魔女は快眠を望む
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街から戻ってきて、平士くんは店主さんに聞いた魔女の話を船にいる何人かにしたみたいだ。
あんまり覚えてないんだよなーと言いながらも、別嬪な魔女だったと褒め称えながら。
「平士くん、その話本当に気に入ったんだね」
「おう!なんかわかんねーけど、この魔女には幸せになってほしいなって思うんだ」
「えー?なんか、絵本に出てきた青年みたいなこと言うね。呪われちゃうかもよ?」
「そんなこと言うなよー!」
平士くんはあの時のやりとりをすっかり忘れている。
だが、彼の中で辻褄は合っているし、周りとのズレもないから誰も気づいていない。
あの時彼と2人きりで一緒にいた私しか、彼の忘れたことには気づけない。
「久しぶりの外はどうだった?」
「七海ちゃん!うん、買い物とかするの久しぶりで楽しかったよ。平士くんも一緒だったし、1人じゃなかったからもっと楽しかったのかも」
「お前、街についた時へばってたくせによく言うぜ」
いつの間にか後ろに来ていた暁人くんにため息を吐かれる。
「あ、あれはだって……地に足つけて走ったの久しぶりで」
そう言いながら私は今船の中だからと浮いてしまっている。
暁人くんにジロリと見られて、地に足を下ろした。
「うー、長年浮いてばっかりだと、ちょっと重力がかかるだけでもすごく疲れるんだよ」
「あ!俺いいこと思いついた!」
「平士くん?」
「じゃあ時々下りるようにしてさ、慣れるまでは俺の肩掴んでていいぜ!」
「本当?うーん……それなら、少しずつ地に足つけるようにしようかな」
「おい乙丸、あんまり甘やかすなよ」
「……宿吏さんは厳しすぎる」
「ああ?不知火、なんか言ったか?」
「何も言ってない」
私は平士くんの言葉に甘えて、体を下ろし、支えてもらった。
「そう言えばお前、そんな手袋してたっけ?」
「これ?街で買ったの。ちょっと日焼けが気になってきたから、足もタイツを履くようにしたんだよー」
正確には、私が様々な物を調合して作った特注品。
平士くんにこれ以上感情が流れていってしまわないようにするためだ。
暑くならないように通気性も考えて制作し、制服のインナーも首まであるものにした。
これで、私の顔に触れない限りは大丈夫だろう。
「そうなのかぁ」
「暑そうだな」
暁人くんが眉を潜める。
「大丈夫だよ、結構通気性もあって涼しいの。付けてみる?」
暁人くんに貸してあげると、付けてる感じがしない……と驚いていた。
「正宗くんの手袋の方が暑そう」
「これか?そうでもないよ」
「そういえば正宗もずっと手袋してるよなー」
「正宗くんも日焼け対策?」
「うーん、まあそんなところだな」
精神感応力は平士くんだし、手を隠すってことは記憶操作か、過去視……?
記憶操作は七海ちゃんだろうと思ってたけど、どっちなんだろう。
「手袋仲間だね」
「はは、そうだな」
この手袋、効果は絶大だった。
平士くんと手が触れても、以前のように弾かれることはなかった。
「なんか最近、お前に触れても何も感じなくなったな」
突然の言葉に目を瞬かせる。
「前は何か感じてたの?」
「おう。なんかこう、バーッと色んな感情が流れ込んでくる感じ……?手袋してるからかなぁ」
「どうだろう?気のせいだったんじゃない?」
「うーん……」
平士くんは違和感を感じているみたいだったけど、気のせいレベルで流してしまえるくらいだ。
精神感応力に過去を覗く力はなかったはずだけど、私の感情から操作した記憶が戻ってしまったら面倒だ。
「買い出ししてきた荷物を置きに行こう。私の運動に付き合わせちゃってごめんね」
いつもなら飛んですぐに置きに行けるけど、少しずつ地上に慣れるようにすると宣言した手前、いきなり飛んでしまうのはよくない。
「気にすんなって!」
平士くんはパッと明るく切り替えて、私を支えながら荷物も半分持ってくれた。