夜道の先
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道中、なるべく日が昇る前に移動し続けた。
千鶴さんには昼夜逆転の生活を強いてしまうことになったけど、こればかりはどうしようもない。
昼間はどうしても2人の足取りが重くなるし、襲撃されたときに羅刹の力を使ってしまう。
「一旦ここで休もう」
もうすぐ日が昇る。
今晩には山南さんとの合流地点に着けるはずだ。
「3人は夜までちゃんと寝といて。私ちょっと周り見てくる」
「奏、俺も行く」
「平助くんもちゃんと寝とかないと、」
「それは奏もだろ。見回りなら2人で行った方がいい。総司と千鶴はここで休んでてくれ」
「はい!」
千鶴さんは古小屋でも眠れるし、適応能力が高いみたいだ。
寝床の整備や小屋の確認を任せて、私と平助くんで見回りに出る。
「野営の跡もないし、争った形跡もない……安全そうだね」
「そうだな」
「……平助くん」
「ん?」
「今回は、私の事情に巻き込んでしまって、」
「あー、待った、そこまで。俺がついて来たくて来たんだよ」
でも、平助くんが今回ついてこなきゃいけない理由はない。
山南さんは探究心がくすぐられた可能性はあるけど、平助くんはそういう様子でもないし、ここに来なければ、新撰組のみんなともっと長く過ごせたかもしれない。
「でも、どうして……」
私がどう伝えたらいいかわからず黙り込んでいると、平助くんが頭をガシガシとかいて、呟く。
「お前が心配だったんだ」
「え?」
「あの薫ってやつと対峙してたとき、奏の様子がいつもと違った」
平助くんが御陵衛士として私と会っていたときのことを言っているのだろう。
「なんていうか、あいつとお前を一対一で会わせちゃまずい気がしたんだ」
「どうして?」
「あー、なんつったらいいんだろうな……」
すごく言葉を選んで話そうとしてくれているのが伝わる。
どういうことだろう、私は平助くんの言葉を待った。
「あいつと対峙してるときの奏は、自分のことを顧みてない感じがしたんだ」
「……私はあんまりわからないけど、平助くんにはそういう風に見えたんだね」
でも確かに、羅刹にさせられてからより自分の体に対して無頓着になった気がする。
「大丈夫だよ。平助くんが心配してるようなことは起こさせないから」
私は絶対この一件を乗り越えて、残り少ない余生を平助くんと一緒に過ごすの。
「だといいんだけど」
また日が沈み、私たちは予定通りに待ち合わせ場所に到着した。
「!」
茂みからガサガサという音がして警戒すると、山南さんだった。
「おや、無事合流できましたね」
「ええ、すれ違いにならなくてよかったです」
綱道さんたちの拠点である城はもう目の前だ。
「正面から乗り込みましょう」
「正面から、ですか」
「はい。薫や羅刹の部隊が待機しているとは思いますが、千鶴さんに危害を加えることはしないでしょう」
「つまり、雪村くんを人質にするということですか?」
「まあそのように向こうには映るでしょう。ただ、穏便に済むならそうすべきです」
私含め、もう寿命が長くないのだから、あまり羅刹の力を使うのは得策ではない。
「……わかりました」
私たちは経路を確認して、同時に突入した。
案の定、門には羅刹の見張り。
そして、見張り台には薫がいた。
「あれ、奏じゃん」
「門を開けて薫」
「千鶴を連れてきたのはいいけど、なんでそいつらまでいるんだよ」
「彼らも全員羅刹なの」
「……ふーん」
薫は訝しげな表情をしていたが、門を開けてくれた。
「久しぶりだねえ、千鶴」
「薫さん……」
「絡むな」
ベシッと薫の額を叩く。
「ちょっと!」
「双子の妹に再会できて嬉しいのはわかるけど、先に綱道さんでしょ」
「ちっ……」
嬉しいのは、否定しないのね。
薫は綱道さんのところまで私たちを案内し、後ろの彼らを警戒しながらも戸を開けた。
「っ千鶴……!!」
「父様!」
千鶴さんは思わず綱道さんに駆け寄ったが、私が手を引いて止める。
今綱道さんに千鶴さんを拘束されるのは悪手だ。
そこで千鶴さんもハッとして落ち着きを取り戻す。
「……奏、どういうつもりだ。後ろの奴らも何の意図が?」
