夜道の先
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今日は、藤堂くんにこっそり来ることを教えた日。
千鶴さんと原田さんが近くで待機してくれている。
彼女も父親のことを探りたいだろうに、ありがたい。
「……」
来るかもわからない藤堂くんを、私は待ち続けた。
「2人とも、私なら大丈夫ですから、お茶でも飲んできてください。……逃げたりもしません。絶対に新撰組に戻りますから」
山南さんのこともあるし、私がこのまま藤堂くんについていくことなんてできない。
というか、私は藤堂くんについていきたいわけではない。
ただ、何の話もできずに分かれてしまったのが心残りなだけ。
「……」
土方さんからの布令は、私に人をつけた上での外出。
多分、私の吸血衝動を加味しての判断だろう。
だがここ数日落ち着いているし、今は山南さんが開発した薬も飲んでいる。
日が暮れる前に戻れば、どうということはない。
「わかった。だが、日が暮れる前には必ず屯所に戻れ。俺たちも帰る前にここに寄るから」
「……ありがとう」
千鶴さんは最後まで心配そうな顔をしていたけど、原田さんと一緒に立ち去っていった。
「……」
懐の薬を確認しながら、待ち続ける。
「……あと少しだけ」
もう少しで日が暮れる。
そろそろ帰らないといけないけど……。
「奏」
「!」
思わずバッと立ち上がる。
そこにいたのは、薫だった。
「薫……」
「なんだ、お前記憶戻ってんの?」
「は?なんであんたが記憶のこと知ってるわけ?」
「そりゃあ、お前を処理したのは僕だからね!」
「……っは」
「記憶が戻ってるなら、お前のことは連れ帰らないとなッ」
「っ!」
薫は刀を抜き、いきなり斬りかかってくる。
「いきなり何なの!?」
「何って、記憶戻ってんならわかんだろ!」
「っく、」
刀なんか持ってない!
代わりになりそうなものもないし、何より記憶も戻ってないし!
「勘違いしてる、みたいだけどっ、」
「勘違い?何のことかなっ!」
「私記憶なんて、」
「おい何やってんだ!!!」
キィィンと音が響く。
「藤堂くん!?」
「邪魔するなよッ!」
「くっ、」
藤堂くんが私と薫の間に入ってくれる。
来てくれたんだ……、と感傷に浸る時間もない。
「はあ?!お前男作ったのかよ!?」
「うるさいな!!藤堂くんはそんなんじゃないし、そもそもあんたに関係ないでしょ!?」
私は藤堂くんの後ろに隠れながら薫と言い合う。
藤堂くんは刀を構えたまま、状況を掴めずにいる。
「それに私記憶戻ってないから」
「……あ?」
「あんたのことも大して覚えてないよ」
「はあ?今さらそんな言い訳、」
「連れ帰るって言われたって、どこに行くのかわかんないし」
「……………………はあ」
薫は刀を納めた。
「それならそうと早く言えよ愚図」
「あんたが話も聞かずに斬りかかってきたんでしょ馬鹿」
「……よくわかんねーけど、話はついたのか?」
藤堂くんも刀を納め、怪訝な顔をしている。
「その口ぶりは完全に記憶戻ったと思ったんだけどなあ〜……まあいいか。お前が新撰組にたどり着いたのは確認できたし」
じゃ、と言って薫は足早に立ち去っていった。
「はあ……ごめんね藤堂くん、巻き込んじゃって」
「いや……。奏、あいつと知り合いなのか?あいつ、左之さんたちを邪魔した奴だ」
「それが、記憶がまだ断片的で詳しいことはわからないの。ただ、あいつのことは知ってる。私に変若水を飲ませたのも薫だから」
それだけ思い出したの、と言うと、藤堂くんの表情が曇る。
「そんなことがあったのか……」
「それより!」
私は暗い空気を断ち切るように、明るい声を出した。
私が藤堂くんに話したかったのはこんなことじゃない。
「来てくれてありがとう」
「!……俺は、別に……」
「大丈夫だよ。表向きには私が新撰組に囲われてることは知られてないから。藤堂くんは、ただ、友達の町娘と会っただけ」
ね?と言って微笑むと、藤堂くんは苦笑いをする。
でも実際、この場面を新撰組隊士に見られても、御陵衛士に見られても、何の問題もないのだ。
「原田さんとあんな小細工してまで藤堂くんと会おうとしたのはね、話したいことがあったからなんだ」
「話したいこと?何だ?」
「うん。藤堂くん、私に何も言わずにいきなりいなくなっちゃったでしょう?だから、言わなきゃいけないこと、ちゃんと言えてないなって思って」
藤堂くんは真剣な表情で耳を傾けてくれている。
「私を助けてくれてありがとう」
「え?」
「以前、山南さんに聞いたの。私が捕まえられたばかりのあの日、藤堂くんが、私の話を聞こうってみんなに話してくれたんだって」
「あー……ったく、山南さん黙っててって言ったのに」
「それに、私が怪我したときも永倉さんと一緒に手当てを手伝ってくれたし血も飲ませてくれて、治療中も様子を見に来てくれたよね」
「ちょっと痕残っちまったけど、無事に治ったみたいでよかったぜ」
「うん。藤堂くんのおかげだよ。本当に、いつもありがとう。助けてもらってばかりなのに、お礼もちゃんと言えてなかったから、どうしても伝えたくて」
「そんなの……気にしなくていいって」
「そうだね、藤堂くんならそう言うと思った。それでも私、ちゃんとお礼を言いたかったの。この気持ちは受け取ってくれる?」
藤堂くんはちょっと照れ臭そうに笑って、頷いてくれた。
私が藤堂くんにできるのはここまで。
彼が御陵衛士として死んだり、何らかの事件に巻き込まれたり、彼自身が新撰組に戻ることを拒否しない限り、おそらくまた新撰組として会える。
斎藤さんが間者として御陵衛士に忍びこんでるってことは、斎藤さんもいつか戻ってくるわけだし、御陵衛士側に何か裏があるということ。
それが突き止められれば御陵衛士は解散になるだろうし、それと同時に斎藤さんは藤堂くんを連れて新撰組に戻ろうとするはず。
「……それじゃあ、私はそろそろ戻らなくちゃ。土方さんたちに言いつけられてるからね、日が暮れる前に戻れって」
「そっか。……元気でな。山南さんの研究に付き合うのもいいけど、ほどほどにしとけよ。あんなにボロボロになる前に山南さんにちゃんと言うんだぞ」
「あはは、ありがとう。善処するよ」
私は、またね、と言った。
藤堂くんは、元気で、と返した。
また彼と、会えますように。