愛するために必要なこと
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目を覚ますと、清光さんはもう起きて布団を畳んだ後だった。
私が目を開けたのを確認すると、あからさまにほっとした顔をして、おはよう、と言った。
「起きていたなら、起こしてくれてもよかったのに」
「気持ち良さそうに寝てたから、邪魔しない方がいいでしょ」
「そういう割にホッとした顔してるけど、」
前の主と重ねて見てた?
そう聞こうとして引っ込めた。
これは地雷だろうな……。触れないでおこう。
「?」
「なんでもなーい。さて……」
毎朝必ずチェックするように言われたタブレットを見ると、政府から連絡が来ていた。
「『初陣について』?」
内容を見ると、出陣に関する詳細情報が載っていた。
でも待って。私まだ初期刀しかいないのに?まさか単騎で出せって?
「こんのすけさん!」
「は、はい!」
こんのすけが私の声に焦ってポンっと空から降ってきた。
そのもふもふの体を鷲掴みする。
「ねえ。こんなメッセージが届いてるんだけど」
「あ、はい!そちら、本丸2日目を迎えられた審神者様に届くメッセージですね!出陣についてご説明しますね」
それからこんのすけは淡々と転移装置の使い方や出陣の仕方について解説してくれた。
「……ずっと気になってたんだけど、今回は単騎で行かせるの?」
「そうなります。初めはどこの本丸もそうですよ」
どこの本丸もって……誰も何も言わないの?
顕現したばかりでしかもレベルが……。
「えっ」
「どうかされましたか、さや様?」
「これバグじゃないの?」
ステータスを開くと、清光のレベルが99になっていた。
こんのすけも画面を見て驚いている。前例がないんだろう。
「加州殿、少々お手を拝借いたします」
「どーぞ」
こんのすけが清光の手に肉球を押し当てる。
「えっ、何してるの?」
「ステータスの再測定を……」
ピロン、という音と共にページが更新されるも、レベルは変わらず99。
「おかしいですね……。こんなレベルにはならないはずなんですが……」
ひとまずこんのすけから政府に報告しておくということで、出陣することになった。
「よし、出陣だー!」
転移装置の前で清光をお見送りする。
「……気をつけてね」
何か異変があったら戻ってきて、無理はしないで、ステータスに異変も出てるし心配……言いたいことはたくさんあるけど、口うるさくなる前に言葉を飲み込んだ。
「はーい。大丈夫だよ主。よくわかんないけど、今の俺、すっげー強いんだろ?」
「……うん」
人型であっても相手は神様だ。
きっと大丈夫だとは思うけど、なんだか嫌な予感がする。
「いってらっしゃい」
「いってきまーす」
清光は不安な様子も見せずに転移されていく。
「清光が出陣している間、私はどうしたらいいの?」
「戦況のモニタリングが可能です!」
私は再び審神者部屋に戻り、モニターの電源を入れる。
そこには、出陣先で敵と対峙する清光が映っていた。
「清光さんに私の声は聞こえるの?」
「そちらのボタンを押されますと、通信機から声が届きますよ!」
初めての戦闘。
主が沖田総司であるとはいえ、まだ眠ることもできない、人間としては赤子も同然だ。
はじめてのおつかいを見守る親の気持ちだな……。
「……?」
なんだか、動きがどんどん鈍くなっている気がする。
『いてっ!』
相手から攻撃されても、レベルが99だからか軽傷で済んでいるようだ。
とはいえ、やはり単騎では倒しきれないようで、結果は敗北。
戦闘を終えた清光のステータスがモニターに表示される。
「これは……!」
こんのすけも横から見て、また慌てて政府に連絡をとっている。
清光のレベルが、2になっていたのだ。
敗北した清光が、悔しい顔をしながらも転移装置に手をかける。
「こんのすけさん、政府から連絡は?」
転移装置に向かいながら、報告の進捗を確認する。
こんのすけも政府も困惑しているらしく、今総力を上げて前例を確認しているところらしい。
「ふぃー、戻ったよ」
「おかえり、清光さん。すぐに手当てしよう」
私は有無も言わせず、清光の手を引いて手入れ部屋へ急ぐ。
引き出しからマニュアルを引っ張り出し、説明通りに手入れをしていく。
「主?なんか元気なくない?……俺が負けて戻ったから?」
「清光さんが負けたのは気にしないで。初めてだし、単騎だったんだもん。あの敵数はおかしいよ」
私が聞いていた話では、敵は2体のはずだった。
それなのに、転移した先の敵数は6体。フルじゃん。信じられない。
