夜道の先
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新撰組で暮らすことが決まって、私には檻が用意された。
そして、山南という男のところへ案内され、人を羅刹に変える『変若水』という薬の研究に協力することに。
「山南敬介です。あなたと同じ、羅刹ですよ」
「!……栗栖 奏です」
『羅刹』は彼らの敵ではなかったのか?
それに彼は白髪でもなければ、私が見た男たちのように気が狂っている様子もない。
「あなたが土方くんを襲った件については聞いています。あなた自身が覚えていないわけですから、まずはどういう状況で眠りにつくと無意識のうちに人を襲ってしまうのか、そこから調べてみましょうか」
山南敬介という男は、段階を追って私の様子を観察した。
私はというと、日中は出歩き、夜眠る時には檻に入る、ということを繰り返すように言われた。
「日中に出歩いていいのですか?」
「ええ。あなたが出歩いても平気なのであれば、出歩いてください。ただし、他の隊士の目に触れない程度に、ですが」
京に着いてからずっと人目を避けて暮らしてきたから、それはどうとでもなる。
ただ気がかりなのは、血をどのように入手したら良いかだ。
「あの、血は……」
「そうですねえ、まずは一切飲まずに生活してください。それであなたが吸血衝動で狂うときまで様子を見ましょう」
「……わかりました」
正直、1日飲まなかっただけでもかなり体がだるい。
でも私の状況を把握するためにも、血を飲まずにどこまでいけるかを試しておくことは大切だ。
私が自分のことを覚えていない以上、こうして実験してみるしかない。
「というか、この間暴れたときってたしか、1日飲まなかったときじゃなかった……?」
そうなったら今夜、私はまた……。
「……」
早めに檻の中に戻っておこう。
そう思って踵を返すと、ちょうど巡察から帰ってきたらしい藤堂さんと会った。
「あ、えっと、山南さんが昼間は隊士に見つからない程度になら出歩いてもいいって言ってくれて、」
「ああ、聞いてるよ。普通に歩けるようになったんだな」
「はい……」
騒動を起こしてしまったこともあって、やはり気まずい。
「あの、一番最初に私を声をかけてくれたの、藤堂さんですよね?」
「そうだぜ。……その堅苦しい話し方もやめてくれ。土方さん達が面倒を見るって決めた以上、これからここで暮らしていくんだろ?」
「でも、迷惑かけてますし……」
「いいんだよ。あんたのおかげで俺たちは『羅刹』に関する情報を集められる。利害の一致ってやつだろ」
「……わかりました」
「ん?」
「わ、わかった!」
「おう!」
彼の笑顔は、太陽のようだと思った。
こんな身元もわからない私を受け入れて、自分たちの長に襲いかかった奴にも優しく笑いかけて、気楽に接しろという。
この新撰組という組織自体が、太陽のような存在かもしれない。
「えっと、じゃあ私はもう行くから」
「ああ」
私は逃げるようにその場を去った。
何だか今の私に、彼は眩しすぎる気がして。
「おや、お戻りですか」
「はい」
山南さんが檻の戸を開けてくれる。
「誰かに会いませんでしたか?」
「藤堂さんに会いました」
「ああ、藤堂くんですか。巡察の帰りだったのでしょうね」
「そうみたいです」
「……彼とは話せましたか?」
「?」
「あなたをその場で処理するのではなく、正気を取り戻して目が覚めるまで待とうと言ったのは彼ですよ」
「えっ」
やはり聞かなかったんですね、と山南さんは笑う。
私の知らないところで、彼がそんなことをしてくれていたなんて。
彼は私にとって救いの光なのかもしれない。
「お礼を言えませんでした……」
「まあ、彼はそれを望んでいなかったでしょうしね。あなたが目覚めるまで待とうと言ったのは彼ですが、その後生き残る道を見つけたのはあなたですから」
「とはいえ、彼の一言がなければ私はとっくに死んでいたということですよね?」
「それはまあ、そうでしょうね」
「今度会えたら、お礼を言いたいと思います」
「そうですか」
そう言って山南さんは私におむすびを渡し、出て行った。
ご飯を食べて眠れば、おそらく私はまた暴れてしまうのだろう。
でも、正気を失う前に聞けてよかった。
もし正気に戻ったら、ちゃんとお礼を言おう。
その日の夜、私は正気を失った。