夜道の先
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藤堂さんがここを出て行って、私が完治した頃、屯所が移転。
斎藤さんは時々戻ってきているみたいだけど、藤堂さんは一向に戻ってこない。
斎藤さんは、多分間者だ。
でも藤堂さんはどうなんだろう……。
「栗栖くん、薬は飲みましたか?」
「はい。異変もありません」
私は相変わらず山南さんの研究の手伝いをしている。
今は、吸血衝動を抑える薬の実験。
結局、あれ以来落ち着いていたのは体力を消費していなかったからだった。
昼間にも動き回るようになって、2日目には吸血衝動が復活していた。
ただ、前より落ち着いてはいたが。
「それはよかった。では、投薬は継続してください。何か変化があればすぐに報告をお願いしますね」
「はい」
「奏さーん!」
「千鶴さん!」
私の面倒を見てもらってから、千鶴さんとはすっかり親しくなった。
私が完治してからも、藤堂さんがいなくなったことを心配してか、私のところに話をしに来てくれる。
私の存在を隠さなければならない伊東さんもいなくなって、前よりも来やすくなったようだった。
「それでは私はこれで」
「はい。また、山南さん」
「楽しんでくださいね」
「?」
山南さんは相変わらず籠もって仕事ばかりしている。
大丈夫だろうか。
「何かあったの、千鶴さん?」
「はい!実は、奏さんの外出許可が降りたんです!」
「え、私の?」
「そうですよ!私と、他の方が同伴していれば外出してもいいそうです!」
「でも、私の存在は一般には秘匿しないといけないんじゃ……」
「それなんですけど、屯所の外で合流すれば私のお友達ということにできますし……」
「とはいえ、どうして急に私の外出の話になったの?」
「奏さんの記憶を戻すためには、外出したほうがいいだろうって、土方さんが」
「え、土方さんが?」
「はい!」
あの鬼の副長が、私の外出を提案した上に許可した?
信用してもらえたからなのか、何か別のねらいがあるのか。
千鶴さんが嘘をついているとは思えないし、本当に土方さんが許可を出したのだろうな。
「まあ、そういうことなら」
誰にもバレずに外へ出るくらいなら大丈夫。
人が少ない夜明け前のうちに外へ出ておけばいいんだし。
「千鶴さんはいつ出かけるの?」
「私は明日にでも!」
「わかった。明日早速出かけよう」
待ち合わせ場所を決めて、私はその日の夜のうちに屯所を抜け出した。
もちろん、土方さんの許可をとって。
待ち合わせ場所近くの裏道で夜を明かし、翌朝、千鶴さんと、そして同伴の永倉さん、原田さんと合流した。
「お前、本当にここで夜を明かしたのか?」
「はい。大したことないですよ、以前はもっと汚い小道に入ってたりしましたし」
「ここよりもっと!?お前……これからはもっと自分を大事にしろよ」
「まあ、雨風凌げればどこでも生きていけますから」
それからは、千鶴さんのお父さんの情報集めに付き添った。
私の記憶を戻そうにも、どこから来たのかも、どこを調べたらいいのかもわからないから、こうして付き添うしかない。
「あ、」
街中を歩いていたとき、千鶴さんが声をあげる。
その視線の先には、綺麗な女性がいた。どこか……見覚えがあるような。
「彼女は?」
「薫さん……です」
原田さんたちが顔を顰めて、以前三条大橋で妨害をされたことを話してくれた。
そうか、彼女が……。
「!」
薫さんはこちらに気づき、私と……目が合った。
「っ!?」
薫さんの表情がみるみる険しくなっていく。
私をキッと睨みつけ、足早に去っていった。
「え……」
「お前、あいつと関係があるのか?」
「いや、そう聞かれてもわかりません……。ただ、どこか見覚えがあるような気がするだけで……っぅ!?」
急に頭が割れそうに痛む。
これまで思い出せなかった記憶が、頭に、流れ込んでくる。
「おい!」
「奏さん!」
「しっかりしろ!」
3人の声が遠ざかっていく。
さっきの、薫さん……彼女は、いや、彼は……!!!
「……」
気がつくと、私は見知らぬ道にいた。
「ここは……」
「気が付いたか?」
「原田さん……」
「新八と千鶴は先に屯所に帰した。歩けるか?日が沈む前に戻ったほうがいいだろう」
「そうですね……。ご迷惑をおかけしました」
「何か思い出せたか?」
私は原田さんに起こしてもらいながら、痛む頭を少し押さえた。
「ええ。とても断片的なものですが。……私に変若水を飲ませたのは、さっきの薫さん……いえ、薫です」
「!」
「野盗に襲われて瀕死だった私に奴は、生きたいなら飲ませてやる、と変若水を口の中に突っ込まれたんです」
でも思い出したのはそこだけ。
薫に対する嫌な気持ちと、奴に変若水を飲まされたということ。
「じゃああいつは、変若水のことも羅刹のことも知ってるってことか」
「ただ、私が会った薫はあんな格好じゃありませんでした。男の格好で……確かに男だと思ったのに」
なんで女装なんかしてるんだ?
それとも私が会ったあいつが、男装をしていただけなのか?
「元は男……か、それなら合点がいくな」
原田さんも何か違和感を感じたのだろう。
なるほど、それなら何らかの理由で女装をしてるってことか。
「もう少し、彼について情報が必要です、ね……」
屯所に向かう道すがら、向こう側に、懐かしい姿があった。
「……平助」
原田さんも歩みを止めて、困惑した顔をしている。
向こうもこちらに気づいたようで、気まずそうに視線を逸らした。
「藤堂くん……」
「よせ、奏。御陵衛士と関わるのはご法度だ」
「……そうですね」
私は表向きには所属していないから、別に話してもいいだろうけど、原田さんが一緒だからそうもいかない。
でも彼の顔を見る限り、新撰組に未練があるように見える。
ずっと一緒にいた仲間だから、やっぱりそう簡単には割り切れないんだろうな。
……それなら、新撰組の近況とか、知りたくないんだろうか。
「……」
両者無言のまま、距離が縮まっていく。
「あの、原田さん」
「なんだ?」
「そういえば、先に帰った永倉さんと千鶴さんは、その後何ともなかったですか?」
「ああ。千鶴は倒れたお前の傍にいたがってたけどな、新八が無理矢理連れ帰ったよ。団子でも食べて帰っただろ」
「たお、っ」
藤堂くんが振り向きかけて、グッと拳を握る。
「大したことじゃないのに、心配かけちゃいましたね。私も元気になれましたし、また明日も街に来れたらいいのに」
「まあ、明日は無理だろうな。来るなら明後日だろ。……人が多くてはぐれちまうかもしれないけどな」
「!」
原田さん、藤堂くんが気になってることがわかるんだ。
私のことで心配かけるつもりじゃなかったんだけど……。
みんなが元気に過ごしてることがわかればと思って話題を振ったのに、申し訳なかったな……。
「あはは。はぐれないように気をつけなくちゃいけませんね。うっかりまたこんな小道に来ちゃうかもしれないですし」
「1人じゃあこの道は危ねえからな」
私たちはそのまますれ違い、お互いの拠点へと帰った。
藤堂くん、また会えるだろうか。
何の確証もないけれど、明後日、またあの小道へ行こうと思った。