後でこんのすけを問いたださないと。
「はい、手入れ終わり!何か体におかしなところはない?」
「うん、大丈夫。お手入れありがと」
レベルがあんなに急激に下がって、体に異変がないはずはない。
黙ってるつもりなら追及しないほうがいいんだろうけど、これは清光の体にも、私の今後にも、これから顕現する男士のためにも確認しておく必要がある。
「……そう」
冷静を装って、笑顔を作る。
「私、少しこんのすけさんとお話があるから、清光さんは本丸内を見て回ってて。ああ、畑がどれくらい作物植えられそうか確かめておいてもらえると助かるな」
私は農業マニュアルを取り出し、ものさしと一緒に清光さんに渡す。
「りょーかい」
私は手入れ部屋を早々に出て、急いで審神者部屋に戻る。
「こんのすけさん!」
「はい!政府と今ビデオ通話がつながっています」
端末を起動させると、私に講習をしてくれた役人が映った。
『先日はどうも。さや様の担当をさせていただく者です』
「それで、今回はどういうことだったんですか?」
冷静に。慎重に。感情的になってもどうしようもないのだから。
『まずこんのすけから受けた報告を確認いたします』
出陣前のステータスがレベル99であったこと、出陣先の敵が6体いたこと、出陣を終えるとレベルが2に下がっていたこと。
相違ない、と伝えると、役人は険しい顔をする。
『貴本丸の加州清光の霊力動向を調査しましたところ、戦闘中に攻撃と共に霊力が流れ出ていることが確認されました。審神者様が顕現なさった際に審神者様の霊力が大量に流れ込み、ステータスの大幅な底上げにつながりました。しかし、その霊力が加州清光の器に定着せず、戦闘での攻撃と共に発散されたものと考えられます』
「考えられます?ということは前例はないのですか?」
『はい。これまでにも霊力の高い審神者様はおられましたが、今回のようなことは起きておりません』
「出陣先についてはどういうことですか?」
『はい。レベルが99であったことで、本来の初陣先ではなくステータスに合わせた出陣先に変更された、というものです。現在転移装置では、ステータスに合わせて、経験値を一定数得られる出陣先へ自動で変更されるように設定されております。こちらはいつでも設定変更可能ですが、変更なさいますか?』
「そうしてください」
『かしこまりました。そのように手配いたします』
「では、今回のような件が起こった原因は何ですか?」
『はい。現在調査中です』
「どのような調査をしているのですか?」
『審神者様の霊力について分析し、刀剣男士に霊力が定着しない原因について調査中です。また、政府で保管している刀剣男士への試行を行うため、審神者様の霊力を送っていただきたいのですが、ご協力いただけますか?』
「それは危険な実験ではないのですか?」
『?はい。審神者様の命に関わるほどの霊力はいただきません』
「いえ、そこではありません。私の霊力を注がれる刀剣男士たちに害はないのかと聞いているのです」
『現在調査中ですので、害があるかどうかはわかりかねます』
「……はい?」
『彼らは付喪神ですので、審神者様の霊力を注がれてどうにかなる、という可能性は極めて低いと考えられますが……』
「神だから大丈夫だろうってことですか?」
私の問いに、役人は困惑している。
神だって大丈夫ではないときがあるのだ。
私がこれまで関わってきた神も、他の神に消されたり、信仰が途絶えて消えたり、いろんな事例があった。
そんな、消耗品みたいに扱うなんて。
「……まあいいです。実験を行った結果は、包み隠さず報告してください。私がこれから顕現する刀剣男士にも関わることですので」
『かしこまりました。霊力を吸引する装置をお送りしますので、審神者様の霊力を10秒ほど注いでご返送ください』
「早急な事態解決を望みます。原因がわかるまで出陣はいたしませんので」
役人は深く頭を垂れて通話を切った。
それと同時に、宅配が届いた音がする。
「霊力を注がれましたら、またお呼びくださいませ!私が責任を持って政府にお届けいたします」
「わかった」
私は宅配受けから装置を取り出し、説明書をざっと読む。
「このボタンを押せばいいのか」
『押』と書かれたボタンを手のひらで押す。
すると、手のひらからじんわりを、霊力が抜かれている感覚があった。
「これを10秒?」
おそらく吸引された霊力の量を表していると思われる%が表示されているが、10秒入れても20%だ。
え、10分の間違いとか?でも10分は長すぎるしな……?
