魔女は快眠を望む
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あれから各々、考えた解決策を実施していた。
こはるちゃんは積極的に正宗くんに話しかけて、避けられたりスルーされたりしたときに感じた悲しさや寂しさを正直に打ち明けている。
予想通り、正宗くんは優しいから、こはるちゃんのそういう気持ちを無視できず、少しずつ態度が柔らかくなっていると、こはるちゃんが嬉しそうに報告してくれた。
「朔也!」
深琴ちゃんも、朔也くんを避けるのはやめて、最近では2人でいるところをよく見かける。
以前より、深琴ちゃんの思い詰めたような表情は見かけなくなった。
「おい不知火、お前どこまでついてくる気だ?」
「宿吏さんが困ったときは、私がいつでも助けられるように傍にいる」
七海ちゃんも、暁人くんとよく一緒にいる。
私が来たばかりの頃の2人なら、暁人くんが七海ちゃんに強く当たって関係が壊れていたかもしれないけど、今の暁人くんは七海ちゃんにキツく接することはなくなった。
実際、七海ちゃんがあれだけ付き纏っても、暁人くんは一度も攻撃的に追い払ったことはない。
「このままみんな上手くいけばいいなあ」
「なんかこの間までみんな思い詰めてたけど、最近元気になったなーって思ってたら、光希のおかげだったのか?」
ベンチでボーッとしながら辺りを眺めていた私に、平士くんが話しかけてくる。
彼は精神感応力を持っているから、尚さら暗い空気を感じ取っていたのだろう。
「私のおかげってわけじゃないよ。みんなが頑張ってるの。……お互いを大事にできるように」
「大事にできるように……そうだな」
そういえば、平士くんは七海ちゃんと親しかったけれど、そういった気持ちはないんだろうか。
暁人くんと仲良くしている七海ちゃんを見て、嫌な気持ちになったりしないかな。
「あの……」
「ん?」
「七海ちゃんと暁人くんのこと、どう思う?」
「どう、って?最近仲良くなったよな」
「うん、そうなんだけど、」
「あ!あの2人、なんかワケありっぽいなってことか?」
「それはそうだけど、その、七海ちゃんと暁人くんの関係っていうか、仲良いことに対して、感想?みたいな……」
「感想?うーん……よかった!」
平士くんは切なそうな顔をするでもなく、本当に満足そうに話す。
「あの2人、この船に乗って来てからずっとピリピリしてたから、最近は仲良く話してることが多くて、俺も嬉しい!」
「……そう、そうね」
平士くん、七海ちゃんも暁人くんも、本当に大切な友達だと思ってるのね。
「……」
なんだか、ホッとした。
……ホッとした?
「何かあったか?」
平士くんは能力を使わなくても、人の機微に敏感だ。
ただそれを積極的に口に出さないだけで、たぶんみんなの暗い空気も下手に口を突っ込まないようにしようって気を使ったんだろう。
「ううん。何でもない」
さっきの安堵感。
私は以前も味わったことがある。
いつのことだったか、もう覚えていないくらい昔、同じような安堵感を覚えたことがある。
……初めて恋をしたときだ。
「平士くん、ちょっと小腹空かない?」
「おお!空いた!」
この気持ちを確信するためにも、もっと平士くんと一緒に過ごしてみよう。
記憶を消しちゃってから、ちょっと避けてたし。
「食堂行こっか」
私はウキウキの平士くんを連れて、食堂に向かった。
「平士くんもちょっと手伝ってね」
「光希お菓子作れんのか!?」
「簡単なのだけだけどね〜。クッキーにしようかな、みんなも食べれるように3種類くらい味作ろう!」
「お〜!」
私は平士くんに指示を出しながらせっせとクッキーを作った。
プレーンと、チョコチップと、野菜クッキー。
街に降りたときに、千里くんのドアの部品ついでにお菓子の材料を買っておいてよかった。
あの時はお菓子作りどころじゃなくてすっかり忘れてたけど。
「平士くん、型抜きできた?」
「お〜!こんな感じか?」
平士くんはやっぱり、余計なものを入れたがるだけで、料理ができないわけではないようだ。
私の指示通りにきちんと動くことができるし、型抜きも丁寧にできている。
「よし!じゃあ早速焼いていこう」
オーブンからだんだん漂ってくるいい匂いに、うっとりしてくる。
食事は必須ではないけど、やっぱり美味しいものは好きだから。
「いい匂いだなー!」
「だね〜。なんかだんだん眠くなってきちゃったな……」
いい匂いと共に、眠気がくる。
最近眠りが浅かったからなあ……。
平士くんのことも、女の子たちのことも、気がかりなことが多くて……。
「後のクッキーは俺が焼いとくから、ちょっと寝ててもいいぞー」
「そう?じゃあ、少しだけ……」
私はキッチンを平士くんに任せて、食堂のテーブルでうつ伏せになって寝させてもらった。
自分の気持ちはだいたいわかった。これはもう恋だ。
自分のことを知られてしまって、焦って記憶を消しちゃったけど、平士くんは私の手に触れてからも、誰にも話したりしなかった。
私を忌み嫌ったりしなかった。
それどころか、能力とはいえ私に無断で感情を覗いてしまったことを、謝ってくれた。
理由もきっかけも色々あるけど、私は平士くんを好きになってしまった。
「……まあこれ以上考えても仕方ないしな」
私は平士くんの言葉に甘えて、少しだけ眠ることにした。