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魔女は快眠を望む

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あれから数日が経った。
平士くんは魔女の話をすることはなくなり、変わりなく過ごしている。
みんなもその地に伝わる伝統を聞いてはしゃいでいた程度にしか捉えていなかったから、別段追求することもなかった。
私が能力を使ったことも、誰にもバレていない。
変わったことと言えば……。

「……」

「……はぁ」

「……」

最近、女の子たちの様子がおかしい。
というか、全体的に空気が暗い。
深琴ちゃんは最近朔也くんと距離を置いているみたいだし、七海ちゃんはどことなく暁人くんとギクシャクしているし、こはるちゃんは正宗くんから一方的に距離を置かれている感じがする。

「ねえ、みんな最近どうしたの?なんだか浮かない表情だよ」

「……」

みんな私の部屋に集まってきたものの、俯いたまま、話し出せないでいる。
他の誰かが入ってくる可能性があるし、外へ音が漏れる可能性がある以上、気軽には話せないことなんだろう。

「……よし、みんなのために私がひと肌脱ぐわ」

私は部屋の扉に触れ、そのまま壁に沿わせて勢いよく手を払った。

「何してるの?」

「これで誰も中に入ってこれないし、外に音も漏れないよ」

「あなた……」

「ねえ、ここの4人でなら話し合えるんじゃない?一人で抱え込むのはよくないよ」

片手で茶器を操る。
みんなが落ち着けるように温かいお茶を出した。

「無理に全部話せとは言わないけど、誰かに相談したいからみんなここに来たんじゃない?」

ひとまずお茶を飲ませて落ち着かせる。
すると、こはるちゃんがおずおずと口を開き始めた。

「あの……、正宗さんのことなんですけど、」

それから次第に2人も口を開き始め、もちろん全てを曝け出して話したわけではないだろうけど、だいたい3人が何に悩んでいるのかはわかった。

「まとめると、こはるちゃんは何故か正宗くんに避けられてるけど、その理由を聞けなくて、深琴ちゃんは事情があって朔也くんと距離を置いてるけど、それが正しいことなのかわからなくて、七海ちゃんは暁人くんが何を考えているのかわからなくて戸惑ってる、ってことね」

「よくまとめたわね……」

「まあ、なんとなく事情はわかった。まず、こはるちゃん」

「は、はいっ」

「正宗くんはたぶん聞いてもはぐらかすから、真正面からは聞けないわね」

「そうね。なんでこはるを避けるのかはわからないけど、事情があるのでしょうし……」

「……」

「……気持ちだけ伝えておくのは?」

七海ちゃんが呟くような小さい声で言う。

「気持ち?」

「うん。距離を取られて感じた気持ちを遠矢さんに伝えるの」

「……いいかもしれない。こはるちゃんは素直に表現するのが上手だから、それを正宗くんに伝えてみるのがいいかも」

「気持ちを、素直に……」

「そう。もしかしたらそれでも距離を置かれるのは変わらないかもしれないけど、正宗くんはこはるちゃんの気持ちを無視するような人じゃないでしょ?」

「……わかりました。頑張ります!」

少しだけ、こはるちゃんの顔に活力が戻った。

「次は深琴ちゃんね。うーん……」

深琴ちゃんの場合、詳しい事情がわからないから難しい。

「ふわっとでもいいから、その事情っていうの聞かせてもらえない?」

「……」

深琴ちゃんは少し考え込んで、そうね……と呟いた。

「例えば、朔也が私といたら怪我をすることになる、とか……そういう感じよ」

「なるほど……」

することになる、ってことは、まだ起きていない……未来のことか。
それがわかったってことは、未来予知の能力者に忠言でもされたんだろう。
ただの事故による怪我なら、深琴ちゃんなら結界で守れるはず。
それでも怪我をしてしまうから深琴ちゃんが離れようとしてるってことは、深琴ちゃんの結界で防ぎきれない何かか、深琴ちゃんを庇って怪我をすることか……。

「深琴ちゃんが朔也くんの傍を離れたら、朔也くんは怪我しないの?」

「わからないわ……でも、可能性を低くすることはできるのよ」

「それ、朔也くんは知ってるの?」

「ええ」

「朔也くんは離れたいって言ってた?」

「……いいえ。朔也は……」

そこまで言って深琴ちゃんは奥歯を噛み締める。
これ以上は話せそうにないみたいだな。

「あの……」

こはるちゃんが不安そうな顔をしながらも手を挙げる。

「朔也さんは、怪我をしてでも、深琴ちゃんと一緒にいたいんじゃないでしょうか」

それを聞いて、七海ちゃんがハッとする。

「逆に言えば、深琴さんと一緒にいるためなら怪我も厭わない……」

その言葉に深琴ちゃんが少しだけ頬を赤く染めた。

「そういうことね!」

私は2人の話から一つの案にたどり着いた。

「どういうこと?」

「朔也くんに、もっと深琴ちゃんと一緒にいたいって思わせたらいいのよ」

「えっ?」

「今の朔也くんは、怪我してでもいいから深琴ちゃんと一緒にいたいっていう状態でしょ?でもそれだとこの先、大きい怪我をしたり、運が悪いと一緒にいられなくなっちゃうかもしれない」

