやってみた方がわかることが多い。
「つまり、出陣させる前に本丸内の仕事で霊力を発散させた方がいいってことか……」
だいたい方針は決まった。
顕現した刀剣男士はレベルが1に下がるまで本丸で活動に励む。
そうしてレベルが下がったら、難易度の低い戦場から順に出して、着実にレベルをあげていく。
「刀剣男士が増えてくれば、部隊編成をして、レベルの高い子とレベルの低い子で経験値いっぱいもらえるところに出陣させても良さそうだね……」
方針が決まったところで、ちょうど政府からも同様の報告が届いた。
「結局同じことじゃん〜!!」
ただ、政府から裏が取れたということで、安心はできる。
方針が決まれば、やることはひとつ。
「ひたすら鍛刀!!!」
私は政府からお詫びに配られた手伝い札を活用しながら、ひたすら鍛刀を続けた。
鍛刀してすぐ出陣ができないのなら、さっさと鍛刀してどんどん本丸内で仕事をしてもらったほうがいい。
レベルが1になった刀剣男士から順番に、清光、大包平と共に出陣させてレベルを上げさせつつ、新たな刀剣男士を迎え入れていった。
「乱ちゃ〜ん!」
「はーい!」
「新しい藤四郎の子、案内お願いできる?」
「うん!まっかせて!」
藤四郎の中でも一番初めに来てくれた乱藤四郎。
藤四郎たちの案内はだいたい乱か、2番目に来てくれた薬研に任せている。
「よし次!」
資材の残量を見つつ、多くしたり減らしたり調節して様々な刀種を鍛刀した。
どんどん鍛刀して仕事を割り振って下から順に出陣させて……。
そうして数日を過ごし、三十振りくらいの大所帯になった頃、資材が底をついてきた。
「出陣して怪我したときに手入れができなくなるのは困るから、この辺りで止めておくか……」
「ただいまー」
「おかえり清光!」
いつの間にか、初期刀の清光とは呼び捨てで呼ぶくらいの仲になっていた。
どんどん新たな刀剣男士を迎え入れていたときには清光と大包平がかなり支えてくれた。
近侍はずっと、清光から変えていない。
「あれ、今日はもう鍛刀してないの?」
「うん。資材が底をついてきたから、そろそろやめておこうかと思って」
「そっか。じゃあ……久しぶりにみんなとご飯食べたら?」
ここ数日、私はトイレとお風呂の時以外は鍛刀部屋の前にずっと居座っていて、なんなら廊下に布団を運んでくるぐらいだった。
ご飯も持ってきてもらってここで食べたし、もはや鍛刀部屋が審神者部屋なのかと新しく来た子に誤解されるくらい、私はここにずっといた。
「確かに……新しい子ともロクに関われてないし、これからは関わることを頑張ろうかな」
清光が手を引いて起こしてくれる。
私がどんどん鍛刀して仕事を割り振って出陣させて説明して……ということを繰り返しているうちに、いつの間にか清光はレベル60になっていた。
大包平も、今確か55くらいだ。
「なんか指先冷えてない?」
力がついたし、貫禄も出てきた。
でもなんだか、指先が冷たい。
「そう?こんなもんだよ」
にっこり笑った清光は、なんだか顔色が悪い。
……ちょっと待って。
私がロクに休みもせずにどんどん鍛刀して出陣させて仕事を割り振ってってしてたということは、清光も休みがないってことじゃん!
