夜道の先
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれから2日、わかったことがいくつかある。
まず、この町に私を知る人はいないということ。
日に当たると倦怠感を覚えること。
髪は夜にだけ白く染まり、髪が白く染まると同時に渇きに襲われること。
そして、他人の血を飲むことでその渇きを潤すことができること。
どうして自分がこんな体質になってしまったのか、まるで記憶がない。
「……っ」
また、夜が来る。
人を傷つける術を持たない私は、怪我をしている人や、辻斬りにあって死んでいる人の血を少し分けてもらって、どうにか2日耐えた。
誰に頼ればいいのか、どう生きていけばいいのか、頭の整理は全くできなかった。
そもそも整理するほどの情報がない。
「喉が、渇く……」
また毛先まで白く染まっていく。
気怠い体を無理やり動かし、今日も血を求めて彷徨う。
その時、血の気配を察知した。
「匂いが濃い……隣の通りから……?」
引きずるように体を動かし、隣の通りにたどり着いた頃には、血の匂いの出処が明確になった。
そして、私と同じ、白髪の男たちがその周りに佇んでいた。
「……」
男たちは一心不乱に死に絶えた体を刺し続け、刀についた血を舐めとっている。
「え、ちょっと……」
私と同じ白髪で、私と同じ血で飲んでいる。
しかし決定的に違うのは、明らかに理性的ではないということ。
そして、私は少し血を舐めさせてもらえれば落ち着くけれど、この男たちは舐めても舐めても治まらないのか、まだ刀を刺し続けている。
「……」
声をかけた私の存在にも気付いていないようだ。
「もう死んでますよ?」
少し大きめの声で言うと、そこにいた男たちが私を振り返った。
「ぅ……」
男たちが気が狂っていることは間違いない。
「!」
次の瞬間、じっと黙って私を見つめていた男たちがすごい勢いで距離を詰めてきた。
慌てて後ろに大きく下がる。
「えっ」
男たちは無造作に、私に向かって刀を振り始める。
今日はまだ血を飲めていない。
泥沼を歩いているかのように足が重たい。
「っまずい!」
刀を躱そうと動かした足が、小さな石に躓く。
腕で頭を覆い、目をギュッと瞑る。
「!?」
もうダメだと思ったその時。
「間一髪っ!」
キンッという金属音と共に、元気な声が聞こえた。
私に届くはずだった刃は、私の前に立ち塞がった彼が受け止めていた。
「あなたは……?」
「俺は……ってあんた、それ……」
まずい。
今は月明かりに照らされていて、老婆であるという言い訳が通じない。
彼の前に白髪が晒されている。
「話は後だ!とりあえず、こいつらをどうにかしねーと……」
「平助!」
彼の仲間と思われる男が合流し、私に刀を向けた。
「え、ちょっ、」
向けられた鋒に恐怖を覚え、尻餅をついてしまう。
「!あんた……」
「後ろ!」
思わず叫ぶと、男は目をギラリと光らせ、後ろに迫った男を刺し殺した。
私が鋒に怯えているうちに、先ほどの彼も他の男たちを殺していた。
「あなたたちは、一体……?」
「そういうあんたこそ、何者だ?」
男は刀についた血を振り払い、また鋒を私に向けた。
初めに助けてくれた男も私に近づいてくる。
「あ、あの……」
気の狂った奴らが死んだという安堵と、彼らが殺したという事実への恐怖、そしてその刃が私に向いていることへの困惑。
複雑な感情が渦巻き混乱している私の前で、さらに困惑する出来事が起きた。
「えっ」
燃やしたわけでもないのに、殺された男たちが灰となったのだ。
「わからない……」
私の頭はもう限界だった。
「わからない、もう、何も、わからない……」
頭が痛い。
「う、うぅ……」
記憶を失くして一人になった時も、わけもわからず血を欲して彷徨った時も、涙なんて出なかったのに。
「なんで、こんなことに……」
「っおい、」
意識が遠ざかる。
今意識を手放せば、彼らに殺されるかもしれない。
それでも、もはや私に生きる意味はないように思えた。
どうして人の血を飲んでまで生きようとしていたのか、なぜ私は男たちから逃げようとしたのか。
もう何もわからなくなった。
喉の渇きを感じながら、私は意識を手放した。