「!」

「それなら、『どうなってもいいから一緒にいたい』じゃなくて『これからもずっと一緒に生きていきたい』っていう気持ちにさせたらいいんじゃない?」

「っ!」

深琴ちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。

「正直、端から見てても朔也くんは深琴ちゃんのことすごく大事にしてるのはわかるし、これから先今の気持ちのままだと、何かあったときに深琴ちゃんのこと庇って怪我したりとかしそうだし……」

「そ、……」

反論しようとして開いた口をそのまま閉じる深琴ちゃん。
自覚はあるようだ。

「だから、そうやって庇うような状況になったときにも、これから一緒に生きていくための選択を取らせるように気持ちを変えさせたらいいと思ったの!」

「……」

深琴ちゃんは少し考え込んで、覚悟を決めたように頷いた。

「……そうね、ありがとう。少し考えてみるわ」

「うん。……じゃあ、最後は七海ちゃんだね」

七海ちゃんの問題に関しては、暁人くんに直接確認した方が早いけど、彼の中でも整理がついていなさそうだし、何より七海ちゃんは暁人くんに聞く勇気はないだろう。

「困ったなあ、どうしたらいいんだろう……」

「……うーん」

みんなして頭を抱える。
暁人くんを私たちが問いただすわけにもいかないし、かといって七海ちゃんはこはるちゃんみたいに感情を上手く表現できるタイプじゃない。

「……引いてみるのはどうかしら」

深琴ちゃんが唸りながら出した結論だった。

「引く?」

「そう。あえてこっちから避けてみるのよ。暁人は今、どっちつかずな感じなんでしょう?それならこっちからキッパリ態度に出すのよ」

「……でも、宿吏さんは何も悪くないのに避けるのは……」

「七海をこれだけ悩ませて苦しませてるだけで十分悪いわ」

「……」

七海ちゃんと暁人くんの間には何か遺恨があるんだろうと思っていた。
なんとなく、七海ちゃんはいつも暁人くんには下手に出るし、暁人くんは七海ちゃんには当たりが強いから。
七海ちゃんは、自分が先に悪いことをしたから仕方ないと思っているのかもしれない。

「こう考えたらどうかな?今、もしかしたら暁人くんも七海ちゃんと同じように悩んでいるのかも」

「……」

「だから、七海ちゃんがその悩みにケリをつけさせてあげるの!」

「ケリ?」

「そう。暁人くんは今、七海ちゃんにどう接したらいいかわからなくなってるんだと思う。だから逆に七海ちゃんが距離を取って、暁人くんが考えを整理できるようにするの。もし距離を取るのが難しそうなら、引くんじゃなくて押すのもアリかもね」

「押すって?」

「うーん、例えば手作りのお菓子をプレゼントしてみたり、肩を揉んであげたり?とにかく関わっていってみる、って感じかな」

「……そっちの方が……」

やはり、七海ちゃんの中には、暁人くんを避けたりすることへの抵抗があるのね。

「無理のない範囲でね。それで七海ちゃんが疲れてたら意味ないから」

「……わかった」

3人の話を聞き合って、この日の女子会は終了した。
術を解いてドアを開けると、外にはなぜかみんなが集まっていた。

「!!」

みんなが一斉に安堵した表情になる。

「よ、良かったー!!」

平士くんがその場にしゃがみ込んだ。
それに続いて各チームのメンバーが女の子たちに駆け寄る。

「えっと、これはどういう状況?」

地面でうずくまっている平士くんに駆け寄り、支え起こしながら尋ねる。

「お前たちがいつまで経っても食堂に来ねーから呼びに来たら、光希の部屋のドアが開かなくて……すげー心配したんだぞ!」

「あー……。ちょっと大事な話をしてたから、誰にも入って来てほしくなくて」

「まあ無事だったからいいけどな!」

「みんなごめんね。次からはメモとか……状況が分かるものをドアに貼っておくようにする」

「……ごめんなさい」

思わず話し込んでしまっていたようだ。
こんな大事になるはずじゃなかったんだけど……。

「次からは気をつけてくれよ」

正宗くんは苦笑いしている。
このちょっとした心配をかける行為が功を奏したのか、ギクシャクしていたはずの正宗くんはこはるちゃんの頭を撫でているし、ここしばらく話していなかったはずだが深琴ちゃんから朔也くんに謝って事情を説明しているし、暁人くんは相変わらずそっぽを向いているけど、安堵した表情を隠せていない。
わかっていたことだけど、みんなお互いを嫌いっているから問題になっているわけじゃない。
お互いが大切で、大好きだから問題になっているんだ。

「……本の中くらいの話だと思ってたけど」

現実の人間も、悪いところばかりではないのだと改めて感じる。

「本?」

「ううん、なんでもない。じゃあ、お待たせしてしまったし、早くご飯を食べようか!」

この調子なら、問題が解決するのにそう時間はかからないかもしれない。
そう思いながら私たちは食堂に向かった。
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