「……とりあえずご飯食べよう」
私、根詰めて一気にやりすぎたかもしれない。
「うん」
他のみんなの様子も確認しないと、と思い、一旦みんなが集まる大広間に行くことにした。
「あ!主さんだ!!」
短刀の子たちがわらわらと集まってくる。
小夜は、遠くでモジモジしているのが見えた。
「小夜ちゃん」
「!」
手を差し伸べると、小夜ちゃんも寄ってくる。
「今日は一緒にご飯食べるの?」
「うん。鍛刀は一旦終わり。これからはみんなでご飯食べよう」
ここも随分賑やかになった。
短刀、脇差、打刀、太刀、大太刀、薙刀。
剣と槍はまだ呼べていないけど、こんなに鍛刀してたんだな私……。
「主がいつ食べに来てもいいように、ちゃんと用意してあるよ」
「光忠さん!いつもありがとう」
炊事場は光忠に一任している。
手伝いを雇うのも、指示出しも、得意そうなので完全に任せてしまった。
……こんなに快く引き受けてくれるなんて思ってなかったけど。
「じゃあ、主も来たところで早速ご飯にしようか!」
私はご飯を食べながら、机に座っている子たちの様子を1人ずつ見ていった。
ステータスにはレベルと怪我の状態、経験値の上がり具合みたいな、大雑把なことしか表示されない。
さっきの清光のように、様子を見てわかることもあるかもしれない。
「相変わらず美味しいね〜!」
考えなくてもわかる。顕現してからずっと料理の練習をしてくれているのだろう。
私はお礼ひとつも言わず、ずっと鍛刀部屋に籠もって……。
あー、なんかダメだな。
せっかくみんなとご飯を食べているのに、どんどんネガティブな思考になってくる。
「ふぅー……」
温かいお茶を飲んで、一息。
今はそんなことを考えるのはやめよう。
空気が悪くなっちゃう。
「主よ、随分疲れているようだな」
鶯丸がお茶を注ぎ足してくれる。
「ありがとう。せっかくだからみんなともっと話したいんだけど、数日の疲れが来ちゃったみたい」
大丈夫、と誤魔化したところで信じてもらえないだろうし、気持ちが沈んでいるのも、疲れということにしてしまった方が都合がいい。
「もう休め。顔色が悪いぞ」
「大包平さん……なんか、久しぶりに話した気がする」
元気そうだ。
「お前はずっと鍛刀部屋に籠もっていたからな」
「そうだね。これからは限度を考えるようにする」
ふん、と大包平は笑う。
わかればいい、とでも言いたげだ。
「それじゃあ、ご飯も食べ終わったことだし、今日はもう部屋に戻るね」
「そうしろ」
「明日は、ステータス確認も兼ねてみんなに改めて挨拶回りするからね」
おやすみなさい、と言いかけて止める。
「清光、ちょっと」
「……は〜い」
「みんな、おやすみなさい」
みんなと挨拶を交わし、清光を連れて出る。
「で、俺に何か用?」
「手を出して」
「手?」
「うん」
清光は怪訝な顔をしながらも、手を差し出す。
私はその片手を取って、手を繋いだ状態で審神者部屋まで戻った。
「ちょ、ちょっと」
清光は手を握られたことに戸惑いを感じているようだった。
「さて」
部屋に着いて、私は戸を閉めた。
「ねえ、ほんとに何?」
「清光、服を脱いで」
「……は?」
「早く」
「な、なんで」
霊力の乱れはない、指先の異常な冷え、悪い顔色。
ステータスに表示された『中傷』の文字。
「怪我、隠してるでしょ?」
もっと早くに気づくべきだった。
中傷以上は服が破れるくらいの大きな傷になるから、絶対気づけると思った。
服は、どうやって隠したんだろう?
「怪我の状態を見たいから、早く脱いで」
清光は少し恥じらっていたけど、恐る恐る服を脱いだ。
「傷を隠してた理由は?私が忙しそうだったから?」
傷の状態を確認しながら尋ねる。
放置してたからか、ちょっと化膿してきてる。
これも手入れで綺麗に治るのか……?
「……」
「清光?」
「……こんなんじゃ、愛してもらえないと思って」
「なるほど、あい…………愛?」
そういえば、清光の口癖って、可愛くしてるから大事にしてとか、見た目を気にしてることが多い。
清光の説明文は読んだけど、それがこんな形で表れるなんて……。
「手入れしながら話すね。そこに横になって」
人間の体の方には適当に包帯を巻き、布団に寝かせる。
刀の方は、審神者部屋に置いてある手入れ道具を引っ張り出してきて、マニュアル通りに手入れを。
「私も人に愛されたことがないからわからないんだ」
「え?」
「神様はみんな優しくしてくれたけど結局それは私の霊力のおかげだし、人はみんな私を気味悪がるし」
家族だって……と言ったところで、ほとんど愚痴になっていることに気づいた。
「まあ、そういうことで、私も愛するってどういうことなのか、愛されるってどういうことなのか、わからないの」
「……」
「だから、清光が言う『愛される』ってよくわからないけど、私が清光に折れてほしくないのは確かだよ」
「主……」
「清光は綺麗に整えてる見た目が可愛いだけじゃなくて、鍛刀部屋に引きこもってる私をよく支えてくれるところとか、文句言いながらも仕事はちゃんとするところとか、飄々としてるようでいて私のことをちゃんと気にかけてくれるところとか、」
「ちょ、ちょっと待って」
「うん?」
「……恥ずかしい」
清光は耳が少し赤くなっている。
「なぁに?清光の言う『愛されたい』ってこういうことじゃないの?」
褒められて、大切にされて、可愛がられること。
私はよくわからないけど、小説で読んだ「愛すること」ってこういうことだと思ってたんだけど。
「私は清光の見た目だけを気に入ってるんじゃなくて、加州清光という個体の個性も気に入ってるんだよ」
「俺の個性?」
「さっき言ったみたいなことね。だからもう怪我を隠したりしないで」
よし、手入れ完了!
