夜道の先
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藤堂くんと別れて新撰組に戻ってから、薫との一連の出来事を近藤さんと土方さんに報告した。
薫は私が新撰組と合流できたかを確認しに来ていた。
ということは、私を新撰組に囲わせるところまで、あいつの計画だったということだ。
そして、記憶が戻ったら連れ帰る、という話。
薫側の拠点に連れて帰るということだろうが、なぜ記憶が戻ったら殺すのではなく連れ帰るのか。
私の記憶に全ての鍵がある。
「私を意図的に新撰組に送り込んだということは、私にはここで果たすべき任務があるはずです。記憶を戻せば、私がそれを必ず実行すると思っているようですが……」
「その任務が何なのかがわからねえなら、考えても仕方ねえな」
「記憶が戻るきっかけは一体何なんだね?」
「そうですね……薫を見たときに薫のことを思い出しましたから、私の元の記憶と関係のあるものを見ると、思い出すのかもしれません」
「っつってもなあ、何が記憶と関係あるのかわからねえし」
「だが、彼女を外出させたのは成功だったようだな。今後も外出を続けることで、また新たな手がかりが見つかるかもしれんぞ」
近藤さんのおかげで、私はそれからも頻繁に外出することが許されるようになった。
休暇中の組長と小姓が出かけているところに出くわした町娘、という演出が必要なため少々手間ではあるが、頻繁に出入りできるのは息が詰まらなくて良い。
しかし結局、あれ以来何の手がかりも見つからず、薫の姿も見えない。
「今日も収穫なしか……」
いつも通り塀を越えて部屋に戻ってくると、屯所内はやけに静かだった。
一緒に外へ出ていた永倉さんの姿も、千鶴さんの姿も見えない。
「おや、お戻りですか」
「山南さん。何だか静かですが、何かあったんですか?」
「ああ……伊東、という男を覚えていますか?」
「ああ、はい。藤堂くんや斎藤さんたちを引き連れてここを離れた人ですよね」
「そうです。その彼が、何でも新撰組襲撃を企んでいるそうで」
「……えっ」
変若水のことがバレた時点で何かしてくるだろうとは思っていたけど、まさかそんな形でだなんて。
「それを聞きつけた原田くんたちが阻止するために出て行ったんですよ。しばらくすれば戻ってくるでしょう」
ってことは、伊東さんは殺されるんだろう。
わざわざ身柄を拘束して聞き出すようなこともないし、もう一度新撰組に迎え入れるわけにもいかないし。
……藤堂くんの処分は、どうなるんだろう。
斎藤さんは元から御陵衛士などではないからそのまま戻ってくるにしても、藤堂くんは心から向こうへ着いて行ったんだ。
まあ最も、彼が戻ってきたがるかはわからないが。
「私たちは、彼らの無事を祈って待っていましょう」
その、彼らの中に藤堂くんは含まれるんだろうか。
それは聞けなかった。
「……」
ただ時間が過ぎていくのを待つ。
まだ帰ってこないんだろうか。
かなり時間が経った気がする。もうすぐ夜明けじゃないか?
「……んー……」
だんだんじっとしてられなくなってくる。
見かねた山南さんが何か話をしてくれたけど、正直ほとんど頭に入ってこなかった。
藤堂くんが心配だ。様子を見に行きたい……。
「栗栖くん、そわそわしすぎですよ」
「すみません……はは、」
音がした!
バッと立ち上がって外へ出る。
この部屋のところまでは隊士は来ない、でも幹部ならここから見えるはず。
「……っ」
今すぐ走り出して様子を見に行きたいけど、私のことは非公式にしているから、隊士に見つかるとまずい。
一緒にいる山南さんも……。
「落ち着いてください、栗栖くん」
「はい……」
原田さんたちが帰ってきた気配がしてからしばらく。
「!!」
思わず出しそうになった大声を、喉の奥へ押し戻す。
「悪いが、様子を見てやってくれるか」
原田さんと永倉さんが、藤堂さんを支えて連れてきた。
怪我が酷すぎる。
「そんな……」
「早くこちらへ!」
私が倒れたとき、藤堂くんは必死で看病してくれた。
「まず止血ですよね」
「ええ、すみませんが手ぬぐいを持ってきてください」
「おう!」
私と山南さんは部屋から出られない。
ここで治療に専念するしか。
「でもこれ、血が止まる気配がないんですけど……」
「……おそらく、このままでは藤堂くんは助からないでしょう」
傷口が深すぎる、血は止まらない、このままだと助からない……。
助かるには、あれしかない。
「……変若水を飲めば、ということですね」
「ぅ……」
「藤堂くん!気がついた?」
とても喋れる状態ではない。
「手ぬぐい持ってきたぞ!」
「一応、押さえてはみるけど、たぶんこれじゃあ止まらない……」
傷口がドクンドクンと脈打っている。
持ってきてもらった手ぬぐいもすぐ真っ赤に染まり、使い物にならない。
「山南さん……」
「致し方ありませんか……。藤堂くん、聞こえていますか?このままでは助かりません。変若水を飲むか、このままここで息を引き取るか、選んでください」
「……っ」
圧迫じゃ、これが限界。
早く決断しないと、もう……。
「藤堂くん……」
顔色がどんどん悪くなっていく。
「……そ、れっ……」
藤堂くんが変若水に手を伸ばす。
……飲むことを選ぶのか。
「わかりました。……原田くんと永倉くんは、外へ出ていてください」
「……くそっ」
二人が出て行った後、藤堂くんの口に少しずつ変若水を流し込んでいく。
瓶一本分飲み干した頃、藤堂くんの体が痙攣し始め、傷口がどんどん塞がると共に、髪が白く染まっていく。
「これ、暴走の可能性もあるんですよね?」
「ええ……栗栖くんの協力の下、改良を重ねましたが……」
しばらく様子を見守る。
暴走したら、私たちの血では意味がない。
見極めて、薬を口に突っ込むしか……。
「っ……ん?」
固唾を呑んで見守る。
藤堂くんが意識を取り戻し、ハッと目を開けた。
その目に狂気はない。
「藤堂くん!」
「どうやら、大丈夫だったようですね」
山南さんも冷や汗をかいたようだった。
二人でホッと息を吐く。
「俺……」
「藤堂くん、喉の乾きはある?頭がぼーっとする感覚は?」
「いや……大丈夫みたいだ」
手を握ったり開いたりして自分の状態を確認している藤堂くん。
「いつもより力が湧いてくる感じがする」
「そう……よかった」
安堵とともに、藤堂くんを抱きしめる。
「お、おいっ」
「どれだけ心配したと思って……」
緊張の糸が切れて、何だか泣きそうになってくる。
「……悪かった」
藤堂くんは宥めるように私の背を撫でてくれる。
「栗栖くんは、君が来るよりずっと前から、君のことが心配で落ち着きがなかったんですよ」
「さ、山南さん!」
「そうなのか?」
「ふふ」
山南さんは珍しく楽しそうに、穏やかに笑っている。
今までどこか寂しげだったけど、今日は落ち着いてる。
「も〜!」
その日から、藤堂くんは、新撰組の中で死んだことになった。