「彼らと過ごして、記憶を取り戻し、ここへきた。計画を進めるためじゃなくて、計画を止めるために」
「は!?奏、何言ってんの」
「薫、もし本当に羅刹の国ができるのならあんたは自由に生きられるんでしょうね。女鬼じゃないからとか、そんなことに縛られずに」
「……」
「本当にできるのならね」
「何が言いたい?」
「羅刹の部隊はできても、国は無理よ。私のように変若水に耐えられる人間がどれだけいると思うの?万が一耐えられたとしても、先は長くない」
私がここを離れている間、綱道さんも考えたことだろう。
羅刹の国ができたとして、その未来を。
「私は鬼じゃないから雪村家の復興がどれだけの意味を持つかはわからない。でも、羅刹の国を作ることが本当に復興に繋がるとは思えないわ」
「父様……」
千鶴さんを掲げて雪村家の復興をすることが綱道さんの目標。
だけどこれは、完全に独りよがりになっている。
「父様、もうこんなことやめてください……。私は、以前のように一緒に暮らしたいです」
「千鶴……。お前は、鬼であることを自覚せずに育ったからそう思うのだ」
「綱道さん」
山南さんが口を開く。
「あなたが一番わかっているのではありませんか?この羅刹に、未来がないということを」
「……」
山南さんは書物を差し出す。
そこには、山南さんが私を使って研究した記録が記されている。
この情報をまとめて記すために先に出発していたのか。
「もう終わりにしましょう」
それらの記録から、山南さんは羅刹の未来が見出せなかったのだろう。
そして、羅刹という存在をこれ以上生み出さないようにしようという結論に至ったのだ。
「……」
平助くんと沖田さんは警戒を緩めないまま、しばらく沈黙が続いた。
そうして、綱道さんが口を開く。
「……君たちの言う通りだ」
「!」
「羅刹に未来がないことはわかっていた。いくら研究を重ねようとも、日の光に耐えられても意志を持たず、指示通りに動く部隊にしかならない」
薫も薄々感じ取っていたのだろう。
複雑な心持ちのようだった。
「国を作るには民が必要だ。人形のような羅刹ではなく、繁栄のために考え動けるような民が……」
綱道さんも試行錯誤し、山南さんと同じ結論に至ったことがわかる。
頭を抱えて蹲ってしまった。
「……もう、終わらせるときが来たか」
綱道さんがゆっくりと顔をあげる。
「!」
気づいた時には、羅刹の部隊によって部屋が包囲されていた。
「だがこのまま終わらせるわけにはいかん。私たちはもう、引き返せないところまで来ているのだから」
「綱道さん!」
後ろの襖を開け、綱道さんは千鶴さんの腕を引いて城外へ飛び降りる。
「っくそ、沖田さんは千鶴さんを追って!」
私は薫の刀を受け止めながら、沖田さんを送り出した。
「任せて」
沖田さんが綱道さんたちの後を追う。
残された私、平助くん、山南さんの三人で、薫と羅刹を相手取る。
「ちょっと薫、あんたこっちの味方になりなさいよ!」
「はあ?なんで俺がお前らの味方なんかしなきゃいけないわけ?」
「だっからッ!」
刀を力任せに振り払う。
「あんたが理想としてる羅刹の国はもう無理なのよ!?それならこっちについて他の方法を模索するべきでしょ!」
「他の方法なんかあるわけないだろ!?……それに俺ももう変若水を飲んでる。鬼として生きるのはもう無理なんだよ!」
「それなら尚更じゃない!私だって人間として生きるのはもう無理よ。だから羅刹として、灰になるんじゃなくて、少しでも楽に生きる方法を一緒に探そうって言ってんの!」
「うるっさいッ!」
「っ!」
薫が振り下ろした刀が私の腕を掠る。
唯一だと信じていた道が途絶えた今、薫はもはや冷静ではなくなっていた。
これ以上交渉するのは無理か……。
「くそっ!」
お互いに刀を振り合い、腕や足にかすり傷が増えていく。
ついたところから回復していくが、その速度は徐々に遅くなっているのが目に見えてわかった。
薫ももう限界が近いんだ。
「ねえ薫、一緒に生きようよ。どうせあと短い余生じゃん」
「……俺には無理だよ。綱道が諦めた時点で俺が生きる道はもうない」
「……そう」
私は刀を構える。
「それなら、もうこれまでだね」
「お前も大変だったな」
お互いの全力を込めて、相手に斬りかかった。