夜道の先
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「と、いうのが夢の全貌です」
私は起きてすぐに土方さんのところに駆け込み、幹部全員を集めてもらった。
山南さんや藤堂くんも集めて、千鶴さん以外は全員集まった。
「なるほどな……。『羅刹の国』か」
「はい。研究を重ねていく上で、羅刹の限界に気づき始めているようではありましたが、私に最後の望みを託したようでした」
「この集まりに千鶴を呼ばないように言ったのは任務が原因か」
「そうです。図らずも、任務のうちのひとつである、千鶴さんの血を飲んで覚醒するということは達成しています。ただ……彼女とこうして関わった以上、連れていくわけにもいかないと思います。だって彼女、『羅刹の国』なんて知りませんよね?」
「そうだろうな……羅刹についても、この新撰組で保護することになった頃は全く知らない様子だった」
「千鶴さんはおそらく自分が鬼の中でも希少価値の高い『純血の女鬼』だということにも気付いていないはずです。これほどに人間社会に溶け込めているのですから、あえて危険なことに巻き込むのは迷惑も甚だしい。あの二人が独断で行おうとしていることであるのは明白です」
ただこの新撰組に送り込まれていれば、私は何の疑いもなく、とりあえず連れていこうくらいの気持ちで連れて行ってたかもしれない。
でも違う。
記憶を失った私を匿ってくれた皆さん、優しく接してくれた千鶴さん、土方さんを傷つけてしまった私を即死罪にしないように掛け合ってくれた藤堂くん。
この人たちのおかげで、今私は生きながらえている。
恩を仇で返すようなことはしたくない。
「千鶴さんのおかげで、今の私は人ならざる力が増幅しています。だから、」
「待てよ」
「藤堂くん?」
「お前まさか、一人で綱道さんたちのところに戻るって言うんじゃないよな?」
「そうだよ。当たり前じゃん、こんな危険なことに巻き込むわけには───」
「おや、私たちも羅刹だということを忘れていませんか?」
「山南さん……」
「俺たちもついてくよ。な、山南さん!」
「ええ。奏くんには私の実験にも付き合っていただきましたからね。私も綱道さんにお会いしたいですし」
「決まりだな」
藤堂くんも山南さんも、私を見て微笑む。
土方さんや原田さんたちは少し渋そうな顔をしたが、わかった、とだけ言った。
「無茶だけはするんじゃねえぞ。山南さんもだ」
「もちろんです」
残念だけど、二人の死期はおそらく近い。
だからたぶん、私と一緒に来たらもう土方さんたちと合流はできないだろう。
話し合いが終わった後、いつ出発するかを相談していた時だった。
「……私は少し、先に出発しますね」
山南さんが不意に口を開いた。
「所用を済ませたいので」
にっこりと笑う山南さんはそれ以上教えてくれない様子だった。
「わかりました。拠点内での合流は危険なので、近くの森で合流しましょう」
「そうですね」
山南さんはそういうと、前々から用意していたらしい荷物を持って、出て行った。
「それじゃあ、藤堂くん、」
「その呼び方なんだけどさ」
「え?」
「下の名前で呼んでくれ」
「平助、くん……?」
「おう!死んだはずの新撰組の藤堂平助だって気づかれると厄介だし、旅してる間は下の名前で呼ぼうぜ」
「うん……わかった」
藤堂組長とか呼ばなかったら大丈夫だと思うけど……藤堂くん、いや平助くんにも何か考えがあるのかもしれない。
少し照れるけど、円滑に拠点にたどり着くためだ。
「それじゃあ、平助くん」
「おう」
「私たちは明日の夜に出発しよう。……お世話になった千鶴さんにもご挨拶したいし」
「そうだな」
それから私は翌日に千鶴さんや沖田さん、永倉さんなど、お世話になった人に挨拶して回った。
「どこか、遠くへ行かれるのですか?」
千鶴さんに明日発つことを伝えると、当然、そう問われた。
本当のことを言うべきか悩んでいると、横にいた沖田さんが先に話し始めてしまった。
「綱道さんの居場所がわかったんだって」
「そうなのですか!?父様の……」
「……そうなの。私の任務は、あなたから血をもらって、最終的にはあなたを綱道さんたちの元へ連れていくこと」
「!」
「ここであなたを連れていくことは、私が任務を達成してしまうことになる。でも、綱道さんがやろうとしてることに、今の私は賛成できない」
千鶴さんは手をグッと握って、下を向いている。
「本当はあなたにこのことを話すつもりはなかったんだけど、」
沖田さんの方を見ると、いつもの笑みを浮かべていた。
千鶴さんに判断させろということだろう。
「こうなった以上、千鶴さんに任せるわ」
「えっ?」
千鶴さんは弾かれたように顔を上げる。
「私と平助くんは今日の夜、ここを発ちます。もし一緒に来るなら、日が暮れる前に私の部屋に来て」
「……わかりました」
「よく考えてね。今の綱道さんは、千鶴さんが知ってる昔の綱道さんとは別人だよ」
彼女に悩ませるつもりはなかった。
実の父親が羅刹の国を作ろうとしているだなんて、知らない方がいいに決まってる。
でも沖田さんがあえて話したということは、彼女にはその選択に耐えられる強さがあるということだ。
「お、戻ったか」
「うん。もしかしたら、後から千鶴さんも来るかもしれない」
「……そっか」
夜。
荷物を持って部屋を出ようとすると、ちょうど千鶴さんがきた。
「千鶴さん……」
「平助くん、奏さん、私は足手まといになってしまうかもしれないですが……」
千鶴さんの瞳には強い決意が宿っていた。
「私を、連れて行っていただけませんか」
「千鶴ちゃんがいくなら、僕もついていこうかな」
「沖田さん!?」
「僕も今は羅刹で表立って動けないから、ここにいてもすることないしね」
沖田さんは不完全な羅刹としての気怠さに加えて、病気も抱えている。
尚さら危うい旅になってしまうかもしれない。
「……わかりました。平助くん、沖田さん、2人はなるべく羅刹の力は使わずに行きましょう。無事に全員で、綱道さんのところに辿り着きましょうね」
「ああ」
「はいはい」
「千鶴さんも、危ないこともあるかもしれないけど、いい?」
「はい!」
私たち四人は、山南さんとの合流地点に向けて出発した。