魔女は快眠を望む
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船での生活は、とても快適だった。
森の中で自給自足をしていた私にとって畑仕事も料理も掃除も苦ではないから。
ただ難点をあげるとすれば、集団行動をしなければならないということだ。
「光希、力を使いすぎよ」
「えっ」
「あなたがその力で全てやってしまったら、私たちの仕事がなくなるじゃない。不公平だわ」
「光希ちゃんの力でサッと終わるのは確かに楽だけど、負担がかかりすぎるのも良くないよね」
「そ、そんなにやりすぎた……?」
空気中の水分を利用しながら水やりをして、畑の土から雑草を摘み出す……くらい。
「担当範囲を決めるのはどうだろう?そうしたら光希さんが力を使っても、僕たちの仕事は減らないし」
「いいわね、そうしましょう」
「朔ちゃんに賛成」
「みんながそう言うなら……」
まだ、集団での加減がわからない。
今まで1人で何でもやってきたから、役割を振り分ける……というのに慣れていない。
「さあ、畑仕事が終わったら、厨房の様子を見に行きましょうか」
「うん!」
朔也くんと一月くんは何やら用事があるとかで別れ、私は深琴ちゃんと一緒に厨房に向かった。
自分の仕事が終われば、自由にしていいというのがこの船でのルールらしい。
「今日は七海ちゃんたちが当番なんだよね?」
「そうね。大変なことになっていないといいけど……」
「?」
食堂に入った時、深琴ちゃんの言っていた意味がわかった。
森にあった薬草と同じ匂いがする。
厨房に近づくと、何だか鼻につく匂いもし始めた。
「何を作ってるの?」
「おお、光希!」
「おいお前ら、こいつらを厨房から摘み出せ!」
何があったのかと厨房の中を覗き込む。
「そ、その薬草……!」
七海ちゃんが手にもち、今まさに鍋に入れてしまった薬草は、私が以前暮らしていた森でも見かけた、『栄養価はとても高いがどんなに美味しい料理でも不味くしてしまう』と自分でノートに記したものだった。
「光希さんこの薬草を知ってるの?」
「え、ええ。私も以前料理に使ったことがあるから……」
味は無視して、とにかく少量で必要なエネルギーを得ることができる食事を目指していた頃の話だ。
「それ……入れちゃった、の?」
「不知火!だから何でてめえはそんなわけわかんねえ薬草を入れたがんだよ」
「む、わけわかんない薬草じゃない。これはうちで代々引き継がれてきた、栄養満点の薬草」
「よーし七海ちゃん、それちょっと味見してみようか!」
私は七海ちゃんが薬草を入れてしまったスープを少し掬い取り、小皿に移して七海ちゃんに渡す。
「!」
少し口に含んだ七海ちゃんの顔がみるみる青くなっていく。
「良薬口に苦しとはよく言ったもんだよね……」
私も少し口に入れてみたけど、やはり飲めたものではない。
「……暁人くんも味見する?」
「不味いってわかってるもんを食えるかよ」
元はきっと美味しかったのだろうに、この薬草独特の苦味が全ての味を殺してしまっている。
「飯の時間まであと1時間もねえぞ。……仕方ねえ、新しく作り直すか」
「待って。これ、私に任せてくれない?」
「ちょっと光希、あなた料理なんてできるの?」
「まあね。これでも一人暮らしが長いから」
「これがどうにかなんのか……?」
「美味しくはないかもしれないけど、マシな味にはなるよ」
私は宙を指でタップする。
すると指先に私がこれまでに書き記してきた料理ノートがポンっと現れる。
「!」
スイッと指を宙で動かすと、次々にページがめくられ、私が求めていたページで止まる。
「これこれ!」
私は書かれているレシピに沿って別の薬草を加えていく。
煮詰めて混ぜて……。
せっせと作業をしているうちにもうご飯まであと10分だ。
「味見!」
パチンと指を鳴らし、小皿とお玉を用意する。
飲んでみると、先ほどまでの苦味は消え、普通レベルの味に戻っていた。
「七海ちゃん、飲んでみて」
「……」
少し渋る表情を見せたが、私から小皿を受け取って意を決して飲む。
「!美味しくなってる……」
横で別の料理をしていた暁人くんも寄ってきて、味見をする。
「お前……」
「?」
「天才か!?」
「口にあってよかった!」
「乙丸が余計な調味料加えた方は俺が何とかしたから、これで飯はこのまま出せるな!」
どうやら七海ちゃんの班は、七海ちゃんを含めて2人、料理に関する爆弾を抱えているようだ。
「まあ、色んな薬草とか入れちゃったせいで、本来の薬草の栄養価は半分くらいになっちゃってるんだけどね」
私はノートを閉じる。
「よかったらこのノート参考にして。栄養をとりたいときに良い薬草の組み合わせとかも書いてあるから」
「マジで何者なんだよ……」
「森暮らしが長かったから……」
あはは、と笑って誤魔化す。
すると平士くんは目をキラキラさせながらこちらを見てくる。
「ど、どうしたの?」
「森暮らしかあ……!なあ、森で暮らすのってどんな感じなんだ!?」
「どんなって……、うーん、自然に囲まれてる感じ……?」
「いやそりゃそうだろ」
暁人くんが配膳しながらツッコミを入れてくる。
でも正直、これ以外の感想はあんまりないし……。
「やっぱり光希はすげー奴だな!」
平士くんがガシッと私の手を掴む。
「っ?」
その瞬間、パッと私の手を離し、平士くんは私と2,3歩距離をとる。
「?」
「??」
突然距離を取られた私よりも、平士くんの方がびっくりしていた。
「乙丸?どうかしたのか?」
「いや……」
平士くんは自分の両手を見つめる。
つられて私も自分の両手を見つめてみた。
静電気か何かだろうか。
「さて!」
とりあえずこの妙な空気を変えようと、手を叩く。
「早くご飯を並べちゃお!」
「お、おう!」
平士くんはよく分からないまま、その後何事もなくご飯を食べ、それからはいつも通りになっていた。