「よくわかんないけどもうちょっと入れとくかな」
そのまま縁側でぼんやりしながらボタンを押し続ける。
「ん……なんか眠くなってきちゃったな」
表示を見ると60%になっている。
まあせっかくだし100%あった方が実験に失敗したときも安心だろう。
もうちょっとだな。
「んー……」
瞼がどんどん重くなってくる。
「主!?」
清光の焦った声が聞こえる。
それと同時に腕を掴まれ、装置から強制的に剥がされた。
「あれ、清光さん……?」
装置の表示は80%になっていた。
あともう10秒で100%だったのにな。でももう、体がだるく重たい。
「ちょっと主!しっかりして!!」
清光がこんのすけを呼ぶ声が聞こえる。
慌てて出てきたこんのすけも、パタパタと慌ただしい足音を立てる。
「さや様!?」
清光に支えられていると、だんだん眠気が和らぎ、体の感覚も戻ってきた。
背もたれにしてしまう形になって、申し訳ない……。
「あ〜、ごめんね。なんだかその装置使ってたら眠くなってきちゃって……」
はは、と笑いながら離れようとすると、清光に後ろからホールドされる。
「この装置、主の霊力を吸い取ってたけど、どういうこと?」
「ああ、これは政府への協力なんだよ。私の霊力が必要だっていうから」
「協力?これが?主、俺が来なかったら霊力全部吸い取られるところだったんだよ!?」
え。
私はこんのすけの方を見た。
こんのすけも装置を見て困惑している。
「さや様、こちらの装置に10秒以上触れていましたか?」
「え?うん。だって10秒だったら20%にしかならなかったから、足りないかと思って」
「……落ち着いてお聞きください。この装置は怪異向けのもので、100%というのは吸引対象の霊力を全て吸い取ったことを意味します」
「……は?」
「おそらく、異常なほどの霊力を持たれるさや様の霊力を確実に採取するため、生半可な装置ではいけないと思い、こちらの装置を送ってきたのでしょう。10秒で、と言われたのはそういうことです!」
怪異扱いされたのは遺憾だけど、ちゃんと説明を読まなかった私も悪いな……。
結果、私は清光にもこんのすけにもたっぷり叱られた。
清光と接触したことで、清光に流れていた私の霊力によって、私の体内で霊力が復活したらしい。
神力もちょっと注がれていたから、霊力の回復と共に少しずつ浄化していかないといけない。
「ねえ、本当に体調悪いところとかないの?あんまり動き回らない方がいいんじゃない?」
たっぷり私を叱った後、こんのすけは装置を政府に持って行った。
清光はこの通り、私が心配で傍を離れられずにいる。
「大丈夫だよ。清光こそ、私に隠してることあるんじゃないの?あんなに急激にステータスが変化して、異変が起きないはずないもん」
いい機会だと思い、私は清光にも状態を尋ねる。
相変わらず視線を逸らし、俺のことはいいんだよ、と言うが、そうもいかない。
「今後顕現する刀剣男士にも関わることなの。清光しか頼れないんだよ」
私の言葉に清光が反応する。
それからおずおずと自分の状態を報告し始めた。
出陣前は力がみなぎっていたのに戦うにつれて体が上手く動かなくなったこと、今も少し体が重たいこと、それから、自分の攻撃に重みがなくなった感覚があったこと。
「ありがとう、報告してくれて」
私は報告内容をタブレットに打ち込み、政府に送りつけた。
いつまでに原因が解明できるか……。
「さて、政府からの情報を待とうか」
しかし、それから数日待っても政府からの連絡はなく、出陣もできずただ漫然と過ごす日々が続いた。
できることはないし、ただ毎日ご飯を食べて、眠って、起きて、ご飯を食べて……。
そろそろデリバリーの費用が嵩んできた。
「ねえ清光さん」
「ん?」
ある日、縁側に座りながらお茶を飲んでいて、いい加減何かしたくなってきた。
というか、ご飯をどうにかしないといけない。
政府からの給料は出陣回数や戦績に応じたものだ。
出陣できない今、私の給料は新人審神者の低いまま。
デリバリーを頼むのも、ちょっと躊躇いたくなるくらいになってきた。
「試しに一振り鍛刀してみない?」
「えっ……」
政府からは原因がはっきりとわかるまでは何もするなと言われている。
でもこんなにも暇なのは納得いかないし、こっちは死活問題だ。
出陣さえしなければ、レベル99の刀剣男士を鍛刀してもいいんじゃないか?
そう思わずにはいられなかった。
「私たちだけだと畑仕事もロクにできないし、もう一振り、しかもステータス最高値の刀剣男士がいたら、出陣できない間も色々と作業ができそうな気がしない?」
「……確かにそうだね」
清光は何か言いたそうだったが、その言葉を飲み込んで、笑顔で頷いてくれた。
「よし、じゃあ清光さんはこんのすけのこと見張ってて」
管狐だから見張りはあんまり意味がないかもしれないけど。
「おっけー」
私はそそくさと鍛刀部屋に入り、資源多めで鍛刀を開始した。
政府から支給されていた手伝い札を使い、素早く顕現する。
「よし!」
花びらと共に現れたのは……。