魔女は快眠を望む
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平士くんと作ったお菓子は、かなり好評だった。
みんな美味しく食べてくれて、平士くんも終始ニコニコしていて、色々と幸せで平和な時間になった。
その日の夜、私は夢を見た。
こんなに意識がはっきりしている夢は久しぶりだ……と思うと同時に、これはおそらく能力だなと考えが至る。
「それなら、術者は……」
私は一人、よくわからない地点に飛ばされていた。
「あれ、光希ちゃんこっちに飛ばされちゃったか」
黒猫が喋った。
「……その声は、一月くん?」
「え、よくわかったね。お嬢さんたちにはそれぞれ役を与えたんだけど、光希ちゃんはどんな役がいいか直接聞こうと思ってたんだよね」
「役?」
「そ。お嬢さんがシンデレラで、こはるちゃんは白雪姫、七海ちゃんは赤ずきん」
「うーん、私はいいや。強いていうなら、綺麗なドレスは着てみたいかな」
「お任せあれ〜」
黒猫が尻尾を振ると、いつの間にか私の服が豪華なドレスに変わっていた。
「運命の相手に出会えば、この夢は覚めるよ。頑張ってね〜」
そう言って、黒猫、もとい一月くんは姿を消した。
運命の相手、か。
平士くんがそうだったらいいな、とは思う。
一月くんから見て、私の運命の相手は平士くんなんだろうか。
「とりあえず探してみよう」
夢の中だからか、魔法は上手く機能しない。
自力で歩き回るしかなさそうだ。
「こうなるなら、ドレスよりもジャージにしてもらえばよかったかなあ」
整っている道ばかりではない。
草木をかき分けて進まないといけない道もあって、正直、どうしたものか……。
「……仕方ないか」
ドレスはもう十分堪能したし、もういいだろう。
私はドレスの裾を破いて結び、動きやすい丈に調節した。
少し足がスースーするけど、まあいいか。どうせ夢だし。
「っしょ、っと」
自分の直感に従って、思うままに道を進んでいく。
夢の中でこれだけ意識がはっきりして動き回るのも、なかなか新鮮な体験だ。
「ふぅ、夢の中だからって、体力が無限になるわけじゃないんだ……」
限りなく現実に近い夢、といったところか。
「あ、川だ」
夢の中だし……。
たくさん歩いて疲れ切った足を、川に浸ける。
ひんやりとした水が足を癒していく。
「はぁぁ〜〜〜……」
寝転んでも、土で汚れる感じはない。
便利だなあ、夢。
ガサガサ、と頭の向こう側から音がする。
誰か来たか。
「……光希?大丈夫か!?」
平士くんだ。
やっぱり……そういうことか。
「うん、大丈夫。夢の中とはいえ、散々歩き回って疲れちゃっただけだから」
よかった、と言いながら平士くんは隣に座る。
「平士くんは、こんなところにいていいの?」
「え?」
「運命の相手を探さないと、この夢からは出られないって一月くんが言ってたよ〜」
平士くんはきょとんとして私を見る。
それから笑って、こう言った。
「俺はいいんだよ。これは七海たちのために計画した夢なんだ」
「……そんな気はしてたよ」
「光希がみんなの相談を聞いてくれたんだろ?俺たちでもう一押しできないかなって考えたんだ!」
「いいアイデアだと思う。……私の運命の相手は見つけてくれないの?」
悪戯心が湧いてきて、からかうように聞いてみる。
「えっ!?」
平士くんは全く予想していなかったようで、素っ頓狂な声をあげる。
「うん?」
「お、お前、好きな奴いるのか……?」
「…………そうきたか」
平士くんは、驚きと不安が混じった声色で尋ねてくる。
これ、経験的に言ったら両想いだな、私たち。
「何て?」
「なんでもない。平士くんは、私の好きな人が誰か気づいてないの?」
「気づかなかった……」
「えー、精神感応力を持ってしても?」
「お前の感情、あんまり流れてこないんだ」
「ふふ、そっか」
夢の中なら、どうなんだろう。
今は手袋もしてないし、平士くんの力が及ぶんだろうか。
「ねえ、手出して」
平士くんは不思議そうにしながらも手を差し出してくれる。
私はそれをそっと握った。
「どう?わかった?」
「!光希……」
にっこりと微笑んで平士くんを見ると、みるみる顔が赤くなっていく。
前みたいに反射で手を離さないってことは、たぶん能力は発動してない。
でも顔が赤い。
つまり、私の視線や表情から察したってところだろう。
「わかった?私が、誰を好きか」
ぐいっと平士くんの腕を引き、私の方に引き寄せる。
首に腕を回して抱きしめれば、平士くんも恐る恐る抱きしめ返してくれた。
現実世界じゃ、こんなこと絶対にできない。
少なくとも平士くんが能力を持っているうちは。
「これは夢、だからね」
「光希?」
「そろそろ目覚めの時間みたい。またね、平士くん」