「人の身であることで、刀のときより傷を隠しやすくなったかもしれないけど、愛されたいと思うのなら、怪我や傷は必ず報告すること!ステータス見ればすぐにバレるし、そうでなくてもちゃんと言ってね」
「うん……。ありがと、主」
「わかればよし!まあ、私も今回は根詰めすぎちゃったし、反省してます」
「あは、そうだね。主も頑張りすぎちゃダメだよ」
「うん」
これからはもっとみんなのことを気にかけよう。
ステータスもちゃんと確認しなきゃ。
そう思い、私は早々に就寝した。
翌日、私は予告通りにひとつひとつ部屋を回った。
「こんのすけさん」
「はい!」
「みんなに布令を出したいんだけど、何か効率のいい方法はある?」
「それでしたら、本丸のモニター機能をご活用いただけます!」
「モニター機能?」
「さや様が入力された文字情報が、本丸の各所に設置されているモニターに一斉表示されます」
私はこんのすけに教えてもらいながら、モニターに今日の回覧予定を書き込んだ。
みんな気づいてくれるといいけど……。
「よし」
近侍は連れず、私はタブレットを持って回覧を始めた。
「おはようございます」
「主さま!」「主君!」「大将!」
初めは藤四郎部屋。
ステータスに異常はないか、不便はないか、私に聞きたいことや頼みたいことはないか。
一振りずつ、音声遮断の札を貼っている別部屋で丁寧に面談する。
面談項目をメモしていき、藤四郎派のほとんどと面談を終えたとき、ふと思い出した。
「刀派や元の主など関係性を元に部屋割りをしているけれど、みんな異存はない?大丈夫?」
「はい!大丈夫です!」
「お気遣いいただき、ありがとうございます。主」
「一期さん、いつもありがとうございます」
一期一振、藤四郎たちの兄。
彼は1人になりたいときとか、ないんだろうか。
兄としてばかり過ごしていては、息苦しくなったりするかも……。
「……」
「主?」
でも、出会ったばかりの私が口を出すのは、良い気はしないよね。
「ううん、なんでも。じゃあ私は次の部屋に行くから」
それから私はそれぞれの部屋を概ね時間通りに回った。
そして最後の三条。
「こんにちは」
「ぬしさま、お待ちしておりました」
「おお、主よ。まずは茶でも飲むか?」
三条派の部屋には三日月宗近、小狐丸、今剣、岩融、石切丸。
うん、揃ってるね。
「最後ですからゆっくりでもいいのは確かですけど……」
最初にお茶しちゃったら面談忘れちゃう気がする……。
「先に面談をしましょう。そのあといただいてもいいですか?」
「もちろんです、あるじさま!」
同じ手順で一振りずつ面談をする。
最後に、三日月。
「以上で面談は終わりです。何か聞き忘れたこととか、言い忘れたこととかありますか?」
「ふむ、そういえば主」
「何でしょう?」
「ずっと気になっていたのだが、その腕輪は如何なるものか」
「腕輪……ああ、これですか?これは私から漏れ出る霊力を吸収しているものです」
「ほう、霊力を吸収とな」
「これがないと、色々なものが寄ってきてしまうので」
腕輪をさする。
ここへ来てからこの腕輪を外したことはない。
だってここは、神様まみれだから。
「そうか」
「疑問は解消できましたか?」
「ああ。ジジイの話に付き合わせて悪いな」
「そう言わないでください。話を伺うのに、年齢は関係ありませんから」
私はタブレットの使用履歴を削除してから電源を落とし、三条部屋で約束通りお茶をいただくことにした。